第八話 史上最弱
翌日。
「簡易屋根、取り付けますね」
「おねがいしまーす」
屋根は順調に取り付けられた。それから3日後。
「ご要望の王冠です」
「おお、仕事が早い」
「なんだか王っぽいね、ペランちゃん」
「ぽいじゃなくて王なんだけど」
「そうだった」
「屋根、壁は明日から着工します」
「はい」
「建造中に嵐などが来たらこのテント型王座をお使いください」
「これまた凄いやつを」
「では、今日はこれで」
業者さん達は帰っていった。
「そうだ」
「なしたん?」
「魔物を手懐けようと思う」
「魔物と契約するのね」
一部の魔族は、魔法で魔物を召喚し仲間にする事ができる。ただ、魔物は基本的に自分より弱い者とは契約してくれない。そのため実際戦ってその魔物に勝つ必要がある。
「でもこの前、邪神様と契約する前だっけ。世界で最弱の魔物と言われるゴブリンに「10年はええ!」とか言われながら負けたよね?」
「ああ。あれがショックでしばらくそっち方面は全く考えてなかったんだが」
「ゴブリンより弱い魔物がいるのを思い出してな」
「んんー? そんな魔物いないでしょ」
「それがいるのさ」
「なんてやつ?」
「伝説の魔物『コキュートススライム』」
「えー、あれは伝説上でしょ。一部の古典に載っているくらい」
「まあ物は試しだ。やってみようぜ」
「いいけど」
王座を移動。地面に魔法陣を描く。
「カシャーン」
「おっとっと」
危ない危ない。数字を減らさないよう慎重にやらないと。
「シュッ」
「よし、完成だ」
「出ないと思うけどなー」
「じゃあ、始めるぞ」
「はーい」
「デーデッデ、デデデデ、デーデデーデデ」
「俺の呼び声に応えよ! 『コキュートススライム』」
「……」
魔法陣に反応なし。
「ほら、やっぱりー」
「ゴゴゴゴゴ」
「な、なに!?」
大きな振動とともに魔法陣が急激に輝き出す。
「く、くるか!?」
まばゆい光が俺達を飲み込む。
「ぐっ!」
目を開けていられないほどの光が発せられている。
ほどなくして徐々に光が収まり始める。収束後、魔法陣を見るとそこには魔物が居た。
「成功だ!」
頭一つ分くらいの多きさ、体は真ん丸、エメラルドグリーンの体色。中に白い気泡のようなものがみえる。
「わーお、召喚できちゃった」
「でろーん」
「ん?」
様子がおかしい。近づいて調べてみた。
「どう?」
「し、死んでる!?」
1時間後。
「プルンプルン」
しばらくしたら復活した。死んではいなかったようだ。
「調子はどうだ」
「プルンプルン」
「あれ? 言葉が通じそうにないな」
「標準語が話せないかも。スライム語ならどうかな」
「俺はできん。任せた」
「わかった」
「プルンプルルン(あなたはコキュートススライム?)」
「プルン(そうだ)」
「通じた」
「いいぞ!」
エーレが色々聞いてくれた。そしてさっきは死んだのではなく気絶していたという話だった。
「だーっはっは! さすがは最弱、召喚しただけで気絶とか!」
「よしよし、それじゃあ力試しといくか」
「プルンプルン(お願いね)」
「プルン(いいとも)」
「エーレ、棍棒を」
「はい」
棍棒を受け取り戦闘態勢をとる。
「フフフ、なに。痛いのは一瞬だけさ。いくぞ!」
「デリャー!」
棍棒を振りかぶり、コキュートススライムめがけて打ち込んだ。
「ビュン」
「ドカン」
「ナニッ!」
(攻撃遅っ!)
俺の攻撃をかわすコキュートス。
「ブワッ」
コキュートスが飛び上がる。そして俺の顔に張り付いた。
(遅い飛び上がりね。しかしそれをペランちゃんは避けられないとか)
「むぐぐ」
く、苦しい、息が!
「もごごごごーー!」
「ばたん」
うめき声を発しながら俺は地面に倒れた。
「ちゃん」
「ペランちゃん!」
「ハッ!」
心配そうに俺を見るエーレ。そうかさっきの張り付きで気絶して。
「ってことは俺が負けたのか……」
「プルンプルプルプルルン(エーレさん。私は今まで自他ともに認める(最弱)の者だった。それがまさか、勝ってしまうとは)」
「プルンプルプル(私としてもペランちゃんがアナタに負けるとは思わなかったわ)」
「プルルルルン(これで伝説も含めて世界最弱。究極の世界最弱ね、ペランちゃん……)」
「プルンプルンプルルーン(負けたショックでものすごい顔になってるよ、彼)」
「プル(うわぁ……)」
「プルプルプルルル(そこでだ、どうだろう。今回の戦い、私が負けたことにしては)」
「プルン(しかしそれでは)」
「プルンプルン(私は勝ち負けにはこだわらないからどちらでもいいのさ。それと契約もしよう)」
「プルン(いいの?)」
「プルルン(ああ。さあ彼に伝えてくれ)」
「今回の勝負、ペランちゃんの勝ちよ。むぐぐ言ってた時にコキュートススライムはすでに気絶してたってさ」
「ほ、本当か!」
「うん」
「そ、そうか! 俺は世界No.2に、遂に最弱から抜け出したんだ!」
「プルン(喜んでもらえたようだな)」
「プルルン(ありがとね)」
「それと契約も」
「もちろん!」
その後コキュートスと契約。見張りの仕事でもさせようと思ったが俺より弱いのではそうはいかんな。安全な場所を与えねば。
「日光が当たる場所ならどこでもいいって。後排泄もしないってさ」
「わかった。適当なところにいれてやってくれ」
「はーい」
「ふぅ」
初めて魔物の配下ができた。そして最弱を卒業。
これから俺のサクセスストーリーが始まる、そんなことを予感させる出来事だった。