42. ナギと竜(2)
鶏小屋の掃除と餌やりまでを、昨日と同じ要領で大急ぎで終わらせた。
赤ちゃん竜は、どこまで分かっているんだろう。
まだ一日一緒に過ごしただけだけれど、やっぱり、竜の赤ちゃんは物凄く賢い気がした。
小さな竜は昨日と同じように外を移動する時はナギの胸許に入り、牛小屋に戻った時は機嫌よく飛び回った――――――――――――まるでルールを、一日で覚えたかのように。
賢くて、愛らしい。
昨日は納屋でずっと飛ぶ練習をしてたんだろうかと思う程、黒竜はたった一日で、飛ぶのも凄く上手になっていた。
一緒にいると、自然と笑顔がこぼれた。
毎朝のたった一人の過酷な時間が、今は竜と一緒に過ごせる、幸せな時間になっていた。
早朝の、僅か二時間で終わってしまう時間だけれど。
やはり昨日と同じように一度牛小屋に戻ると、ナギは手の上の竜をじっと見つめた。
――――――――――今のところ、まだ一度も人間になっていない。
そして排泄するところを、一度も見ていない。
昨日陽が落ちる寸前の納屋の中で、少しだけ排泄の跡を探したけれど、見付けられなかった。
始末せずに放置しているといつか問題になりそうだから、排泄物の形状とか量とか、ちゃんと把握しておきたいのだが。
今日も時間切れだ。
やっぱり赤ちゃん竜を連れて行くことは出来ないし、そうなると竜を隠しておける場所はやはり煉瓦の納屋か、干し草の納屋のどちらかしかない。
「もう行かないと。」
青い瞳を見つめてそう言うと、小さな竜は、少しだけ固い表情をした。
雑穀と水を持ち、竜を連れ、ナギは干し草の納屋へと移動した。
ナギが干し草の間に桶と木の椀を隠している間、黒竜はナギの胸でじっとしていた。
もしかしたら嫌がって、言うことをきいてくれないかもしれない。
ナギは内心恐れていたが、首許に右手を近付けると、竜はナギの手には掴まらず自分から外に這い出して翼を広げ、ぱたぱたと干し草の上に舞い降りた。
分かってくれているのだろうか。
それとも、捕まるまいとしているのだろうか。
固唾を呑んで、ナギは小さな竜に尋ねた。
「ここで待っててくれる?」




