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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
110/239

110. 少年の決断

 今同じ建物の中に、ミルがいる。


  これがあれば、ミルに会いに行ける……?


 咄嗟にナギは、そんなことを考えた。


 上下二列のフックに掛けられた鍵の中で、一番右下のそれだけがほかと違っている。

 フックに掛けられているのは金属の細長い輪で、複数の鍵がそこに繋がれていた。多分鍵の数が、地下牢の房の数なのだろう。


 ナギの表情に気が付いて、ラスタが頬を膨らませる。


 ナギは少しのあいだ鍵を見つめていたが、やがて無言で棚に向き直った。



「いいのか?」


 地図を手に取った時小さな相棒にそう尋ねられ、ナギはやや驚いて少女を見やった。

 その言葉の意図が図りかねた。


  どういう意味だろう?


 「ミルに会いたい」なんてナギが言えば、ラスタは怒り出しそうなのに。でもラスタが協力してくれるとしても、今はミルに会いに行けないと思う。



「……まだミルを、たすけられないから。」



 苦し気に、ナギは微笑んだ。

 むしろ危険を冒して誰かに見つかりでもしたら、その機会を永遠に失ってしまうかもしれない。だから今日は、地下牢へは行けない。


「………心配してくれたの?」


 戸惑いながらナギが尋ねると、小さな少女はぷいっと目を逸らした。


「……わたしはナギ以外はどうでもいい!」


 竜人の少女が怒ったようにそう言うのを聞いた時、ナギはちょっと微笑わらってしまった。

 少女の言葉の前に少しだけがあって、そのの分だけ、ラスタは少し嘘をいている気がする。


 時と共に、ラスタも変化しているのかもしれない。


 地下牢へ行きたいと思う気持ちに蓋をして、ナギは革の輪から丸められた紙を引き抜いた。





 一本だけ灯されたろうそくの横で、少年と竜人少女は地図を広げた。


 初めて見る巨大な王国の地図は精密で、その品質にこの国の力の大きさが見えるようで、少年は少しだけ圧倒された。


 地図は軍事情報でもあるから、普通他国の詳細な地図はなかなか手に入らない。ヤナの学校では、他国の地理は簡単にしか習わなかった。


 だからナギがここまで詳細な異国の地図を見るのは、初めてだった。


 絨毯の上にじかに置かれた地図を、一つだけのがオレンジ色に染め上げて、照らしている。


 ミルとラスタから聞いていた「しるし」は、真っ先に目に入った。だがはっきりと目立つそのしるしを見たあとに、一番最初にナギの視線が向いたのは、やっぱり懐かしい故郷だった。



 祖国ヤナ――――――――――――



 祖国の方角が、ようやく明確に分かった。


 ラスタから教えられていたブワイエ領の場所は、朱色の線が途切れた辺り。

 それは、祖国の東南に位置していた。



「………ラスタ。」

「うむ。」


 少女の小さな指が、ブワイエ領を差した。


「そこがこの領地だ。」


 丸めた地図を留めていた革の輪が宙を飛び、ふわりと地図上のその場所に着地する。


「それからここが、ヤマタのあった場所だ。」


 少女が指を動かすと、革の輪はブワイエ領の西の大きな河を斜めに横切り、やや北に移動して再び着地した。



 ナギが卵だったラスタに出会った場所。



 そこはヤナの真南だった。



 少年は身を乗り出すと、意識の全てを集中するようにして、地図に見入った。


短めの、滑り込み更新です……!

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