188. 仲間達の手掛かり(2)
「……この家の息子の、婚約者の家じゃなかったか?」
初めてここに忍び込んだ夜にナギから聞いた家名を、ラスタは覚えていたらしい。困惑顔の竜人少女に、少年は頷いた。
「――――――――大きな領地だったから、商人が多いのかも。」
少女にそう応じると、ナギは先ずリストの住所を数えてみた。
……………十七……
十七件もある。
ろうそくの灯色に染まる紙を、食い入るようにナギは見つめた。
ナギには読めないが、何度も登場する文字の並びが「ゴルチエ領」であるとするなら、そうでない住所は二つだけだった。確率的に言えばあの奴隷商人の拠点もゴルチエ領である可能性が高いのかもしれないが――――――――――それだけだ。
「『ダイス』じゃ分からない――――――――――――――――」
右の拳を額に押し当て、少年は呻くように呟いた。
あの男は、仲間からいつも「ダイス」と呼ばれていた。
それがただ「長」を意味しているだけのヴァルーダ語であるとナギが知ったのは、ブワイエ家に買われてかなりの月日が経ってからだ。
四年越しで見付けた手掛かりを前に、それが躓きになるなんて。
懸命に考える。肋骨がずきずきと痛んだ。
数秒の静寂――――――――――そして。
「―――――――ラスタ、リストの名前を読んで貰える?」
「分かった。」
少年から少女の手に紙片が渡る。
オレンジ色に照らされながら、小さな少女は静かに十七の名前を読み上げていった。
ナギは全神経を集中した。
望みは薄いと思いつつ、記憶の中の頭領以外の男達の名前とリストを照合していく。
だが一致する名前は一つもないまま、ラスタがリストを読み上げる声は途切れた。
「―――――――――――――――――――――――――」
他に今出来ることは、何がある?
「―――――――――――手紙を見てみる。」
「うむ。」
今やれそうなことがそれ以外に思い付けない。
身を低くして、ナギは再び棚の前へと移動した。ラスタが後に続く。どちらの表情も緊張で強張っていた。
先刻と同じ作業を繰り返し、やがて少年は二つの紙束を取り出した。
こちらも、だが希望は薄いと思う。
執務机の横に封筒の束を置くと、ナギは片方の蝶結びを解いた。
異国の文字が書かれた封筒。
真ん中と右下に住所と思しきものが書かれている。
一枚目の封筒をよけてみると、二枚目の封筒にも中央と右下に字が書かれていた。真ん中に大きく書かれている住所は同じだ。これが宛先で、ブワイエ家なのだろう。
ナギが手にした封筒は開封済みで、綺麗に切られた端から覗いてみると中身はなかった。
ラスタから聴いていた通りだ。「ほとんど全部空だ」と事前に聴かされている。
空封筒が取り置かれている理由は、多分ヤナと同じではないかと思う。
貴重な紙が、簡単に捨てられることはない。包装とか何かの芯材とか再利用されるのが当たり前で、これだけ大量の古紙がある家には、業者が引き取りにやって来ていてもおかしくない。実際払い下げるために、束にして纏めているのかもしれない。
四年前の封筒が、残っているとは思えない。量から言っても四年分には少な過ぎた。
でも可能性はゼロではない。
差出の領地名で弾き出せばいい。
ナギはすぐに自分のするべきことを思い定めた。見付け出さなければならない領地名はたった三つだ。ヴァルーダ文字が読めなくても出来る。一年前に似たようなことをしたし、あの時の方がずっと大変だった。
また短くて申し訳ないです。もし出来たら明日続きを投稿するかもしれません……(><;)




