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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第一章 少年と竜
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21. 二人の希望と絶望

 この先自分が置かれるのだろう境遇を知ったら、ミルは絶望してしまうのではないだろうか。


 数瞬、ナギは言葉に迷った。


 いずれ分かることとは言え、それは今日ではない方がいい――――――――――そう思い、ナギは今は事実の全部は告げないことにした。


「――――――――――館の外の小屋だよ。」

「――――――――――体が治ったら、わたしもそこに?」


 ミルが真剣な表情で更に尋ねてきた時、複数の理由で、少年は少しだけ動揺した。


「――――――――――分からない。ここの奴隷はずっと僕だけで、女の子の奴隷はいたことがないから。」


 ミルは小さく目をみはり、ナギを見やった。



 たった一人で、ナギは三年をここで耐えきった――――――――――



 ナギのその言葉は、ミルの心の中に絶望と希望の両方を、複雑に折り重ねた。



 少しの間視線を合わせ、二人は互いを見つめた。

 それからミルは、黙ってうなずいた。



 三年を、一人で耐えてきたナギ――――――――――――――

 ナギとくぐって行きたいと、ミルは思った。



 二人分に増えた、希望と絶望を。




 それからしばらく、故意に見えない程度に、二人はゆっくり床を片づけた。

 彼らの会話は何度も女中に聞き咎められて、何度も遮られた。

 それでもその目を盗むようにして、ナギとミルは、囁くように、短い言葉を幾度も交わした。


 限られた時間の中で、互いに少しでも多くを知ろうとしていた。



 だがそれも、いつまでもは続かなかった。


 とうとう女中が、ヒステリックに二人を怒鳴りつけた。


「気持ちの悪い言葉でこれ以上喋るんじゃないわよ!!」


 さすがに潮時のようだ。


 この時のミルとの会話で、女中もナギも、初めて気付いたことがある。


 虐げている奴隷達に、知らない言葉で会話されることは使役者にとって、不気味で、恐ろしいことなのだ。

 ――――――――ミルを買った時、へルネスも、そこまで考えていなかったのではないだろうか。



  ミルと会わせて貰えなくなったらいけない。



 館の人間を緊張させるのは、得策ではない。


「椅子に戻って。」

 不安そうな表情をしたミルに小声でそう伝え、貴重だった時間を遂に切り上げて、ナギはようやく立ち上がった。


 割れた卵の始末を含めて、これ以上の掃除には、物置きにあるモップや雑巾が必要だ。

 ミルが自分の作業に戻るのを見届け、食べられそうな物を回収した皿と盆を調理台に置いてから、ナギは一人で物置きに向かった。



 館の台所の物置きは、昨日きのう初めて目にした使用人部屋より大きい。掃除道具の他に、油や洗剤や鍋といった物が、乱雑に詰め込まれている。


 中に入ると、ナギはそこで少しだけ息を整えた。



 納屋と牛小屋では、今頃何が起こっているのだろう。



 息も苦しくなるような緊張を感じたが、まだ何かの騒ぎが起きている気配はなかった。




 少年奴隷がモップやバケツを持って台所に戻ると、ジェイコブが帰って来ていた。



 調理台の上を見ると、朝食の皿は、盆ごとなくなっていた。



 ミルが張り裂けそうな程に目を見開いて、泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。


毎日ぎりぎり更新の闘い――――――――――


読んで下さった方、本当にありがとうございます!

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