蠕く
不思議な夢を見た。
それは多分夏の草原の中でーー僕は芋虫になっていた。仲間達と共に草を食み、気ままにそこらじゅうを這っていた。
だが不意に、どう言う訳か高いところから空を眺めたくなって、モゾモゾとゆっくり木肌を這い登る。
そして半ばまで来た時、脚に限界が来たのか浮遊感が僕を包んだ。
そのまま僕はなす術なく落下し。
柔らかな地面の上から臨む夏空はいっそ憎たらしいほど青く、高かった。
♪ ♪ ♪
十六回目の夏が訪れた。
教室内は夏休みを目前に浮き足立つクラスメイトの熱気でクーラーが付いている筈なのに少しむわっとする。
普段ならそれを煩わしいと一蹴するのだけれど夏の訪ればかりは僕をして心を躍らせずにはいられない。
僕は基本的に夏が好きなのだ。
日本には四季があり、折々に風情のあるものはあるがやはり夏に見る花火は格別だし、何よりも緑が良く映える。僕の書く小説の大体はその日見た美しい物や綺麗な物を基軸にしているから、夏は正にネタの宝庫と言う訳だ。
とは言え、と僕は自分のノートに視線を落とす。
ーーいつからだろうか。美しいものが書けなくなったのは。
以前は日常に潜んでいる美しい物を書けていたはずなのだ。なのに今はどうだろう。僕の描く情景は色褪せて、くすんで見える。文章が納得が納得出来ずに何度も消して書き直した後がくっきりと残っている。結局妥協妥協で書き続けてはいるがフラストレーションが溜まるばかりだ。
だから、折角の夏なのだし気分を少しでも転換してまた自分の文章を書けるようにと、そう願う。
僕はシャープペンを手に取るとノートにペン先を置く。今日は良い文章が書けそうだ。
「アイツ、夏になってもずっとシコシコ書き続けんのかな。痛いよなぁ、そう言うの」
……黙れ。




