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17.場違いな彼ら







対峙し合う美形2人に、数名のお嬢様学生達は頬を染め場違いにも小声でキャーキャー騒いでいるようだ。



ルシアンはグエンの風格に呑まれぬよう、王族然とした面持ちで対峙する。



「…くっ!だが!私達は魔法学園でもトップの成績を持つ!力はある!そちらに迷惑はかけん!」



尚も食い下がるルシアンに様子を伺う周囲は既に彼らを厄介者認定しており、もういいからさっさと帰れと言わんばかりの空気を漂わせている。



グエンはそんなルシアンに対して、静かに首を横に振った。



「まさに今その森をはじめとした周辺で、殿下方が思っている以上に深刻な問題が起きているのです。ですから我々S級冒険者に依頼が来た。我々は正式なクエストを受諾して、ここまで来ています。……それとも貴方がたは、我々と同じぐらいの力量持つというのでしょうか?そうでなければ、我々を……我々の命をかけた仕事を、愚弄するおつもりか?」



その背中からは、英雄の風格たる魔力の圧が彼らに向けて放たれる。



グエンは遠慮するつもりはないらしい。



魔法学園の学生の何人かがその圧に押され、耐えきれずに腰を抜かして地面にへたり込む者や、青ざめ息苦しそうにする者もおり、周辺の空気はおかしなものになっている。



ルシアンは彼から向けられる圧力に腰が抜けそうになるも、何とか耐えながら踏み止まる。



だがグエンの言葉にぐぅの音も出ないようで、とうとう眉だけではなく顔までもしかめ、拳を強く握りしめながら俯いてしまった。



「……そんな!そんな言い方ってないと思います!!」



唐突に空気を壊す甘く可愛らしい少女の声が、辺りに響き渡る。



集団の後方からタタタッと軽い足音がしたかと思えば、ルシアンの前に立ちはだかりグエンに立ち向かっていた。



桃色の波打つ長い髪を風に揺らし、クリクリとした愛らしい茶色の瞳に涙を溜め、プルプルと震えながら愛らしさ全開でグエンを睨みつけている。



「…っ!マリアッ!」



その小さな体を震わせながらグエンに対峙するマリアという少女に、ルシアンは少し歓喜の声を混ぜながら愛おしげに彼女の名前を口にした。



「ルシアン様は優しくて、とてもお強い方です!成績だって魔法だって、学園で1番で、いつも皆の事を思って……なのに、あんまりです!!」



フルフルと首を横に振りながら、彼女の瞳から少し溢れた涙が宙を舞う。



何とも愛らしい彼女の仕草に、同行したお坊ちゃま学生達が色めきづいている。



周囲の辟易した空気をまるっと無視して。



(……何を見せられてるんだ?私達は……)



