187. 仲間達の手掛かり
ふいに二枚の紙がナギの目の高さに浮かび上がった。
古く変色した紙から真新しげな白い紙まで、金庫の下の段には色合いも大きさも異なるたくさんの紙があった。数十枚はありそうな紙の層から一番上の二枚が浮き上がり、薄暗いオレンジの灯の中に、揺らめく影を落とす。
「ナギ!その二枚目だ。」
「えっ」
少年が咄嗟に反応出来ずにいると、雑に二つ折りにされていた紙が空中で開いた。
読むことの出来ない異国の文字が、仄朱い闇の中で少年に対峙する。
読めない文字―――――――――――――でも。
その書式にナギは覚えがあった。
「……!」
我に返って左手を伸ばす。
すると待っていたかのようにその紙ははらりと少年の手に落ち、もう一枚の小さな紙は音もなく金庫へと戻った。
胸の前に手を引き寄せ、読めない文字を少年は見つめた。
何かの表だった。
一番上の真ん中に表題のような短い言葉が書かれていて、その下に四行ほどの文字の塊が幾つも並んでいる。
一定の規則性があるその書式をつい先刻、ナギはさんざん見ている。
竜人少女がぐいと身を乗り出して隣から少年の手元を覗き込む。
紙は二つ折りにされていたから、ラスタもしっかりと中身が読めていた訳ではないのだろう。
「住所……?」
呟いた少年を見上げた竜人の青い瞳には、驚きと緊張が宿っていた。
「―――――奴隷商人のリストだ。」
数瞬、時が止まった気がした。
見付け出した。
奴隷商人の住所。
小さな相棒を見つめる。
心臓がばくばくと鳴った。
希望と期待が溢れて胸が苦しい。
だが。
――――――――――――――――――――――『リスト』?
考えもしなかった事態だった。
この中のどれがあの奴隷商人なのか分からない。
いや、この中にあの男が含まれていない可能性だってある。
でも四年の年月を経て、ナギが初めて手にした仲間達の手掛かりだった。
どうやって見付ける。この中から。
あの商人の名前が含まれているのかどうかは、今考えても仕方がない。
必死に頭を巡らせた。
あの手紙の束の中にこのリストと一致する差出人がいるだろうか。
と。
「……ほとんどがゴルチエ領だな。」
竜人少女の言葉に、少年は目を瞠った。
リストを見直すと、確かに同じ文字の並びが繰り返し書かれている。
ゴルチエ領――――――――――――――――――
ハンネスの婚約者の家?
予想外だったが、不思議なことではないのかもしれない。
なぜブワイエ家と縁組が行われたのか奇異に思える程、あの領地は巨大だった。奴隷商人に限らず、商人がそこに拠点を構えるのは当然なのかもしれない。
思わぬ偶然に驚く。
ハンネスの挙式がもう一月後に迫っていた時だった。
すみません、今回はちょっと短めです……(><;)




