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第五話 ドラキュラの生贄

 新米女性刑事、清正美歩(きよまさみほ)は、ある事件の被害者の身辺調査のため、地方にある村へ向かった。村は冬場はスキー客で賑わうが、夏場の今は閑散としていた。結局、有力な情報を得ることはできず、美歩は疲れた体を宿に向けて歩き出した。この付近で営業しているホテルは唯一そこだけであったが事前に予約を取ることができた。スキー場のふもとにあるホテルにようやくたどり着いたとき、一台のタクシーがやってきた。そこから降りてきたのは見覚えのある男だった。

「あれ?刑事さんじゃないですか?」

「あら?探偵さん。こんなところで何かの調査ですか?」

「実は、先日のアレルギー事件のご主人が事件解決のお礼にこのホテルに招待してくれまして。このホテルはグループの系列だそうですよ」

「そうだったんですか」

「そういえば刑事さんはご親族だそうですね?」

「親族といっても、かなり遠縁なので、付き合いはあまりないんです。それにしても、あんな目に遭わされたのに、よく招待なんてしてくれましたね・・・」

「でも、警察沙汰にならなくて助かったって、ご主人は喜んでましたよ」

「まあ確かにそうかもしれませんけど・・・」

「なかなか良さそうなホテルですね」

 雲竹は黒縁の眼鏡をサッと外すと鋭い眼光を小さいがお洒落なホテルに向けた。

(ひょっとして、これは運命なのかしら?)美歩は心を躍らせた。人は偶然が続くと運命だと思うらしい。

 次の瞬間、美歩の頬を雲竹が叩いた。

(なになになに?!ひょっとしてこれが噂の愛のムチってやつ?!)

 雲竹を見ると、今度は自分の頬を叩いている。

「ここは藪蚊が多いですね。早く中に入りましょう」

 というと、玄関に向かって歩いていった。

(あんなこと言って、きっと私に触れたかったんだわ)

 美歩はいつの間にか蚊に刺された腕を掻きながら雲竹の後を追った。

 

 夕食の時間になり、宿泊客がレストランに集まった。雲竹と美歩の他には二組の客がいるだけだった。オーナーは大変気さくな人で、シーズンオフの夏場は、客たちと一緒にご自慢の大きな木製テーブルを囲んで食事をするのが楽しみだという。

 夏場の閑散期に泊まりに来てくれたお礼だと言って、オーナーは気前よくみんなに地酒をごちそうしてくれた。

 食事中の歓談の中で、

「血液型によって禿げ方に傾向があるって知ってますか?」

 と、オーナーがきりだした。

「そうなのですか?」

 雲竹が食いついた。

「B型とAB型は大差はなくて徐々に薄くなっていく人が多いけれど、A型の人は前から上がっていき、O型の人は私のようにてっぺんから薄くなるそうですよ」

 と、薄くなった自分の頭をさすりながら笑った。

「えー?!俺もオーナーみたいに成るのかあ?」従業員の男の嫌そうな顔にみんなは笑った。


 美歩が隣に居る雲竹は何型だろうと思いながら眼をやるとテーブルの下でなにやらゴソゴソと手を動かしている。美歩はのちょっとのけ反るようにして覗いてみた。

(メモッてるよ?!)美歩は心の中で突っ込んだ。

 

 夕食も終わりしばらくして暇を持て余した美歩はロビーで見かけた雑誌でも読もうかと部屋を出た。すると、何処からか激しくドアを叩く音が聞こえてきた。


「オーナー!オーナー!いるんですか?」従業員の男が叫んでいる。

「どうしたんですか?」美歩は尋ねた。

「オーナーに用があって来たんですが、鍵が掛かっていて反応もないんです」

 騒ぎを聞いてオーナーの奥さんと雲竹もやってきた。それから他の泊り客も全員集まってきた。

「とにかくドアを開けないといけませんね」

 と、雲竹が言い、ドアノブを激しく回したり、ドアを蹴りつけたがびくともしない。

「私の家に斧がありますから走って取ってきます!近くですから」

 従業員の男はホテルを出て行った。雲竹は、ドアに体当たりをしてみたがやはりドアは開かなかった。そのとき中からオーナーの呻き声がかすかに聞こえた。

「あなた!」ドアを叩きながら奥さんが呼びかけたが返事はない。少し中の様子を伺っていると、今度はオーナーの悲鳴が聞こえてきた。雲竹は驚いて、さらに激しくドアに体当たりを繰り返した。そこへようやく従業員の男が片手に斧を持ち息を切らして帰って来た。

