23.合致するピース
面倒を散々かけてくれたお花畑王子ことルシアン達は、迎えに来たリカルドに首根っこを掴まれて帰っていった。
ようやく平和が……というわけではなく、忘れてはいけないが、彼女らは今からが本番である。
ギルドの一室では、夜の森の周辺探索のくじ引きが行われるところだったが、キサギはどのみち後半組で参加の必要はない。
ちょうどオリガが来て、撤退戦を繰り広げた冒険者たちから話が聞けるという事だったので、共に別室で待つ彼らの元へと訪れていた。
その部屋は普段オリガが使用している執務室で、中へ入ると代表としてB級から2名、C級から1名の冒険者が椅子に座って談笑しているところだったようだ。
彼らはオリガに連れられ入ってきた彼女を見るやいなや、「おぉ~~~」と目をキラキラさせながら、低めの声で歓声をあげる。
「何やってんの、アンタらは……」
どうやらS級冒険者に普段会うことなどないから、という理由のようだが、オリガとしては大の大人が……と呆れるばかりだ。
「お疲れのところ、お時間を作っていただきありがとうございます。お体、大丈夫ですか?」
キサギは彼らと向かい合うように椅子に掛けながら、労いの声をかける。
自分のデスクへと回ったオリガは、彼ら全員を正面から見渡すように椅子を引き腰をおろす。
「あぁ、俺たちは元々、そんなに怪我もしてないから大丈夫だ。仲間たちも治療済みだし、誰も重傷者はいないから心配しないでくれ」
「さっきはほんと凄かった!おかげで助かったよ」
など、各々が声をかけてくれ、皆疲れている中にも関わらず、無理な願いに快く受け入れてくれている様子に安心し、キサギは胸を撫でおろす。
「さて、まずは当時の状況を話してもらえる?」
皆の様子を見て、オリガは早速彼らに本題をふった。
彼らは頷き早速話始めてくれたその内容を聞くに、昨日まではいつもと特に変わった様子はなかったようだ。
そもそもネームドが住み着いたあたりから、中型、大型魔獣がどこから来るのか日に日に数は増えていく。
それでも大半が中型という事でB級C級を中心に連携をとり、特に今までも大きな怪我人を出すわけでもなく、対処にも問題はなかった。
だが今日に限って様相があまりにも違った。
朝から森に入ってからというもの妙に静かで、気づくといつも感じる魔獣の気配がなかったのだ。
シィンと静かな耳鳴りの響くその森の光景に、誰もが息を呑んだという。
ともかく事態の奇妙さをギルドへ報告した後、C、D、E級の資源採集組は周囲の警戒を最大に、そして今日は早めに森の中央に集合し撤収する事を話し合って決定すると、ダンジョン組と別れた。
暫くしてダンジョン入り口前に到着したB級冒険者達は、やはりいつもと違う尋常でない静けさに恐ろしさにも似た奇妙さに警戒しながらも、周辺の監視にあたった。
昼を迎える頃に、やはりこれは早めに切り上げギルドへ戻り、今後の対策をオリガと話し合おうと採集組との間で連絡を取り合い、先程の場所で落ち合う事となった。
だが、ここで問題が生じる。
集合するはずのE級冒険者パーティが現れなかったのだ。
彼らはまだ登録してから日も浅く、全員が10代後半のひよっこパーティなのだが、スタンダード魔法学園を優秀な成績で卒業したからと鼻にかけルールを破る行為が目立ち、どこからくるのかわからない自信の塊が悪目立ちした事が原因で、ギルドでも注意観察対象となっていた。
なんとも、既にどこかで体験した事のあるような事が、こんな目と鼻の先で同時多発していたとは……と、話を聞くキサギがそんな既視感に遠い目をしてしまう。
なんでも事態を甘く見ていた彼らは、クエストの薬草採集の量に達しておらず、まだ呑気に探索中だったのだという。