目の前で繰り広げられる、なんとも場違いでお花畑な子息子女達のメロドラマに、キサギは疼く頭痛と共に体から力が抜けそうになった。



正直、彼らの思考があまりにもズレすぎていてお話にならない。



もはや呆れを通り越して見ていられない。



「あんまりでもなんでも結構です。まったく、話にならない……門兵、悪いが俺の名で学園と王家、それからギルドに連絡を取ってくれ。今すぐ引き取りに来い、と」



グエンは容赦なく言い捨て、門兵へと指示を出す。



門兵からも「助かったぁ」という小さな声があがり、1人が連絡のために走り去っていった。



「ともかく、このままお帰りを」



「待ってくれ!頼む!貴殿らに迷惑はかけない!行かせてくれ!」



「既に迷惑を被っておりますよ?そして今は平時と違って、ここは危険だと何度も申し上げておりますが?」



「魔獣なら私達でも対処出来ます!ご迷惑はお掛けしません!」



「いや……だから……お嬢さん、人の話聞いてたかな?」



尚も押し問答が始まり、周囲もいい加減辟易を通り越し、場違いな彼らへかなりの苛立ちが向けられ、場の空気は不穏なものとなってきた。



「森に、何があるんですか?」



そんな空気お構いなしに、野次馬達の中から鈴を転がすような美しい声音が周囲に響く。



問答を続けていた彼らをはじめとしたその場の者達全員が、その声の主へと顔を向けた。



人集りから抜け出て来たキサギが、その顔に微笑みを浮かべ、ゆっくり彼らに歩み寄る。



ポニーテールに纏められた美しい宵闇色の長い髪を靡かせ、切り揃えられた前髪の下には切長の深い藍色の瞳を細め、何とも神秘的な美貌を持つ少女に目を奪われる。



桃色の髪の可愛らしいマリアにゾッコンだったお坊ちゃま学生達も、気位の高そうなお嬢様学生達も、有象無象の区別なく。



ルシアンとグリードだけは、少し違った意味で、であったが。



「…あ……え?……えっと?」



マリアも突然現れた彼女に一瞬見惚れ、何を話しかけられたのかとパニックになっていた。



「さっきから聞いてましたけど、えらく森にご執着のようでしたね。森に、何があるんですか?」



笑顔のまま、そして容赦なく彼女は言葉を真っ直ぐぶつける。



ルシアンとグリードは彼女を訝しみながら、沈黙のまま無遠慮な視線を向けていた。



「キサギちゃん……どこ行ってたの……」



「ふふっ!ごめんなさい。親切なこの街の方々に事情を伺っていたところだったんです。グエンさん、お疲れですね?」



グエンはキサギが現れた途端に、さっきまで張り詰めていた緊張感を緩め、困った様に眉尻を下げいつもの優男風に一瞬戻っている。



少し疲れを見せる彼の表情に、キサギは思わず笑ってしまったのだが、その仕草と表情が美しさの中に可愛らしさを併せ持つダブルパンチとなり、また有象無象たちの心臓を撃ち抜いていた。



「……キサギ……?」



訝しむルシアンの口から、疑問系の言葉が漏れ出る。



「……ルシアン様?」



彼の隣で茶色の瞳をウルウルさせながら、マリアは自分より背の高いルシアンの顔をチラリと見上げている。



「き、君は何者だ!?」



何やら慌てながらグリードが声を張り上げた。



ルシアンとグリードのこの微妙な態度、それも仕方ないだろう。



現れた彼女の姿は、ルシアンにとっては命の恩人でありながら内密に解消へと話が進められている婚約者の、グリードにとっては長年の留学生活でほぼ会っていない実の妹の、ここにいるはずもないレイスリーネの姿と、髪や瞳の色、雰囲気は全く違えども、あまりにも似て見えるのだから。



(ハハッ!混乱しろ混乱しろ!)



悪戯心にくすぐられる彼女は、ただただ彼らの微妙な顔が可笑しくて堪らない。



「初めまして、知らないお方?まずは貴方が名乗りをあげるのが紳士の行いなのでは?」



可笑しさを堪え、キサギが本当はまぁ程々に知る程度の存在へと小さく微笑み名乗りを促す。



「っ!この私に対して無礼な……よかろう!後で吠え面をかいても容赦はせんぞ!私はこの地の領主ハロルド伯爵の長男グリード・ハロルド!この領地の次期当主だ!!」



なんとも頭でっかちで短慮な彼に、キサギはこれが次期当主かと溜息しか出ない。



「あー、はいはい。無礼でも容赦でもなんでも結構ですよ。私はランテル冒険者組合所属、冒険者パーティ"神楽旅団"のリーダーを務めます、キサギ、と申します。お見知りおきを」



