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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第三章 獣人とひと
174/239

174. 再び「初めての潜入」


 どこかで微かに水の流れる音がしていて、時折、夜の鳥達が鳴く低い声や高い声が聞こえた。

 初めて足を踏み入れるヴァルーダの村だったが、集落は真っ暗に近く、ほぼ何も見えない。


「あ……」


 はっと息を飲む。



 人間ひとがいる。



 暗闇に突然灯りが現れて、左から右へと動いて、またすぐに消えた。

 かなり遠かったように思えるが、ほかに何も見えないので距離感は掴めない。


「ラスタ――――――――――――今見てた?」

「うむ――――――――――――男がみちを渡ったな。結構遠いぞ。」


 「みちを渡った」―――――――――――――あかりがすぐに消えたのは建物の中に入ったのか、それとも建物の向こうのみちをまだ歩いているのか。


 竜人の少女に尋ねると、あどけない声が頭上から聞こえた。

 

「横(みち)に入って行った。そのあとはわたしにも遠くて見えないな。」


 

 「遠くて見えない」―――――――――――――つまりラスタが「物を透かして見える」距離の外だ。

 心臓を破りそうに速い鼓動を鎮めようと、静かに一度深呼吸すると、ナギは右手で胸を抑えた。



 予想していなかった訳ではなかったが集落に明かりはほとんどなく、村人達は寝静まっているようだった。

 畑仕事がある人間はこの時期はみんな朝が早い。夜更かしする人間は少ないだろうとは思っていた。


 だが同時にナギは、この時間に出歩く人間の存在も予想していた。


 初めて館に潜入したあの日、ハンネスは夜遅くに泥酔してどこかから帰って来た。

 酒場とか、夜遅くまでいている店がこの村にあるのかもしれないとも想像はしていた。今通った男もその店の客なのかもしれない。



 暗闇に動く光は目立つ。



 向こうもこちらのに気付いた可能性がある。



  怪しまれて人を呼ばれるかもしれない。



 あかりが去った辺りを、しばらく警戒しないといけないだろう。


 竜人の少女がナギの両肩に手を付いて身を乗り出しているせいで、マントのような金色の髪に少年は囲まれていた。少女がぱたぱたと楽し気に動かす足が背中に当たって、ちょっとだけ気持ちが和む。


 恐怖心を抑え込むと、ナギは改めて周囲を見渡した。



 高台から見た時、村の灯りはゼロではなかった。


 今ナギとラスタは、そのうちの一つの前に立っていた。


 大きな二枚扉が壁付けのランタンに照らされている。

 それ以外は闇の中だったが、朱色に浮かび上がる玄関ポーチと両開きの扉は、そこそこの規模の建物を想像させた。


 手に持つ灯りを掲げてみると、暗闇にふいに鉄柵が姿を現す。

 その瞬間まで気付いていなかったので少し驚いたが、この建物は、どうやら鉄柵に囲まれているらしい。


 両開きの扉は鉄柵からかなり奥まった場所にあり、広い前庭があるのだと分かる。



  ここがハンネスとアメルダの結婚式が行われた場所なのかもしれない。



 あれからひと月近く経っているが、麦畑の村人達は未だにその話で盛り上がっている。

 花や旗で飾られた式場前の広場で、菓子や酒が振る舞われたのだという話をナギは何度となく聞いていた。


 あかりを下げ、足元を照らす。


 館から村までの道は舗装されていなかったが、この周囲だけ石畳が敷かれている。

 「広場になっている」と、先刻さっきラスタが教えてくれていた。


 ほかに建物が見えないと思っていたが、ナギの持つ灯りが届いていないだけで、大きな建物が何軒も広場を囲んでいるということも、竜人少女から聞かされたばかりだった。


 ナギには見えないが、多分その建物と建物の間を通って真っ直ぐに伸びている道があり、その道を今誰かが横切ったのだ。



  村の公共の施設みたいなものがここに固まっているのかもしれない。



 そうだとしたら、もしかしたら目的の場所をすぐに見つけられるかもしれない。

 きびすを返すと、見えない鉄柵を背にして少年は広場を横断した。


 同じ暗闇でも、昼間の姿を知っている館の敷地を歩くのとでは勝手が違う。

 短い距離だけ照らすランタンを頼りにするのは、何も見えないのとあまり変わりがなかった。


「えっ」



  灯りだ。



 ぎょっとしてナギは足を止めた。人の気配は全くなかったのに。



  誰かいる?!いつの間に?!


すみません、本当に滅茶苦茶忙しくて今回は短めの更新です……(泣)

もしかしたら明日もう1回更新するかもしれません……(;;)


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