「まだ少し待って貰えませんかぁ?いつもは魔獣がそこら辺にいて、なかなかこんなに捗って採集出来る事もないんでー」
「ま、俺たちE級だけど防御魔法教わって使えるしぃ~。なんとかなりますよ!」
などと皆で笑いながら、連絡をしたB級冒険者へ返事を返して来たのだ。
その場にいた他の冒険者達の堪忍袋の尾が切れるのは当然の事で……
「こんの、ど素人の馬鹿野郎共が!!いいから集合場所に来い!!」
連絡をとったB級冒険者が怒り狂って、タグの向こうの彼らへ怒鳴り散らしたという。
ちなみに怒り狂ったその人は、キサギの目の前に座る男性で、彼はB級冒険者パーティのリーダーだ。
経験も1番豊富で、彼はまもなくA級の昇格選定を受けるほどの実力を持つ事から、他の冒険者からも信頼は厚く、オリガからE級問題児たちの監視役を頼まれていた。
結局その呑気なE級冒険者パーティは、どうやら案外近くで採集していたらしく、渋々集合場所へとやって来たという。
「思ったよりも時間を食った。お前ら、この非常時中に勝手な行動は許されんぞ。ギルドに戻ったら報告させてもらうからな」
「えぇ~!たったちょっと遅れただけじゃないですかぁ!別に何もないのにちょっとビビリすぎなんじゃないですかぁ?」
などと迷惑をかけておきながら煽るような事まで言い放つ始末。
さすがに他の冒険者達が彼らに詰め寄ろうとした、その時。
グオォォォォォォォン!!
突然、森の奥から魔獣の雄叫びがこだましたのだ。
全員がビクリッと肩を揺らし、B,C級冒険者達は索敵魔法を展開し、各々武器を構えて警戒体制を取る。
D級冒険者達もビクビクしながらも構えるが、E級冒険者達は先程までの勢いはどこへいったのか、青ざめ尻餅をついている者もいた。
「……っ?!やばいやばいやばい!!」
「何だよ?!」
「半端ない量の中型魔獣があっちこっちからここ目掛けて向かって来やがる!!接敵まで…5分…もてばいいくらいか!」
「しかも大型魔獣までいるじゃねぇか?!……4体確認した!こりゃあいよいよ俺達だけだと厳しいぞ!」
「なんだと!?とにかく、E級D級にどうこう出来る奴らじゃない!お前らは急いで森を出ろ!!いいか?!死ぬ気で走れ!!急げ!!」
「は、はいぃぃぃ!」
「ギルド!聞こえるか?!緊急事態発生!……ちぃっ!通信障害が入りやがった!何でこんな時にいきなり!とにかく俺たちも行こう!!」
「よし!防御魔法を展開しつつ帰還するぞ!お前はそのままギルドへ呼びかけ続けろ!!行くぞ!!」
……………
「…………それで、帰還途中で結局奴らとぶつかっちまってね。次から次へと魔獣たちは襲ってくるし、仲間も怪我するし、なんとかギルドと連絡は繋がったとはいえ、さすがにもうヘロヘロでダメだと思ったよ」
「そんな所に、君のところの蒼髪のS級さんがどこからともなく現れてさ……すんごいのな。大鎌をヒョォンって一振りしたらその辺の群れがスパンスパン切り裂かれちゃって、大型魔獣なんてあっという間に真っ二つだもんな」
「そしたら君達も来てくれて……瞬間移動なんて魔力が枯渇しそうなものなのに、そうまでして俺たちの為に急いで来てくれてありがとう」
死の間際に立たされた彼らはなかなか遠い目をしながら全てを話すと、皆最後にはキサギへと礼を言った。
彼らも経験豊富な冒険者という立場から、瞬間移動がどれほどの魔力を消費するのか、その後の戦いを大きく左右する程の事を十二分に理解している。
だからこそ、魔力枯渇の恐れを押しても、彼女のその選択のお陰で今があるし、何よりその後の戦いも知っているからこそ、感謝だけではない厚い信頼感へと繋がっている。
……まぁ、キサギは規格外な魔力量の持ち主なので、瞬間移動数回如きで枯渇する事などあり得ないのだが、彼らは勿論知る由もない。
