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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第三章 獣人とひと
204/239

204. 反逆者たちの密会

◇ ◇ ◇

 「こちらへ」


 紺と金の制服を着た男に案内され、困惑しながら扉をくぐった男は、目にした相手にたじろぎ、思わず足を止めた。


 目の前に、異様な迫力のある恰幅のいい男が座っていた。男の後ろに、ガラス入りの窓と粗末な机がある。その机と対になっているのだろう椅子に男は座っていたが、男は机ではなくこちら側を向いていた。



「ゴウル=ゴルチエだ。」



 ズシン、と体に響く低い声にそう告げられる。

 圧迫感と違和感の両方が凄まじい。何も知らずに対面したとしても、本来こんな場所にいる筈のない人間だと分かっただろう。


 予めそう決められていたようで、室内外にいた制服の男達が無言で退がって行く。


 一緒にこの場から去りたい。


 ついそんな思いがよぎったものの、もちろんそんな訳にはいかない。処刑場に引き出された気分で背後で閉められる扉の音を聞きながら、部屋に通された男は一礼した。



「ヘルネス=ブワイエ様に早馬の使いを任されている者でございます。」



 言いながら男は、片膝を落としたくなった。


 処罰を受けるような時でもない限り、王族意外に片膝を付く「最上の礼」は行わないことになっているのだが、序列争いに負けた獣のように、本能的にそうしてしまいそうだった。


 ゴルチエ家が「王国のもう一つの王家」と呼ばれるのも当然だと改めて納得してしまう。


 ゴウルは、本当の王より王らしかった。


 ヘルネスからゴウルの容貌を伝えられてはいたが、男がゴウルに目通りするのは初めてだった。だが制服の護衛達の姿がなくとも、この男がゴルチエ家の当主であることを疑う気にはなれない。


 そもそもゴルチエ領は、領地の大きさも人口も経済規模も国家並みで、ゴルチエ領が国、ゴウルが国王と呼ばれていたとしてもおかしくなかった。大陸に、ゴルチエ領より小さく貧しい国は幾つもある。


 それだけに、わずかな供のみを伴って、粗末な部屋にいるゴウルの姿は異様に見えた。



「ゴルチエ家の当主から何か申し付けられた時はそちらを優先しろ。」


 そうヘルネスに指示されてはいたものの、まさかゴウルの方から駅にやって来るとは想像していなかった。自分が考えている以上に事態は緊迫しているようだ。



「使いご苦労である。中北部から次々と早馬が来ているが、何かあったのか。」



 本来国王より先に伝えられる筈のない用件を堂々と尋ねるゴウルに男は動揺したが、「ゴルチエ家優先」はヘルネスの指示でもある。


 おそらくどの使者も、携えている報せの内容は同じだ。既にゴルチエ領を通過した馬もいるようなので、自分が先を急ぐ必要性自体は高くはなかった。


「実はトラム・ロウの中流で、巨大な雲がおよそ一週間、同じ場所に留まり動かないという事件がございまして……」


 国王に伝える筈だった事件を、声を絞り出すようにして男は語った。周囲の部屋に人はいない様子だったが、これがまずいことだという認識はある。


 二人がいる場所は、駅の中の一室だった。食事すら出来るだけ馬上で済ませて、ほぼ休まずに駆け抜けるのが早馬の使者だが、何日も寝ずにいるのはさすがに不可能なので、駅には使者達が寝るための場所も用意されているものだった。ただ定期的な利用がある施設ではないので、どの駅でも部屋は粗末だ。使われることが滅多にないため、ブワイエ領では、神殿に駅の役割を兼ねさせている。


 この部屋では装飾性のない机と椅子が窓に寄せて置かれている以外は、窓を挟んで二台ずつ、計四台のベッドが愛想なく並べられているだけで、印象はどこの駅とも同じく、「殺風景」以外にない。椅子に背もたれがあるのは上等な方である。


 権力者の臭いが強烈にするゴウルの姿は、やはり異様としか言いようがない程、この部屋では浮いていた。


 体を圧する威圧感に声を詰まらせながら、使者の男は発生した大規模な災害について語った。時折「もう一つの王家」の当主が、低い声で質問を差し挟む。


 ゴウルの表情は最初から険しかったが、話が進むにつれ険しさは更に増した。まるで獰猛どうもうな獣を前にしているかのようで、もはやその目で見られるだけで、男は身がすくみそうだった。そのゴウルがやおら立ち上がった時には、男の体は恐怖でビクリと跳ねた。


 話が終わり立ち去ろうとしたゴウルは、用済みとばかりに無言で去ることを、辛うじて思い止まったらしい。


「ご苦労であった。娘は息災か?」

「――――――――――――――」


 今頃になって告げられた父親らしき言葉に、使いの男は冷や汗をかきながら一礼した。


 意外な思いがする。


 非常時とは言え、嫁いだばかりの娘のことを一言も尋ねぬのは、一般的に言えば奇妙ではある。

 だが貴族の家族関係は希薄なものだった。大きな家程子供の養育は養育係や使用人達に任せきりとなるので、親子間の情愛が乏しいことは珍しいことではない。ブワイエ家の家族仲は良好とまでは言えないかもしれないが、貴族の家庭にしては親密な方なのだ。


 新婚夫婦の問題を伝えるべきか。


すみません、今回も短めです……

週末に、もし出来たらもう一回投稿するかもしれません……

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