笑顔で彼に挨拶を返す彼女のそばへ、ビャクラン、シュリ、ソウエイも集団からゆっくり歩み寄り、その背後に立つ。



その胸の、黒の魔宝石のついた冒険者タグを揺らしながら。



ルシアンとグリードは目を見開き、その表情を驚愕の色に染めていく。



「その胸のタグは……4人ともS級だと?!」



先程まで訝しみながら無遠慮にこちらを見ていた彼らが、狼狽し表情を大きく崩して声を上げていた。



周囲の学生たちは、いつも冷静な彼らが珍しく狼狽えている様子に驚いたようだったが、何よりも驚いたのは目の前に立つ美しい少女だ。



歴戦の猛者の様な風体の大人達を側立たせている事。



自分達と同年代に見える少女でありながら、S級冒険者のタグを所持している事。



パーティ全員がS級である事。



もう情報がいっぱいいっぱいで、誰も彼もがついて行けなくなっていた。



「ランテルだと?!あそこにS級冒険者はいないはずだ!!貴様、我々に嘘を吐くなど……!!」



「あぁ、昨日昇格したばかりで、今日が初任務なんです。まぁ、ご存知ないのも無理はないかと」



何やら噛み付いてくるグリードの言葉に、即座に被せてキサギは慇懃丁寧に言葉を返す。



うぐっと言葉を呑み込むしかなくなったグリードは、まだマジマジと無遠慮な視線を彼女へ向けたままだ。



(おいおい。あなた貴族でしょうが。その短慮、ほんとなんとかならないものかしら)



彼女はこのハロルド領の次期当主の態度に、先程から大きな不安しか芽生えない。



「で?」



と、端的に吐き捨て、キサギはルシアンに笑顔ながらもその伶俐な視線を向ける。



ほんの少しだけ魔力を放出させながら。



だが彼女にとっての少しでも、周りの人間達からすれば、それはあまりにも濃密で、神秘的で、圧倒的な魔圧だった。



学生達は彼女から放たれる魔力に抗う事など出来るはずも無く、何人かは失神している者もいた。



直接その魔力をぶつけられたルシアンが簡単に圧力に押し負け、膝に力が入らなくなり思わず尻餅をつく。



その顔は驚愕と恐怖で青ざめながら……。



「魔獣討伐ならば、何もこの地である必要は無い筈。私は先程から、森に、何があるんですか?とお伺いしているのですが……お答えを頂いてもよろしいでしょうか?」



目の前で青ざめながら尻餅をついている自国の王子を見下ろしながら、彼女は先程から魔力を放出したまま、目の笑っていない笑顔で質問を繰り返す。



そばにいるグリードもマリアも御多分に洩れず、魔圧に当てられてその場にへたり込み、青ざめながら口をハクハクするしか出来ないでいる。



最早その姿は美貌を持つ悪魔、いや魔王と言っても過言ではないほどに。



「あら。皆様、どうされたんですか?そんなに青い顔をされて……まぁ!気を失っておられる方もいらっしゃるわ!大変!門兵さん!馬車を用意して差し上げて!皆様を早く王都へお返ししないと!」



わざとらしく、慇懃丁寧に、さも心配しているように彼女は門兵へと指示を飛ばす。



指示を受けた彼らは訳もわからずただ慌てて首を何度も縦に振って、馬車の準備に走り去って行った。



「…っ!ま、待て!待ってくれ!」



顔を青ざめ尻餅をつきながらも、ルシアンは掠れた声で片手を伸ばし縋り付いてくる。



「あらあら!大丈夫ですか?殿下……」



ようやく彼女が尻餅をつく青ざめた彼を心配するような様相で、そばに屈み彼を覗き込んだ。



そして。



「まぁ、茶番はこの辺にしましょうか。そりゃあ答えられませんよねぇ?まさか愚かにも己の力を過信して、想い人との仲を周囲に認めさせる為に森へ赴き、ネームドを倒して名をあげてやる!って場違いにも意気込んで来たのに、こぉんな騒ぎになっちゃった、だなんて」



キサギは屈んで彼の目線に合わせながら、それはそれは優しいながらも嘲りを含んだ声音で一気に捲し立てた。



彼女に言われた言葉があまりに図星で、ルシアンは青ざめた顔のまま目を見開いた。




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