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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
112/239

112. 疑惑の婚約

◇ ◇ ◇


「ゴルチエ?そこが……?!」

「知ってる名前なのか?」

 ラスタが体を起こしたので、ナギも束ねた少女の髪から手を放す。金色の髪はろうそくの光を絡め取るようにして、きらきらと瞬きながら床に広がった。


「ハンネス―――――――この家の跡継ぎの婚約者の家だと思う。今度の春に、結婚することになってるんだ。」

「ほう。」


 あまりに意外で、ナギは数秒ゴルチエ領とブワイエ領を見比べて、面積の違いや、領地間の距離を見積もった。



  こんなに大きな家だったのか……?!



 土地の大きさと豊かさは必ずしも一致しないのだろうが、それでも王都の真隣にこんな巨大な領地を有する家は、特別な気がする。


  こんな家から、貧乏領地のせいで嫁の来手に困っていたらしいブワイエ家に

  花嫁が?!


 一昨日おととい帰って行ったゴルチエ家の使用人達の様子を思い出す。


 黒い制服の使用人達はあからさまにブワイエ家を見下していたが、家格にそれだけの違いがあるのだとしたら、あの態度もちょっとうなずけてしまう。


 春先に来た婚約者の令嬢当人も、自分の状況に強烈な不満を持っているようだった。



 この結婚には、何か事情がありそうだと思う。



 何か闇があると思えて胸がざわざわしたが、自分達とは関わりのない話だろう―――――――そう割り切り掛けた時、早朝の牛小屋にやって来たあの女のことがナギの脳裏をよぎった。



 二つの奇妙な出来事。



 普通ではなさそうな婚約と、黒い服の女の不審な行動。



 ナギ自身か、奴隷と言う存在か、ヤナ人か。もしかしてその内の何かと、この婚約は関係があるのでは。



 何かがおかしい。



 ゴルチエ領への道は、ブワイエ領から王都へと至る道程みちのりと同じだ。

 終着点である王都の、すぐ手前の領地。

 ナギの視線はゴルチエ領からブワイエ領へと、朱色の線を辿って北上した。



 その時。



 突然、二人の男の喚き声が聞こえた。



「あぶねーっ‼旦那、しっかり歩いてくれよ‼」

「うるせー!!俺はちゃんと歩いてる!!」


 弾かれるようにして、ナギとラスタは後ろを振り返った。

 窓の向こうから、声が聞こえている。



  ハンネス?!



 もう一人の声は分からなかったが、片方はハンネスの声だ。酔っているのか。呂律が回っていない。


 身を低くしたまま、竜人の少女が窓の方へと駆け寄った。

 だが少女は窓際まではいかずに、書斎机の右横で足を止めた。


「この家の息子と、もう一人の人間は見たことない奴で、二人だ。どこかから帰って来たみたいだ。門を入って来る。」


 小さな少女の声を聞きながら、少年は床の上で急いで地図を丸めた。


  まさかハンネスが、館の外にいたなんて。


「おい!鐘を鳴らすなって言ってんだろ!!」

「そんなこと言ったって、この馬どうすんだよ‼」

「ほっとけ!!」

「はああああ?」



「………あの息子は、具合でも悪いのか?」

「多分酔ってる。」


 ラスタに応えながら、ナギは巻いた地図に素早く革の輪を嵌めた。

 ラスタの目に何が見えているのかは分からなかったが、教育的にいい光景ではなさそうだ。


「ラスタ!窓に影が映らないように、そこから地図を仕舞える?」

「分かった。」


 竜人少女が指を差すと、紙筒は床の少し上を滑るように動いて棚の前に辿り着き、そこから垂直に浮き上がって、所定の位置に納まった。続けて棚の扉がひとりでに閉まり、鍵の掛かる音がする。わずかな音だが、侵入者の少年にとっては心臓が痛くなるような音だった。



 館の人間を起こすとか起こさないとか、馬を繋ぐとか繋がないとか、二人の男がまだ言い合っている。泥酔しているハンネスをもう一人の男が世話しているようだが、辟易とした様子が伝わって来る。


 ナギが床の上に置いていた燭台の火を消そうとした時。


 ラスタが小さく、鋭い声を上げた。


「玄関から人が出て来たぞ。」



  館の人間が起き出した――――――――――――――!



 表情を強張らせ、ナギは見えない窓の向こうを見やった。



読んで下さった方、本当にありがとうございます!!


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