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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第一章 少年と竜
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28. 領主の息子

 東を向いて建つ館の北端と南端に近い辺りには、それぞれ裏庭の方に突き出した、小さな棟がある。


 老いた使用人は、ナギをその北側の棟の方へと連れて行った。

 館のほとんどの場所にナギは足を踏み入れたことがないが、この場所には一度来た記憶があった。


 本棟から北棟へと廊下を折れると、白髪の男がやや慌てたように声を上げた。


「ハンネス様。」

「どれだけ待たせるんだ。」


 両開きの大きな扉の前で、領主の息子が苛々とした様子で、目を怒らせながら立っていた。

 ナギが以前にここに来た時に入った、それは同じ部屋の前だった。


「申し訳ございません。この者の足が遅くて。」


 あるじに怒りの言葉をぶつけられた老使用人は、首を巡らせて後ろを見やると、少年を睨み付けた。

 同調するように、ハンネスの腹立たしげな視線もナギの方を向く。


 金褐色の髪のこの息子は、弟共々もう20歳をとうに超えていそうな年齢としに見えた。

 ぼんやりとしたイメージでしかなかったが、この館に来るまで、ナギはどの国でも上流階級の家の、特に長男などは、家同士の取り決めで早々に結婚するものなのかと思っていた。

 だがブワイエ家の兄弟にはどちらにも、未だにその気配がなかった。


 ハンネスは、今にも怒鳴り出しそうだった。


 ブワイエ一家は全員似たり寄ったりの残忍な性格をしていたが、特に長男のハンネスは、ナギの姿を見ると理由もなく小突いたりして、大怪我をさせない程度に少年を痛めつけ、楽しむような所があった。



 心の中で、ナギは覚悟を整えた。



  どんなことがあっても。耐え切って夕方を迎える。




 ナギの頬を見た領主の息子は、「ふん」と見下すように小さく鼻を鳴らした。ハンネスは、ナギが当然の制裁を受けたのだろうと考えたらしい。

「よくも卵を割りやがって。」

 不快気に、そう吐き捨てた。


「卵を割ったのは自分じゃありません。」

「えっ。」


 思わぬところで直訴する機会が訪れた。

 

 虚偽を貫く理由もないので、ナギはただ単純に事実を述べた。


「ジェイコブです。」


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