第三話 誰でも簡単! 楽々交換ワンタッチ王座
それから何事もなく一週間が過ぎ去った頃。
「ペランちゃん、魔皇様からお手紙よ」
「おお、来たか」
トラマが魔皇様に伝えてくれたようだな。
「応援をくれるのかな?」
「どうだろうな、よっと」
封筒から手紙を取り出す。
「なになに?」
『話は聞いた。お主の安全のために魔族領から独立させる。今持っている土地をそのまま領地とするがいい。魔族領、人間領、エルフ領、獣人領、そしてお主の国。これからお主は中立国として領地を支配する者となるのだ。他領地の主にはこちらから説明しておく』
「おお、これは!」
「そうか。これで人間たちから襲われなくなるわけね」
「さすが魔皇様! しかも「領地を支配する者」だってよ! なんかかっけーな!!」
「まだ続きがあるみたいね」
『なお、今後はこちらからの支援は無くなるものとする』
「……」
「えーっと」
「これって、つまり捨てられたってことかな……」
『追伸、別にお主がいらないだとか、面倒だとかそういうことじゃないからね!』
「魔皇ーーーー!!」
「土地的にも切り捨てやすいしね。隅っこだし。戦略的に重要な場所でもないし」
「それでも人間が攻め込んでこないだけマシと考えましょ」
「支援がないってことは毎年もらっていたお給金、金を貰えないってことだよな」
「うん」
「お金は2人だけだからそこまでキツくはないかなぁ。今のところは先代から受け継いだ財産があるし」
「独立か~、って」
「よく考えたら俺の領地っと言ったって俺とお前しかいないじゃないか!」
「まあ」
「はぁぁぁぁーーーー」
どんどんと状況が悪化している気がする。そろそろ詰んだかな!?
「すみませーん、王座の工事をしに来た者なんですがー」
城の入口の方から声が聞こえた。
「あ、業者さんね」
「とりあえず今後の話はおいておいて、業者さんに王座の工事をしてもらいましょ」
「そうだな」
「どうぞー」
業者さんを王座近くまで呼び寄せた。
「ではまず釣り上げリフトを設置しますね」
「お願いします」
1時間後。
「設置完了しました。それでは次に王座を」
「はい」
俺はリフトに乗り上へ。その下で業者の人達が王座の取替作業を。
3時間後。
「はい、設置完了しました」
「お疲れさまです」
「今設置されているのはベッド型王座。背もたれを倒すことで、ベッドに早変わりします。さらに寝ている間に移動できないようにベルト式毛布が備わっています」
「ふむふむ」
「他、そちらのご要望のトイレ型王座、バス型王座も作ってまいりました。移動は車輪がついているので楽々、取替もワンタッチで非常に簡単です」
「いやー、良い仕事だ」
「工事費は後でご請求します。それでは我々はこれで」
「ありがとうございました」
業者さん達は城から出ていった。
「いいね、予定以上のモノができあがったな」
ぱふぱふとベッド型王座の感触を楽しむ俺。
「取替も簡単。王座の後ろが広めだからそこに置いておけるし。あーでも見えちゃうのはちょっとよろしくないか」
「カーテンでもつけておくか」
「後で買ってくる」
一週間後。
「ペーラーン」
トラマが来た。
「様子を見に来たぞって、何してんの?」
「何してんのって見ればわかるだろう? バスタイム中だ」
パシャっと肩にお湯を浴びせてみせる。
「それって王座だよな」
「もちろん。座るところもあるし装飾も豪華だろ?」
「そうだけどさ」
「ところで何か用か?」
「いや、本当に様子を見に来ただけだ。この前自刃しそうになったってエーレから聞いてな」
「ハハ、そんなこともあったな。ヤツラあれ以来来てないし、中立国でどことも争う気はないしで来たところでお帰り願うさ」
「そうか」
「お金はもらえないけど親父からもらった財産があるからしばらくは悠々自適な生活が送れそうだ」
そう。呪いがついてどうしようもないと思っていたが、命を狙われなくなってむしろ安心して生活できるようになった。昔は外敵が来たらダッシュで城を捨ててエーレと一緒に逃げたものだった。その都度トラマが取り返してくれた。
「ふむ、もし問題が起きたら言ってくるといい」
「いつも悪いわね」
「私達の仲じゃないか」
その後、トラマと1時間ほど談笑。
「また来る」
「ペランちゃん、お風呂に入りっぱなしだったわね。もう少し常識ってものを」
「ははは、ペランらしくていいじゃないか」
「だろ? なんなら背中流すか?」
「い、いや。それはやめておく」
「? そうか」
「ではな」
(トラマって言葉使いは荒いけどウブなのよね~。会話中もずっと頬染めてたし。ってサキュバスなのにこの体たらくな私が人のこと言ってる場合じゃないけど)
「おう」
(それにしても、全く気づく様子がないわね。どこまで鈍感なんだか)
「よーし! 飯食って寝るか!」
3日後。朝食を済ませぼーっとしていると城の入口の人影に気づいた。
「誰か来たみたいだな」
「どなたかいらっしゃいますかー?」
「はーい、って人間!」
「げっ! もう襲われないんじゃなかったのか!?」
装備を身に着けた人間の女がこちらへ。俺達は身構えた。
「落ち着いてください。襲う気はありません」
「そ、そうですか」
女は俺の近くまで来ると跪き頭を垂れた。
「私はシノセ、勇者をやっている者です」
来週からは基本的に土曜日投稿となります。
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