「どいてください!」男がドアを斧でぶち破った。

 部屋の中に入ると窓が開いており、オーナーが机の柱に縛り付けられ、さるぐつわを噛まされた状態で胸を刺されていた。従業員はオーナーに駆け寄り体を揺すったが、オーナーに反応はなかった。雲竹はその光景をみながらしばらく考えていたが、急に思い出したようにサッと眼鏡を外した。

 雲竹の視力は〇.〇一を切るほど悪い。眼鏡を外すと視界は数メートルしかなく、辺りの景色は全てぼやけてしまう。その代わりに記憶の中の映像がより鮮明に雲竹の頭脳でフラッシュバックする。それらが同時に書籍やWEB、新聞などで蓄えられたあらゆる雑学と結びつき瞬時に1つのストーリーを導き出すのだ。


「犯人は、この窓から逃走したのね」美歩が窓から外の様子を伺った。

「いや、犯人はこの中にいます」雲竹が言った。

「え?」

「奥さん、この近くに崖はありますか?」

「崖?いいえ、この近くには崖はありませんけど・・・?」

「そうですか・・・。なければいいです」

 雲竹はちょっとがっかりした表情を見せた。

(あったら移動する気か?!)みほは心の中で突っ込みながら聞いた。

「この中に犯人がいるんですか?」

「そうです。オーナーが殺されたときこの場にいなかった人間が一人います」

 従業員の男にみんなの視線が集まった。

「え?何を言ってるんだ。俺じゃない、俺は斧を取りに行っていたんだ!」

「そうでしょうか?」

 雲竹は鋭い眼光を窓の外の暗闇に向けた。冴えない男が瞬間、輝いて見えた。

(いや~ん、ス・テ・キ!)みほはうっとりした。

「血液型にはA型,B型,AB型,O型の四種類があるというのはみなさんご存知だと思いますが、初めはA型,B型,C型の三種類だと思われていました。血液型というのは赤血球の抗体の有無で決められていて、A抗体を持つのがA型、B抗体を持つのがB型、そして、どちらも持たないものをC型と呼んでいたのです。ところが、研究が進み新たにAとB両方の抗体を持つ血液型が発見され、その血液型をAB型としました。そして、どちらも持たないC型の血液型をゼロ型と呼ぶようにしました。つまり『O型』は『オー型』ではなく『ゼロ型』と呼ぶのが正しいのです。しかも、血液型には髪が薄くなるタイプがあって、A型は前から、O型はてっぺんから薄くなりやすいのです」


(それ夕食のときにオーナーから聞いた情報?っていうかここにいる人みんな知ってるけど?!)美歩は心の中で思いっきり突っ込んだ。

「それがどうした!」従業員の男が言い返した。

「えー、ここからが肝心なのですが、血液型には蚊に刺されやすいタイプがあります。蚊は普段、花の蜜や果汁や木の樹液などの糖分を摂取していますが、産卵期のメスは高タンパクの栄養が必要になるため、動物や人間の血液を吸うのです。蚊はO型の血液と花の蜜の構造が似ていると感じているので、O型は蚊に刺されやすいのです。あなたは、オーナーと同じO型でしたね?しかも、夕食のときにお酒も呑み走って斧を取りに行った。お酒を飲むと息の中の炭酸ガスが増え、さらに筋肉でエネルギーが作られるときに作られる乳酸が汗と一緒に汗腺から排出されるため、あなたは蚊にとって最高のエサになるはずです。それなのに、あなたは半袖にもかかわらず一箇所も蚊に刺されていない・・・それは、あなたがほとんど外にいなかったからではないですか?・・・」

 従業員の男はがっくりと膝を落とした。

「冬まで待てばよかった・・・」

(そんなんで自白?!蚊に刺されてないって証拠になる?!っていうか虫除けスプレーとかあるじゃん?!)美歩は唖然とした。

 そこに都合よくパトカーが駆けつけた。

 

 蚊に刺されまくりながら連行されていく従業員を見送りながら、美歩は聞いた。

「探偵さん。また、崖で推理するつもりだったんですか?」

「いやー、夜の崖で推理なんてドラマでも見たことないのでどうなのかと思いまして」

「真っ暗で危ないからかと・・・」

「でも、もし崖が有ったら、彼も蚊に刺されて僕の推理が成り立たなくなるところでした」

(このひと賢いの?それとも馬鹿なの?!)美歩は頭の中で突っ込んだ!



今回は血液型の雑学でした。

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