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 にこやかに別れの挨拶を交わし、レグルストン家一行は王城を後にした。

 先に叔母様をご自宅へお送りしたあと、馬車は我が家への道を行く。子供だけの移動になるけれど、すぐに着くから問題ないと思う。

 外側を保つ必要がなくなった私は、そこで一気にだらけた。正面に座っていたクロを横に呼び、ぼとん、ともたれかかる。

 受け止めるクロも慣れたもの。背中側に腕をとおして抱くようにしながら、ゆるく頭を撫でてくれた。ととのえた髪が崩れるとか、もう気にしなくていいのがうれしい。

 おつかれさまです、と言われて、本音の決壊が起こる私。

 令嬢らしさをかなぐり捨てて、うーん、と大きく伸びをする。


「つっっかれた~~~」

「大丈夫ですか? 王子に何もされませんでしたか?」

「ちょっと行き違いがあったけど、すぐ解決したわ。……そのあとはゆっくり話したのだけど。やっぱり、王城そのものに気疲れしたというか……」

「分かります。たまに旦那様のお遣いで門まで行きますが、それだけでも圧を感じますね」

「子供には敷居の高い場所よね」

「まったくです」


 中身がこれな私と年齢を超えた情緒を持つクロで会話した結果が、あんまり子供っぽくないのはご愛嬌。


「お父様に今日のことをお話するときは、クロもいてね。聞いてほしいことがあるのよ」

「かしこまりました」


 などと語る私たちは、完全に気を抜いていた。


 ――ガタン!


「!?」

「なんだ!?」


 馬車が揺れた。道に段差があったとか、そんなものではない。

 そもそも衝撃は足元からではなくて頭上から――……頭上?

 一瞬身を強張らせた私とクロは、ほとんど同時に緊張を解いた。馬車を操っているうちの御者が、「こらこら、お嬢様たちがびっくりなさるでしょう」とか言ってるのが聞こえたのが理由のひとつ。

 もうひとつは――


「おかえり、ネイア。クロ。迎えにきたヨー!」


 ゴメンネー、と御者に返した振動の犯人が、車体を伝って窓からするりと入り込んできた。これがふたつめ。

 あっという間に私の膝にくっついてニコニコ笑うのは、もちろんナナだ。もうかくれんぼしていない、白い髪と天真爛漫な笑顔がまぶしい。


「おまえな……」


 はあ、とかクロがため息をついてみせているけれど、フリである。ナナもそれは分かっていて、「ふふーん」とクロのほうを見て笑みを深めた。と思ったら、おもむろに懐を探り出す。

 何を出すのかとクロと一緒に覗き込めば、ぱ、と目の前に飴玉の入った小瓶が差し出された。練ったはちみつにレモンを合わせたもので、甘みと酸味のハーモニーが舌を楽しませてくれるのだ。お菓子も得意な我が家の料理人による、レグルストン家でしか味わえない逸品である。


「おつかれのふたりに、ナナが差し入れ!」

「ありがと、ナナ」

「うん。ありがとう」


 ぺかーと笑うナナからそれぞれ飴を受け取って、口に入れる。んー、と堪能する私たちをうれしそうに見たナナももちろん、んー、と飴を味わっていた。


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