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12.異様で異常な異例





緊張感で満たされる会議室。



マティアスが今後のキサギ達の事について話始めた。



「君達は今日ここに登録に来たばかりだが、新人でありながら天狼との模擬戦に完勝した上、先程の魔獣と上位魔人の連続討伐という異様な事態を見事に解決させたわけだが…」



そこで言葉を区切り、フウッと一息つく。



「状況を鑑みて、君達はどう考えてもE級の力量をはるかに超越している。反論があれば受け付けるとして……天狼の諸君にはハッキリ言って申し訳ないが、彼女らは君達以上の実力者であると言って間違いないだろう」



マティアスがその言葉を放った後の反応を待ったが、天狼からは特に反論は出なかった。



先程の事態を目の当たりにして、反論の余地がないと判断したのだろう。



彼らとてS級としての自負は、勿論ある。



だがたった一戦だけとはいえ、模擬戦をして瞬殺された。



別に新人だからといって油断などするはずもない。



あの後もしも泣きの一戦をしたところで、もしくは個人戦をしたところで、間違いなく結果は変わらないだろう。



そして魔獣を簡単に屠り、その後のベリアル戦へと思いを馳せてみても、彼女らの実力の振り幅はとてつもなく異常だ。



彼らは全員マティアスの話に反論する事なく、彼からの話の続きを静かに待った。



「正直なところ君達が何者で、何故あれほどの強さを持っているのかは気になるところだ。だが、冒険者のプライベートの詮索は御法度。そこはあえて触れないでおこう」



誰もが気になるところを、知りたい気持ちに揺れながらも、マティアスは冒険者における暗黙のルールを引き合いに出して止めた。



天狼メンバーが先程のグエンの行動に対しジト目を向けると、彼は若干肩身が狭そうにあさっての方向を向く。



「私としては能力のある者を正しく判断して、相応しい階級に導きたい。なによりも、埋もらせておくほどの余裕などない。何せこの世界の魔獣や魔人達は待ってはくれないからな。問題はいつでも山積みで、解決しても追いつかない」



冒険者の登録希望者は年々増え続け、実際世界で3万人ほどの人口が日々クエストをこなしてはいる。



だが、ランクピラミッドの下位が増えたところで上位が数を増やす訳でもない。



危険も多い仕事柄、命を落としたり怪我や年齢で引退する者も多いのが実情だ。



ランクが上へ行けば行くほど先細り、実際の討伐のクエスト依頼数に対し上位・高位のランカー数は心許ないほど少ない。



であるにも関わらず、魔獣や魔人被害は後を絶たないどころか、増え続ける一方で日々頭を悩ませることばかりだ。



確かに下位ランカーのクエストの主流ともいえる採集部門は、人々や国にとって生活と経済の要であり、資源の確保は大切ではある。



だが戦闘部門の先細りを打ち止める事が急務である現状、即戦力の育成と確保は何を置いても最重要課題である事を、ギルド長である彼は身をもって実感している。



例えこの際実績が伴っていなかろうが、実力のある者が現れたのであれば、何としても確保したい。



「よってかなり異例ではあるが、彼女らは全員S級ランク冒険者に相応しいと私は判断した。その証人として、天狼には推薦者となってもらいたいと思う」



マティアスはキサギを見たあとすぐにグエンにも向き直り、ハッキリとそう言った。



「……いきなりですか?……過分な評価、ありがとうございます……」



キサギは正直、上がれてもB級か、良くてA級だろうとふんでいたので、この早すぎる展開に一抹の不安を覚える。



実力は天狼を超えているのは間違いないが、実績のない新人にマティアスがその地位を用意する程の熱意を向けてくる心意が彼女にはわからなかったのだ。



彼の心情やこの世界の実情がわからないキサギには、あまりにも突拍子過ぎて平静を保つのがやっとだった。



そして、まだ続きがありそうなマティアスの話に最後まで向き合う。



グエンとしては、断る理由はない。



先程メンバーも彼の話に反論をあげなかった事から、納得しているのだろう。



「勿論、喜んで」



グエンはマティアスへ笑顔で頷いた。



天狼メンバーも、誰一人として異論を唱える事はなかった。



見るとビャクラン、シュリ、ソウエイもさも当然だ、と言わんばかりにうんうんと頷いている。



「だが、問題は周囲への認知と経験値だ」



ここでマティアスは、当然の問題提起を投げかけた。



「ここにいる者達は彼女らの実力をその身をもって実感しているが、他の冒険者達はそうじゃない」



そう。何度も繰り返すが、キサギ達は今日冒険者登録に来たばかりのルーキーだ。



例え異例の選定試験で合格したからといって、目に見える実績のない新人を特例で突然S級に認定しようものなら、ギルドや推薦者である天狼に不審の目が向けられ信頼を失い、騒動になるのは火を見るよりも明らかだ。



