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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
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49. 少年と少女と竜(2)

 ここに獣人がいる筈がない。


 万一いたとしても、それがナギと一緒にいるのは、大問題だ。



 少女は限界と思える程に目を見開いて、少年と、その手に中にいる小さな生き物を見つめていた。



「ミルがここに来た、次の日に生まれたんだ。」

「ナギ……⁈」


 少女に秘密を告げる少年の表情に、緊張がにじんでいる。



  ――――――――――――まさかナギが卵を⁈



「―――――――――――――竜人の赤ちゃん、だと………竜人だと思う。人の姿は、まだ一度も見ていないんだけど。」

「ナギ……!」



 ミルは震えていたと思う。



 言葉が出なかった。



 この時ミルは、自分が知っているあらゆる生き物を思い返していた。



 だけどこの小さな生き物に一番姿が近いのはやっぱり、伝説と謳われる、絵でしか姿を見たことのない、あの生き物だった。



  でもこんなに小さいなんて……!



 以前に一度だけ、ミルは蝶のような姿をした獣人が空を飛んで行くのを見たことがある。合いの子の獣人は、王都のほかには、国境付近に多いものだった。


 種族によって違いがあるのかもしれないけれど、あの巨大な獣人の赤ちゃんがこんなに小さいなんて、想像もしたことがない。



たっ!」

「えっ!」

「ラスタ?!」

「ナギ!!」



 突然だった。


 ラスタがナギの手を突っついて、飛び上がった。


 ミルにとっては、なかなかの衝撃である―――――――――――実際に突つかれたのはナギとは言え、なにせ「竜に攻撃された」のだ。心臓がばくばくする。


 

 ぱたぱたぱた………



 小さな竜は、水と雑穀が隠してある辺りの、干し草の上に降りて止まった。


 ナギも驚いた様子だった。


「ごめん、ラスタが僕以外の人間を見るのは初めてだから、多分警戒してるんだ。ラスタ、怖がらせてごめん、大丈夫だよ。」


 少年が竜に呼び掛けた。


 だが体はこちらを向いているのに、黒竜の顔はあらぬ方向を向いていて、少年達とは目を合わせてくれなかった。



「ナギ!!」

「いつもは凄く甘えてくるんだけど―――――――――ラスタ?」


 ナギは戸惑い顔でもう一度竜に呼びかけたが、青い瞳は、やっぱりこちらを向かなかった。やむなくナギは、そのまま話を接いだ。彼らには時間がなかった。


「ラスタ、この子はミルだよ。ミルと僕の前でだけは隠れなくていいからね。ミルのことを、覚えて欲しい。」



 驚く程に小さな竜と、その竜に真剣な表情で語り掛けるナギの横顔を、声もなくミルは見つめていた。



 いつもと違うラスタの様子は気になったが、ナギはここに長くとどまっている訳にはいかなかった。


 もう引き揚げなければならない。



「ラスタ、ごめん、もう行かないと。」


 するとその言葉にようやく、黒い竜の瞳はナギに向いた。

 とても心の整理が付けられなかったが、もう戻らなければならないことはミルにも分かる。


「また夕方に迎えに来るからね。」


 やっと目を合わせてくれたラスタに微笑んでそう伝え、ナギはきびすを返した。



 ナギの後ろに続きながら、ミルの心臓は激しく打っていた。息もし辛かった。


 ここに獣人が―――――――竜がいるなんて、自分の目で見てなお、信じることが出来ない。


 でも今ミルの胸が苦しい一番の理由は、ナギの身が心配だからだった。



 言葉も出ないミルの前で、ナギは納屋の扉を小さく開けると、一度自分だけ外に出た。そして周囲の様子を窺ってから、少年はミルを呼んだ。


 促されて扉を出る時、ミルはちらりと後ろを振り返った。


 小さな竜が同じ場所に止まったまま、出て行く二人を見つめている。






 もしかして、と思いながらミルは納屋の外へ出た。









  竜の赤ちゃんは、焼きもちを焼いているんじゃないだろうか。








 それからナギとミルは一緒に卵を回収し、台所には別々に帰った。


 ミルに先に帰るようにと告げたあと、最後にナギは大切な話をした。


 少女を緊張させる程、その時のナギの声と表情は真剣だった。



「ミル。僕はまだラスタの不思議な力を見たことがなくて、人になった所も見たことがない。だけどラスタは、いつか僕達を助けてくれるかもしれない。でももしその前にラスタが見つかってしまった時は、ミルは何も知らなかったふりをするんだよ。」


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