48. 少年と少女と竜
薄っすらと明るい空間は、ひんやりとして静まり返っていた。
大きく広い納屋には干し草とその匂いが満ちていて、屋根に雨粒が落ちる音だけがぱらぱらと聞こえていた。
ラスタの姿は見えなかった。
ナギはそっと、手にした桶を地面に置いた。餌やりだけ先に済ませて来たので、桶はもう空だ。
「―――――――――――――――ラスタ。」
少しだけ強張った声で、ナギは呼びかけた。
羽音がしない。
眠っているんだろうか。
干し草の山に近付き、ナギは隠してある水と雑穀を覗き込んだ。
そこにも、ラスタの姿はなかった。
ナギが夕方に戻って来た時は、ラスタはいつも文字通り「飛び寄って」来るのに。
積み上げられた草の山を見上げて、ナギはもう一度小さな竜の名を呼んだ。
「―――――――――――――――ラスタ。」
「光」と繰り返しているナギは何かに呼びかけているように見え、戸惑いながら、ミルは干し草の山を見上げた。
ここに何かいるのだろうか。
でも物音ひとつしない。
ラスタがこんなに完全に気配を消すことを知って、ナギは少々驚いていた。
まるで最初の日の、あの夜のようだ。
でもラスタがナギから隠れたのは、あの一度きりだった。
小さな竜がこれまで見つからずにいてくれたのは、昼間はこうして過ごしているから?
それともまさか、昼間は納屋を抜け出している?
幾つかの考えがナギの心をよぎったが、ラスタが気配を消しているのだとしたら、一番可能性が高い理由はやっぱり、ミルが一緒にいるからだと思った。
「ラスタ。隠れなくていいよ。この子は僕の仲間の、ヤナ人なんだ。出て来て。」
もう一度静かに、少年は相棒に向かって呼びかけた。
そして。
ぱた。ぱたた………
僅かな音がして、少女は干し草を見やり、少年は両手を宙に差し伸ばした。
壁や屋根の隙間から降り注ぐ微かな光の中で、小さな生き物は、少年を目指して飛んでいた。
小鳥―――――――――――――――?でも、何か違う。
ミルの目の前で、その小さな生き物は少年の手の中に降りた。
何も言わずに、ナギは自分の両手を差し出すようにして、伝説をミルに対面させてくれた。
煌めいている青い瞳。尖った口と耳。細く長い指と、鋭い鉤爪を持つ手足。長い尾。輝くような漆黒の小さな体には、体毛はなかった。
「えっ………」
そう言ったきり、ミルは絶句した。
済みません、短めの滑り込み更新です………。




