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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
115/239

115. 絶体絶命(3)


 あるじを送り届けた男に幾ばくかの謝礼を渡すと、クライヴは馬の手綱を引き取った。


 労力に見合う額ではなかったのだろう。

「またご贔屓ひいきにィ。」

 男は声も表情も憮然とした様子で形ばかりのお愛想を言うと、玄関を後にした。



  やっと帰って行く。

  あとはクライヴが立ち去れば。


 暗闇で布と格闘しながら、少年はその様子を見つめていた。


 廊下の人の気配が近付いている。


 扉を閉める必要があるからなのだろうが、クライヴは門まで男を送り届けていた。


  早く!


 ナギの心の叫びは祈りに近かったが、願いが聞き届けられることはなかった。

 門の辺りの二人の男の動きはずっと同じ調子で、少しも速くならない。



「ナギ!」



 ラスタの声がしたのは、小さな破裂音とほとんど同時だった。


「息子がここに来そうだ。もうすぐそこにいる!」



 「絶体絶命」という言葉が、少年の頭をよぎった。



  落ち着け。



「ラスタ!鍵を!」

「うむ!」


 いざという時にはすぐには鍵が回らないように、ラスタが錠の中を固定することになっていた。


「何人いる?」

「廊下は一人だ。」



  一人―――――――――。ハンネスは、一人なのか。



「ラスタ、カーテンを見て貰ってもいい?僕には見えない。」

「…………わたしの何倍もナギの方が上手だと思うが、この館の人間はそんなに細かいのか?」

「…………分からない。」


 そこそこ綺麗にまとまっているのなら、もうこれでよしとするしかないだろう。



 ガチャッ。



 その時、真っ暗な部屋のドアが音を立てた。


「!!」


 反射的に、ナギは外を見やった。

 ランタンの明かりが一つ、門の外に出ている。

 客人を送り出したクライヴは門の内側にいて、馬を引いて南へと歩き出していた。厩舎に行くのだろう。クライヴが手に持つ明かりも、ろうそく一本だけの燭台からランタンに変わっていた。



  早く!早く行ってくれ!!



 回らないドアノブを数回回して、ハンネスはようやく、鍵を開けなければいけないことに気が付いた。


 ゆらゆらと上体を揺らしながら、領主の息子は腰のポーチから鍵の束を引き出した。


 玄関や自室や、幾つかの鍵があって、もう面倒になってくる。この部屋の鍵がどれだったか、はっきりしない。鍵の大きさは色々だったから日頃はそれ程判別に困らないのだが、この時のハンネスには、難しいパズルのようだった。


 ぼんやりとした記憶を掘り起こし、半分は当てずっぽうで鍵を差し込んでみたら、それが当たりだった。

 鍵は鍵穴に拒まれることなく、しっかりと奥まで入った。



 ガチッ。



「あ?」


  鍵が回らない。


  別の鍵だったか。


  いやこれで合ってるだろう。



 ガチャッ、ガチャ、ガチャッ。



 鍵を回そうとする音が、暗闇に激しく響く。


 門の外の灯りが遠ざかっていた。門の内側にいたもう一つの灯りは、もう見えない。


 馬装を解かなければならないから、クライヴはすぐには戻って来ないだろう。



「ラスタ!行くよ。」

「うむ。」



 とうとう窓を開けると、ナギはその桟に手を付き、自分の体を引き上げた。


 ドアの鍵穴が音を立て続けている。



  まさか気付かれたのか。

  この部屋になんの用事があるのだろう。



 地面がかなり低い位置であることは覚えているが、何も見えない。

 だがすぐそこが花壇で、壁との間にはわずかな隙間しかない筈だった。


 ここで失敗する訳にはいかない。


  慎重に。


 と。ずっと下の方で青い光が灯った。


 竜の方のラスタだ。


 錠を固定したまま、外に出て来てくれたのだ。



「………ありがとう。」



 その光を頼りに着地場所を見定め、地面に降りようとして――――――――――――雷が落ちるように脳裏に閃くものがあって、瞬間的にナギは凍り付いた。


 数瞬ナギは呼吸も忘れたようになり、そこで動けなくなった。



 暗闇に、ドアの音が響いている。





「――――――――――――――――――ラスタ!」





 視界のない世界で体を回転させると、ナギは室内側に飛び降りた。







◇ ◇ ◇


 ナギに名を呼ばれた気がして、暗闇の中ミルは目を覚ました。


 地下は朝も夜も分からない場所だったが、寝入ってまだ間もない感覚があって、まだ夜だと思った。



 何も見えない。



 自分の目が見えなくなってしまったのではないかと怖くなるので、夜中にふっと目覚めてしまいそうになった時でも、ミルはいつも無理矢理眠りに戻る。



 なのに今なぜ目を開けてしまったのだろう?




  ナギ――――――――――――――――――――――――?




 少しだけ体を起こして、ミルは闇に目を凝らした。



 だが誰の気配もなかった。


読んで下さった方、本当にありがとうございます!

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