202. 家畜小屋の密会
あの日の再現を見るようだったが、あの日より今日の方が暗い。
灰色の世界に置かれた切り絵のような黒い影を、少年は見つめていた。
黒い服の女。
外から中へと、音もなく風が入り込む。
アメルダは。
少年が咄嗟に視線を走らせたその時。
強烈な家畜の臭いの中に、微かに香水の臭いが紛れ込んだ。
背後の闇の中に立つ主のために、黒い服の女が道を開ける。いつかと同じ、薄紫のゆったりとしたドレスを纏った花嫁がそこにいた。ただ春の始めだったあの時と違って、もう毛織は羽織っていない。
黒い服の女が扉を抑え、恭しく頭を垂れる。
カッ……
「……!」
コンクリートの床に靴音が響く。桶の一つを左手に提げ、もう一つの桶を右肩に担ぎ上げた姿のまま、少年は身を強張らせ、小屋へと入って来る女を見ていた。
ブワイエ家の人間が牛小屋に入って来ることなど、年に何度もなかったというのに。
見知らぬ訪問者に、牛達が少しだけ落ち着きを失う。
青銅の瞳がさっと動いて、高い位置にある窓の上で一瞬だけ視線を止めた。
「閉めて頂戴。」
その言葉に心臓が凍り付く。
こんな所を誰かに見られたら、今度こそハンネスに殺されるんじゃないか。
ハンネスの怒り様はやや異常な程にも思えたが、奴隷の自分に対するアメルダの態度が、その怒りの原因であることは理解出来る。
タイミングが微妙で、先刻の鍵当番が二人の姿を見たのかは分からない。
ギィ……
主人とその夫の関係をどう考えているのか、黒い服の女が無表情に扉を閉めた。
色がようやく分かるようになってきたくらいの時間だったのに、扉が閉められると闇が二段も三段も深くなる。
再び落ちた闇の中で、少年は立ち尽くしていた。
花嫁と視線が合う。
何が起きようとしている?
多忙のため、今回物凄く短くなってしまいました……m(_ _;)m
もし出来ましたら明日もう一度更新します。スミマセン……




