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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第一章 少年と竜
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32. 限界の勝負

 書庫は扉を入って左右の突き当りが、壁面一杯の大きな書棚になっている。そしてその壁付けの二つの書棚の間に、幾つもの棚が平行に並んでいた。


 壁付けの両端以外の棚は高さも幅も色々で統一性がなく、物置きを思わせる雑然とした感じは、棚が不揃いであるせいも大きかった。


 奥の窓に近い辺りには、一応十人くらいが座れそうなテーブルと椅子も置かれているが、二つの窓と重なる位置にも棚があるせいで、室内は薄暗い。



  どの棚から―――――――――――――



 目的の本は、最初に手を付けた棚からいきなり見つかる可能性もあるし、その逆もあり得る。どこから捜し始めるかで、運命は大きく変わってしまう。


 以前にこの部屋を整理した記憶の中から、役立ちそうな情報をナギは掘り起こした。



  ここにあるのは多分、ブワイエ家の歴代の蔵書だ。



 収拾がつかない程の所蔵量になっているのはおそらくそのせいで、本を整頓した時、棚から引き出すだけで壊れてしまいそうな、明らかな年代物も少なくなかった。

 それどころか収蔵品には巻物や羊皮紙まで含まれていて、ブワイエ家がそれなりに歴史のある家であることが窺い知れた。



『昔読んだ本が必要になった』―――――――――――――――



 ブワイエ家の一番若い世代であるハンネスが読んだ本なら、多分、比較的新しい本だ。


 ハンネスが嘘をついていないなら、の話だが、それは確かめようがないので、本当だと考えて動くしかない。



 棚の不揃いは新しい棚が後から運び込まれ続けたからのようで、見た目で古さがはっきりと分かる棚もあり、棚の中味と棚の時代は、おおよそ一致して見えた。



「新しい棚から。」

掠れ声で呟き、ナギはある程度的を絞った。



 もう一つ、床に積まれている本のことも考えなければならない。


 単純に考えるなら、棚に入りきらなくなって床に置かれ出したのだろうから、床に積まれている本は、より新しい可能性が高い。



 だから一番最初は、床に置かれている本から始めた方がいい。


 ただ、ナギ自身が一度整理したために、床から棚に移動してしまった本も随分ある。


 そこはもう、運だった。



 最初に手を付ける場所を決めてから、ナギは渡されたメモに目を落とした。




 読めない文字を記憶するのは、難しい。




 数秒考えて、ナギはまず、文字の数を数えた。


 それから、輪っか状など特徴的な文字をいくつか見付け出して、その文字が何番目に来るのか、位置を覚えた。



  ハンネスが、タイトルを間違っている可能性――――――――――

  このメモは、完璧に正しいんだろうか。



 そんな不安がまた胸をよぎったが、それも考えても仕方がなかった。




 そうして方針を定めると、足を引き摺るようにして、少年は立ち上がった。




  ――――――――――――――必ず見付け出す。




 ほとんど勘でしかなかったが、一番新しそうに思える山からナギは手を付けた。


 その横に座ると、ぱっと見で明らかに短過ぎたり、長過ぎたりするタイトルの本を弾き出して、ナギは一つの山を二つに分けた。



  体に力が入らない。



 時々目が霞んだ。

 一冊の本を、持ち上げるのも辛かった。



  死ぬ気でやりきる………!



 歯を喰いしばって、ナギは作業を続けた。



 ひんやりとした薄暗い書庫の床に座り込み、十の山を二十に分けた所で、ナギは一度手を止めた。

 「当たり」の可能性のある方の山を、この辺りで一度チェックしておこうと思った。



 もの凄く運がよければ、この中から見つかるかもしれない。



 ナギは今度は候補の山の中から本を手に取り、一冊一冊、しっかりとタイトルを見て、目印に定めた特徴的な文字を探した。



「…………」



 そこで問題に突き当たって、少年は気が遠くなりかけた。



  これは、思っていたより難しい。



 多くの本がタイトルの文字を、様々に飾っていた。


 その文字を知らない者は、そこから本来の文字の形に結び付けられない。


 手書きのメモとの照合が難しいのだ。



 かなりじっくり見ないと、判定できない。



 二十の山を作るのはあっと言う間だったのに、そこからたちまち捜索の速度は落ちた。



  どのくらいで見つけられるだろう。



 遅々として進まない作業で、意識が遠のきそうになるのをこらえる。

 焦りがあった。



 冬の一日は短い。



 牛小屋の牛達は、今館の西の丘陵に連れ出されている。

 牛乳の売買の時、牛乳代を徴収する者と一緒にやって来る使用人がもう一人いて、その使用人が、牛を放牧地まで連れて行くのだ。



 その牛達が小屋に戻されるのが、冬場は早い。



 戻って来た牛達の乳をもう一度搾って、本当なら、ナギが夕食を貰えるのはそのあとだ。



  夕方の牛乳の取引。



  自分の食事。



 重要な時間が二つ、迫って来ていた。



 だが昨日きのうの夕食を食べてから、もう何時間経つのだろう。



 日が短く夜が長い冬はただでさえ夕食の時間が早いし、朝は目覚めた時から空腹だ。




 



 何も食べずに夜明け前から重労働を続けているナギの体は、限界だった。


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