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ふわふわ幸せ第九話♪

 そんなわけでさらに数時間。

 小宮は宣言通り頑張った。

 

「うん。だいぶフォームは安定してきたかな」

 

 ナオが満足そうに頷く。

 確かに、余計な力を入れてるように見えた最初より、小宮の投げかたはうってかわってスマートになった。

 片足を少し引き、体は横を向いたまま顔は正面。さりげなく構えてるカンジ。腕を上げる高さも一定になってきた。

 

 タンッ

 

 小気味いい音をたててダーツ矢が中心円近くに当たる。

 もう的から外れることもなくなった。すっごい進歩! たまにBULLに当たってるし!

 

「このままいけば、イツキにも勝てるんじゃない? 要は全部真ん中に当たればいいんでしょ?」

 

 それが難しいことだってのは分かってるけど。でも逆に言うと、それさえマスターしちゃえばもう安心って気がした。

 だけどナオは首を横に振る。

 

「ダーツで一番得点高いのは真ん中じゃねーの。トリプル20っつって、真ん中よりひとつ上の赤い四角。あそこに当てられるようになんねーとイツキにゃ勝てねーよ」

 

 えっ。そうだったんだ。知らなかった!

 

「ま、結局はどこでも狙った場所に正確に当てられるよーになんなきゃダメ、っつーこと。それには繰り返し練習して、イメージ通りに投げれるようになんなきゃダメなわけ」

「なんか聞くからに地道になカンジ……」

 あたしにはムリって断言できる。

「そそ、地道にやるしかねーの。でもそういうの、小宮に合ってんじゃね? 力いんねーし、こいつ集中力あるし。こんだけ長い時間コツコツ投げてられんのってすげーよ」

「え……そうかな?」

 きょとんとする小宮。

「ああ、もしかすっとイツキに勝てるかもな。ずーっと練習してりゃ」

「が……頑張ります!」

 嬉しそうに顔を輝かせ、ダーツ矢をぎゅっと握りしめる。

 小宮のことを褒められるとあたしもなんだか嬉しい。いいカレシ持ったなー、なんて♪

 

 それから、さすがに今日はここまで、つーことで解散となった。

 ゲーセンの外に出たところで、ナオが「んじゃ」と軽く手をあげる。

 夕食くらいおごらせて欲しい、と小宮が引き止めたけど、ナオは小宮の肩に腕を回して、なにやら耳元でごにょごにょ囁いた。明日持って来る、とかなんとか。でもって更になにやら話してる。

 それで何故か顔を赤くした小宮が納得したように頷き、

「ナオくん、本当に今日はどうもありがとう」

 と両手でナオの手を握って頭をさげる。ナオも「頑張れよ!」って小宮の肩を叩いたりなんかして。今日一日ですっかり仲良くなったなーこの二人。

 あたしもナオを見直した。いいヤツだってのは知ってたけど、まだ一回しか会ったことのない小宮に一日中付き合ってあげるなんて、やっぱ優しくて気のいいヤツだよ!

 エロ魔とかなんやかんや言われつつも女の子にモテるのは、こういう部分が大きいのかも。

「まったねー、ナオ!」

 大きく手を振って人ごみの中に消えていくナオの背中を見送る。

 

「比奈さん」

 

 その後、小宮があたしの方に、改まったように振り返った。

 

「ん? なに、小宮?」

「その……今日は本当にごめん。雑誌の喫茶店にいく約束だったのに」

「ああ……それはもういーの。こっちの方がずっと大事じゃん」

「明日も僕、ここに練習に来ようと思うんだけど……」

「あ、気にしないで。あたし、明日は店のお掃除手伝う予定だし。小宮も一人の方が集中できるでしょ?」

 ホントは淋しいなと思いつつ、にっこり笑顔で手を振った。

 と、急に真剣な瞳になった小宮があたしをじっと見つめてくる。

 

 ん? な、なんだろ?

 

 ちょっとドキッとして喉の奥がつまる。

 と、次の瞬間、小宮の手があたしに伸びてきた。

 

 うひゃっ!

 

 すっぽりあたしを包み込む案外逞しい腕。

 広くて温かい胸に呼吸をふさがれる。

 こ、小宮って、わりといきなりだよね?

 

「ありがとう比奈さん。僕、比奈さんがいるから頑張れるんだ。今日もずっと傍に居てくれて、その……すごく嬉しかった」

 

 小宮のドキドキが顔をうずめた胸から伝わってくる。

 うわーっ、うわーっ! どうしちゃったんだろ、こんな人前で!

 小宮がそういうコト言ってくれるの、初めてじゃないけどそんなにあることじゃないから、なんか照れちゃって言葉がうまく出てこない。

 

「う……うん……小宮の力になれてたんなら、あたしも嬉しいなー、なんつって♪」

 

 どうしてもおふざけ口調になっちゃうけど、心臓はばくばくしててもうマトモに言えないっつーかなんつーか。

 

 小宮の息が耳元にかかってる。

 それだけであたしってば平常心じゃいられない。

 

 再確認。あたしはこんなに小宮が好き。

 

「明日も、姿はなくても比奈さんは傍にいる、って思って頑張るよ」

「もも・もちろん、どこにいても応援してるから! あ・あたしの心はずっと小宮と一緒だよ!」

 情けなくも声が震えちゃって仕方ない。

 

「比奈さんと両思いになれて本当に良かった」

 

 うひゃーっ! やめ、やめっ! あたしを悶死させる気かぁぁ〜〜〜〜っ!?

 

 言ってる当の小宮も恥ずかしそうにもじもじしてて。それがますますあたしの照れを誘う。

 いつになくラブムード高いよ小宮〜〜!

 

 そんでもって少しあたしから体を離し、「えっと……その……」と定まらない視線でチラチラあたしを見る小宮の葛藤だかなんだかの間があった後。

 

「……好きだよ、比奈さん」

 

 思い切ったように言って、小宮の顔があたしに近付いてきた。

 え? と思った時にはもう、静かに重なりあってるあたしと小宮の唇。

 

 ひゃあああああああああ!!

 

 ちょっ、なんで今日はこんなに積極的なの小宮! ああでもそんな小宮もイイかも。そのうえ何度も何度も小さくちゅっちゅしてきて、ちょっ、いつのまにそんなキス覚えたの優等生のくせにぃ〜〜〜〜〜〜っ!

 

 

 もうダメあたし。

 鼻血ギリギリ。昇天ギリギリ。

 

 頭んなかがふわふわふわふわ。

 

 

 悶死。

 

 

 

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