「あ!そういえば、そのE級冒険者達はどうなったんですか?」
キサギが話を振った途端に、オリガを始めとした冒険者達が皆苦笑いをし始める。
「あの後、森から無事に抜けた彼らはギルドで休ませる為に連れてきたんだけど……訳の分からない事を叫び出して大泣きしちゃって……」
その光景を思い出しているのか、オリガが呆れ顔で肩をすくめる。
「ずっと俺達のせいだ、俺達のせいだって泣き喚いてて、何が彼らのせいなのか理由がわからないし、宥めすかしてもずっとあの人達を殺したのは俺達だって止まらなくって。そしたら……」
「俺達は森から無事に脱出した後、待機してくれていた仲間達に治療の為にギルドに連れて行かれたんだ。そしたら、あいつら俺の顔を見た途端に“化けて出た!!“って言いやがったんだぞ!酷くねぇか?!」
苦笑いのオリガが冒険者へと話を振ると、なんとも面白い事になっていたようで、助かった今だからこそ出来る笑い話としてゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。
幸いちゃんと彼らに謝罪し、彼らも説教をしつつも受け入れたようだ。
だが、オリガとしては下手をすれば仲間を失っていたかもしれない非常に危険な状況下での彼らの勝手な行動は、上に立つものとして簡単に許す訳には行かなかった。
とりあえず彼らは、5日間の業務停止命令が下されたのだそうだ。
それで済んだのであればまぁ良かったと、キサギはクスッと笑みを浮かべながらも、ひとつ気懸りな事があり、目の前に座る冒険者へ疑問を投げかけてみる。
「……あの、気になる事があるのですが」
「お?おぅ、なんだ?」
「その……タグの通信障害って、よくあるんですか?」
この問に、彼や他の冒険者らは一瞬キョトンとするも、お互い顔を見合わせて考え込みながら首を捻る。
「いやぁ?普段はないな。なにせこの魔宝石は優秀だからな……けど、ネームドが来たくらいから、たまに障害が起きるようになったんだ」
「あれ、ホント迷惑だよ~。通信障害なんてまずないのに……さすがに魔宝石が発達した今の時代に起こるなんて、あれはびっくりだったよな」
「あ、でもそういえば……ちょっと前にもあったよな?結構大規模な障害!国のあっちこっちで起こって大騒ぎになったやつ!」
(……え?)
キサギはピクリと眉を動かし、思わずその言葉に動揺し体が固まる。
「あぁ~。あったわねぇ。指揮系統が総崩れする程の障害だったから、かなりの騒ぎになったヤツだわ。そういえば……何かの魔力暴発があったって魔力研究所が発表したんだけど、原因不明だったのよね?ま、いつの間にか何事もなく障害が直ってたから忘れてたわ」
オリガも顎に指を添えながら思い返しているようだ。
皆にとってはその程度の事。
だがキサギは違った。
何故かその言葉が気になって、引っかかって仕方がない。
頭の中で、ズクンズクンと血管が脈打つ音が大きく響いている。
「……それは……いつ頃ですか?」
掠れる声で、そう彼らへと尋ねる。
冒険者達は「うーん」と唸り声をあげながら懸命に思い出そうとしているようだ。
そんな時、オリガがハッとした表情を浮かべる。
「ええと、いつだったかしら…………っあ!3ヶ月前くらいじゃない?今日来てた王子で思い出したわ!確か、ほら!王城でなんか崩落事故があって、あの王子の婚約者が犠牲になったって、王都中ニュースになったやつ!確かあの日よ!」
脳内でピースがピッタリと当て嵌まるかのように、パァッと明るい表情でオリガが指をパチンと気持ち良く鳴らす。
周囲の彼らも「あぁ~!あったあった!それだ!」と思い出せて気持ち良さそうだ。
1人キサギだけは、言い知れない気持ちの悪さを胸の内で感じていた。




