表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
148/239

148. 脱出の判断

あれが獣人の仕業がどうかって、分かるものなの?」


 季節は確実に動いていて、今夜は温かかった。紺と金の新しい服のせいもあったが、わら布団の横で竜人の少女と向き合っていることが、今日は辛くない。

 少年の問いにあどけなさの残る声が、声にそぐわぬ落ち着いた調子で応じた。


「うむ―――――――――ほかの獣人が近くにいると分かるのと同じだ。ヤナ語で言うと、『気配』とか言えば分かり易いか?」



 獣人同士は「気配」で分かる――――――――――――――ではあの雷は、間違いなく獣人の仕業ということだ。



 だが不自然に思えたことは、もう一つある。



「あの時ずっと北の方に、物凄く大きな雨雲が見えたんだ。」

「あれも獣人だな。」

「えっ?!」


 再び少女にあっさりと言われて、ナギは息を飲んだ。


「同じ獣人?!」

「いや違う。―――――――――いや同じかもしれないが。雨の方は一人じゃない。複数の獣人が関わっていた。何人かまでは分からぬが。」



  複数の獣人?!



 どくん。


 少年の心臓が大きく跳ねた。



 少女が話を補足する。幼い声には、何か風格すら感じられた。


「あんなに大きな雨雲を一人で作れる獣人は、竜以外だと<水蛇みずち>とかだな。そうそういないぞ。」


 竜人の少女についでのようにそう言われ、改めてナギは、竜の特別さに驚かされた。だが竜の力の話は、また次の機会だ。



 ―――――――――――――やはりラスタの存在に気付いたヴァルーダが、ラスタを捉えるために動き出しているのでは。



 それがこの時、真っ先にナギの頭に浮かんだことだった。



 でも。



 疑問が同時に湧く。



 雷は自然でも経験したことがないくらいに近かったけど、あの雲は物凄く遠かった――――――――――――遠く離れた場所の雨雲に、どんな意味が。



 闇の中で、胸が激しく打ち続ける。



  もしかしたら、今すぐに脱出するべきなのかもしれない。

  いや、下手に動くべきではないのか?



 地平に浮かんだ異様な程に大きな雲の姿が、少年を震撼とさせた。


 一人であれ、複数であれ、あんなに巨大な雲が作れるなんて―――――――――

 あの下ではどれだけの雨が降ったのだろう。


 初めて目にする、ラスタ以外の獣人の力。


 崖の淵に立っている思いがする。



  ヤナに帰したい――――――――――――――――。

  ラスタとミルだけでも。



 真新しい服の下に、ナギはじんわりと汗をかくのを感じた。

 体と声を強張らせ、少年は二つの青い光に尋ねた。


「ヴァルーダが、ラスタに気が付いたと思う?」


 闇の中で青い光は、微かに傾いた。少女は首を傾げたようだ。


「雷や雨でわたしは捕まえられないぞ?わたしじゃなくて、獣人達は何か別の理由で動いたんじゃないのか。」

「別の理由?」


  ラスタとは無関係?


 張り詰め切っていたナギの心の糸を、ラスタは少しだけ緩めた。



 物事が思わせぶりなタイミングで起きて、人が思い込みを持ってしまうようなことは、確かにある。

 思い込んで誤ってしまう前にナギは立ち止まったが、かと言って、正解を見極めるには情報が足りなかった。



  花嫁が到着してから次々と起きていることは、偶然――――――?



 時間がないが、今日自分の身に起きた出来事を話して、ラスタの考えを聴くべきだった。



 今下そうとしている決断は、運命を分ける。



 脱出の準備はまだ到底整ったとはいえない。

 保存の問題があるから、特に食料は、まだ何も用意していなかった。


 それに今夜は自分もラスタも、恐らくミルも、疲れ切っている。


 そして。



 今脱出を選べば、仲間を救えるかもしれない最後の可能性を、ナギは捨てることになるのだ。




「………何があったんだ?」

 見たことがない服を着ているナギに、竜人の少女は困惑した様子でそう尋ねた。


今回ちょっと短めで済みません………!><;


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