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第1話 学生だからと言って教室にいるわけではない。


今年に入って高校2年生。特にいじめに遭っているわけでもクラスから孤立しているわけでもない。

そんな僕に、好きな人がいた。


それは特別変わってものでもない、普通の恋。

気さくな性格で優しくて、どこか不思議な雰囲気を持つ同い年の同級生。そんな子に僕は恋をした。本当にどこにでもあるような一般的な恋。


ただひとつ変わったことがあったとするならば、僕たちが"両想いだった"ということくらいだ。

両想いの恋なんてよくあることじゃないか、なんて思うかもしれない。

僕もそう思っていた、そうでありたかった。


──僕たちは両想いだったんだ。




窓から緩やかな風が入る。

それを浴びて絆されるように靡く髪、ほんのりとしたシャンプーの香りが僕のもとへと漂ってくる。

少女は椅子に座ると笑顔を作った。


「何をしているのか聞いてもいいかな?」


そう問いかけてくるのは『七海(しつみ)結衣(ゆい)』。先ほど言った僕の初恋の相手だった人だ。


「占い……かな」

「ビー玉で?」


僕が手に持ってるのはビー玉と、ビー玉が入った袋。

袋の中には様々な色のビー玉が入っている。

光るようにどれも透き通った色をしており、一般的な市販品でないのは見てわかる。

僕はその袋からビー玉を一個取り出すと外の光に照らしじっと見つめ、また袋に戻す。

そんな行為を淡々と続けていた。


「七海さんは何色が好き?」

「赤かな」

「じゃあ赤が出たらいいね」

「うん」


なんてつまらない会話なんだろう、本当に両想いなのかも疑わしい。

自分でも思う程ぎこちない会話の仕方に気が滅入る。


でも、それしかなかった。


「──青だね」

「うん」


十数個入っているビー玉の中からたった1つの色を取り出すなんて手品が出来るわけもなく、当然のような結果にお互いの反応は変わらない。


「……」

「……」


本当にぎこちない会話と空気が辺りを流れていく、最終的には会話すら続かない。

青色のビー玉を袋に戻しまた同じことを繰り返そうとする僕に対し、七海さんは決して怒ったりしなかった。むしろその時間を楽しんでいるようにすら感じた。


「静かだね」


まるで時間の流れが遅く感じるような静寂の中、七海さんは窓の外を見ながらそう呟いた。

辺りには僕たちの話し声しか響かない。

そもそも僕たちが話しているこの場所は教室じゃない、ましてや理科室や音楽室といった場所でもない。


若い女性の方が扉を開けてこちらを凝視する。

窓の外を見つめている僕たちに遠慮をしたのか、ほんの僅かに躊躇ったあと小さく咳払いをして僕の名前を呼んだ。


「平野さん、検査のお時間です」


──ここは、病院の個室だ。


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