周囲に、異例ながらもそれだけの実力者である事を納得させなければならない。



「特にS級は誰でもなれるものではない。この広い世界にたった30数人、パーティで言えばたった10組しかいない、稀有な存在だ」



何か不測の事態が起きても「彼らがいれば大丈夫」と誰もが思うほどの絶対的信頼。



この世界のS級冒険者に選ばれる者は、そういう存在なのだ。



「天狼との模擬戦での完全勝利、加えてあの魔獣討伐とネームド魔人の撃退の連続戦……君達がそれをいとも簡単に撃退した事実は間違いなく評価に値するし、いずれ公表するとして、それ以外の誰もがその実力を認める成果を挙げ、周囲に知らしめて欲しい」



そして懐から2枚の紙を取り出し、1枚の紙はキサギに差し出し、もう1枚はリムゼイの領地の描かれた地図のようでテーブルに広げて見せた。



キサギは受け取った紙に書かれている内容に目を通してみると、そこにはクエストが書かれている。



「これは?」



「S級冒険者へのクエストだ。このギルドにS級の所属はないが、依頼は回ってくる。天狼には、今日この依頼の話をする為に会談を組んで貰っていた」



キサギは内容に目を通すと、数日前からこのリムゼイの端にある森の奥のダンジョンにネームドの魔獣が住みつき、周辺の魔獣を統率して被害を出しているらしい。



既に薬草・魔石採集の冒険者や、街道を使用する商人に、死傷者が出ているようだ。



近くには冒険者や商人達が利用する関所街もあり、これを片付けないと薬草・魔石採集は滞り、ダンジョンから出てきた魔獣が地域を荒らし、更なる被害者を出すかもしれないという事だ。



「これを私達が行うのですね?」



「あぁ。ダンジョンの手前に森がある。そこでは薬草採集や魔獣討伐のクエストをこなす何組かの冒険者パーティがいるし、ダンジョンへは鍛錬目的で潜る者や魔石採集のクエストを受けた冒険者達もいる。そこで、先程のような実力を出せば間違いなく彼らの目に留まり、後は勝手に噂を流してくれるだろう」



「なるほど。ネームドも排除出来て、私達の実力も見せられる。一石二鳥ですね」



「同行は天狼、あとA級冒険者2人がつく。2人は先程の事情を知っているので心配はいらん。あくまで彼らはサポートで、メインの討伐は君達が行う」



話に出てきたA級冒険者の2人は、どうやら地下のジムで数名の冒険者達と鍛錬をしていたようで、その際に闘技場でのやりとりをたまたま窓から一部始終を見ていたらしい。



天狼を瞬殺し、魔獣をいとも簡単に討伐した時点でかなり驚かれたものの、やはりマグレだろうと疑われていたようだ。



だがベリアルが現れた際、闘技場に駆けつけようとしたがあっという間に片付けられたのを目の当たりにし、あまりの事で動けずジムから見ているしか出来なかったと言っていた、とマティアスが話してくれた。



「彼らも君達の実力を認めている。先程の2人は同行したいとわざわざ申し出てくれた。2人は他の冒険者達からの信頼も厚く顔も広い。君達の情報を流すにはもってこいだ。そして今回の件が片付けば、もう誰も何も言えないだろう。これは最終試験だと思って臨んでくれ」



マティアスがそう言い、テーブルに黒の魔宝石のついたタグを4つ置いた。



「この魔宝石は世界樹の森の魔石から作られたものだ。純度がどの魔宝石とも違う。改めて名前を唱え、魔力を流してみるといい」



キサギはテーブルにあるタグのうちの1つを手に取り、掌の中のそれをじっと見つめた。



今日ここに来たばかりで、あまりの展開の早さに内心苦笑いしつつも、これを利用してさっさと厄介なクエストを片付け、お金を貯めて、どこか静かな土地でスローライフを送れば良い……そうふわふわした野望を心に決めながら。



そして僅かに魔力を流しながら、己の名前を口にする。



石は割れなかった。



ここに異例ではあるものの、ランテル冒険者組合で初の新たな4人のS級冒険者と、世界で3組目となる全員S級ランカーのパーティ"神楽旅団"が、史上最短でひっそりと誕生した。



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