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恨みはないかと訊かれた。
昼食の席、出された食事を終えて食後のお茶をいただいているときに。
それだけでこちらに転移させられたことに、思うことはあるかと。
この身に叶うものであれば、詫びを強請ってかまわないと。
「……とくに、ありません」
なにしろ転生は無作為だというし、皇帝陛下がそうしなくてもこうなっていた可能性はあるのだ。
悪役令嬢としてというわけでもなかったのだと知った今、私を取り巻く現状がクロといいナナといいゲームの舞台と差異が出てきていることを考えると、単に新しい人生が始まっただけ、とも言える。
人物その他について事前知識があるくらいは、大目に見ていただきたい。創世主様あたりに。
ふうん、と皇帝陛下が首をかしげる。
「戯言かと思っていたが。この世界を覗いたあちらの世界の者が、遊戯を作り上げたのか。その出演者がそなたと、そなたの知り合いだと」
「はい」
「そなたは化け物を呼び出す元凶となるがゆえに、悪役令嬢だと」
「シナリオ……筋書きで、ですが」
「化け物なあ……」
ふむ。
なぜか右手をわきわきと動かす皇帝陛下。
何をなさりたいのだろうと見守っていたら、私を見て微笑まれた。
「なら、そのシナリオとやらが起こるころ、不安があれば声をかけろ。助力してやろう」
「……それは、……」
これぞチートではないのだろうか。
一瞬思って、けれど私はうなずいた。
せっかくのご厚意だし、受け取っておいて気が進まないときはお呼びしなければいいのである。
「ありがとうございます。お気持ちたしかにちょうだいいたしました」
「よろしい」
いい子だ、と髪に指が触れていく。
「ああ、そうだ――もうひとつ頼まれてくれるか?」
「なんでしょう?」
「この中身が別のものだとは、口外しないようにしてほしい。あれの望みでもある」
「…………」
クロードに、クロに。
そっくりの姿を持つ方が、おっしゃった。
私が深く頭を上下させるのを満足そうに見るその方の笑顔には、屈託なく笑うときの我が家の犬の面影があった。




