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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第一章 少年と竜
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10. 竜はなにを食べるのか(2)

 知識ゼロ―――――――――――――――――――――


 人の姿の時と竜の姿の時で食べ物が違うのだろうかとか、獣人でも種族によって食べ物が違うのだろうかとか、全てが謎だった。


 ただ「食べ物らしい物」で、ナギが手に入れられる物は限られている。


 選択肢がないのだから、どれだけ考えた所で時間の無駄なのだと思う。



 柳の網の向こうで、眩い程の朝の日差しを浴びながら鶏達がせわしなく動き回っているのが見える。



 少年は鶏舎の左後ろを見やった。


 そこに煉瓦造りの納屋がある。


 ナギは左手に提げた桶を下に置き、それから右肩に担いだ桶も降ろした。二つの桶を順番に地面に置くと、少年は高床式のその納屋に向かった。



 この納屋は、鼠返しが付いた十本の小さな石柱の上に載っている。

 床は地面から浮いているが、階段はない。それが鼠防止なので当然である。


 納屋の扉の鉄製のかんぬきには錠前が付けられるようになっているが、ここの錠も牛小屋同様、ずっと取り外されたままになっている。施錠してしまうと、ナギに朝の仕事をさせられないからだ。


 小さな棒状のかんぬきを左から右に動かして、ナギはその扉を開けた。

 


 鎖を付けられたナギの足は、この入り口の、階段二段分よりやや高いくらいの段差を越えられない。


 少年はまず、納屋の床に両手と右膝を着いた。それから左膝を入れ、少年は膝で歩くようにして地面から浮いている納屋の中に入った。



 納屋の中はひんやりとしていて、薄暗い。今入った扉を閉めてしまうと、ここは真っ暗になる。

 ナギが立ち上がると明るさや温度の変化が感覚を刺激したのか、胸の中の小さな竜が、きょろきょろと周囲を見回した。


 その様子が不安気と言うより好奇心一杯に見えて、やはり可愛いと思い、ナギは微笑わらった。


 と、竜がナギを見上げた。目が合うと、黒竜は服の中で甘えるように、少年の胸に頭の後ろを擦りつけてきた。


「痛たたたたた………」


 角のような耳も結構硬い。


 ナギが思わず小さく声を上げると、竜はナギの首許を削るのを止めて、もう一度少年を見上げた。


 気のせいだろうか。

 その小さな瞳が、ちょっと悪戯っぽく見えた。



 納屋の中には、同じ形のかめがずらりと並んでいた。


 ナギの腰より少し低いくらいの背の蓋付きのかめの中は、生麦やキビといった雑穀だ。毎朝四十羽程いる鶏達に、水と共にこれをやるのは、ナギの仕事だった。




 竜と人間が食べる物は、同じではなさそうな気がする、と思う。


 かと言って、例えば虫とか、人間が食べない物を試すのもなかなか思い切れない―――――――――――見た目の印象のせいで、ついつい、とかげに寄せて考えてしまうのだが。



 ナギはすぐ目の前の、やや左寄りにあるかめの蓋を一つ開けた。


 空っぽになったかめは、納屋の右寄りによけるようにしている。

 このかめは、昨日きのうけたばかりの物だ。


 茶色いかめをナギが見降ろすと、黒竜も首を伸ばして中を覗き込んだ。


 好意的な反応に見えて、少年は期待を持った。



 人間は麦を生では食べないが、口に入っても害はないものだ。だから試してみようと思う。

 雑穀はナギが用意出来そうな数少ない物でもあり、これが駄目だった場合、状況は厳しい。



 少年は身を屈めて左手をかめの中に入れると、数粒だけ生の穀類をすくった。

 少し考えて、一番粒の小さいキビだけを選り分けて手に残す。


 赤ちゃん竜の口は、物凄く小さかった。麦は、そのままでは口に入りそうになかったのだ。



 ナギが右手を寄せると、竜は自分からそこに掴まってくれた。


「いい子だね。」


 そう言って静かに抱き上げ、少年は自分の左手の上に竜を降ろした。



 少年の手の上で黄色い粒を見た竜は、少しだけ首をかしげた。それから小さな粒を、つんつんと数度つつく。


 緊張で息も止まる思いをしながら、ナギはその様子を見守った。



 ――――――――――――――――――――――――と。



 黒竜はくちばしの先でキビの一粒を摘まみ上げた。それから竜は数回、嚙むような動作をした。小さいが、赤ちゃん竜の口には目一杯の大きさに見える粒が、くちばしの中を少しだけ奥の方へと移動する。




 そして。





 かしかしかしかし!





 飛び跳ねて快哉を叫びたくなったのを、ナギはこらえた。





  食べた!!


  しかも噛んでいる!!




 かしかしかしかし!

 かしかしかしかし!




 金色の粒を、黒竜が一粒一粒(くちばし)で摘まんで行く。



  歯があるんだ――――――――――――――――――――。



 自分で噛み砕けるのなら、もしかして、麦もこのままいけるかもしれない。

 水が飲めて、雑穀が食べられるのなら、幾らか希望が見えて来る。

 少なくとも、すぐには餓死の心配をせずに済む。




「痛てててて…………」



 上手に食べられないのか、甘噛みで甘えているのか、竜がその時、ナギの掌をつついた。そしてまた悪戯っぽいで、ナギを見上げる。


 ――――――――――――――――気のせいではなさそうだ。



 赤ちゃん竜がしっかりと食べたキビは、六、七粒だった。そのあとは黒竜は、食べ遊びを始めた。

 集中して食べずに、キビを転がして半ば遊んでいる。


「……………」


 もう満足なのだろうか。

 ならもう、遊びたいのかもしれない。

 ナギは指先で、そっとその背を撫でてやった。

 すると竜は嬉しそうに飛び上がり、ナギの頭の近くを飛び回った。




 一日にどのくらいの量が必要なのかとか、ほかにどんな物を与えるべきなのかとか、まだ分からないことだらけだ。


 でも麦も食べられるかもしれない。


 ナギは身を屈めると、左手で雑穀を一すくいしてからかめの蓋を閉めた。




 牛小屋の掃除と、乳搾りを急がなければ。




「おいで。」




 右手を差し出して、少年は小さな竜に呼び掛けた。



読んで下さった方、本当にありがとうございます!


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