特訓開始だ!第七話
前作、『おいしいチェリーのいただきかた☆』のPVがいつのまにか100万を突破してました!!
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これからも頑張りますね♪
翌日、土曜日の朝から、早速小宮は行動を開始した。
雑誌に載ってた美味しいスイーツの店に行くという予定は小宮のお願いにより中止。
ダーツの勉強のために本屋に行きたいとのことで。
「ごめん! ホントにごめんね、比奈さん!」
いいよ、って何度も言ってるのに、待ち合わせ場所でしつこく頭をさげる小宮に、しまいにはちょっとイラッとしちゃって。
「いいって言ってるじゃん! そんなに理解のないオンナだと思ってんの!?」
若干意地になりつつ、仁王立ちで怒鳴りつけてしまった。
「い、いえ、そういうわけじゃ」
「あたしだって小宮がイツキと友達になるの、応援したいに決まってんじゃん! カノジョなんだから! だからもうグダグダと謝らない! たまには『俺についてこい』的に男らしく引っぱってみるとかしたらどーなの!」
謝られすぎるのも、まるで信用されてないみたいでカッチンくることってあるよね?
小宮ってばそういうの多すぎ! もう調教決定!
「そ、そうですね」
「もっと強気に! ホラやって!」
「え? なにを?」
「男らしく『行くぜ比奈』! 振り向きざまに復唱! ハイ!」
「うっ……い……いく、ぜ……比奈……。……さん」
「アウトォォ〜〜! ハイもっかい、目は流し目で色っぽく!」
「流し目って……」
「やればできる! あたしを愛してるなら頑張って!」
女の卑怯な脅し文句を使ってまで、熱く煽り立てる。真っ赤になる小宮の顔が面白いったら。
「…………。いくぜ比奈さん」
「棒読み禁止!」
「いくぜ、比奈……」
「恥ずかしがらない!」
「いく……」
「ついでに歯もきらめかせて!」
「……もう行ってもいいですか……?」
あ、正気に戻った? てへ☆
何度もやらされて恥ずかしさのあまり小さくなってたのに、突然、真顔に戻ると同時に暗い声で呟く小宮。なに? その死んだ魚のような目。あはは。調子に乗りすぎた?
「うん、ごめん。んじゃそろそろ行こっか」
あたしは小宮いじりをあっさり終了して、マジメに歩き始めた。
ストレス発散には小宮いじり。やっぱりコレデスヨ。
はぁぁ……、と、背後で小宮の深い深いため息の音が聞こえた。
それから約二時間。
デパートの中の大きな本屋に移動し、途端、真剣な目になった小宮が趣味・実用コーナーの棚を漁り始め、あたしも真面目に付き添って覗き込んだりしてたんだけど。
さすがに段々退屈になってきて、あくびをかみ殺すのに難儀している今はもうお昼。
ダメだなぁ、あたしってば飽きっぽい。
ダーツと名のつく本は片っ端から手に取る小宮を見守りつつ、そわそわする体を隠せなくて。
うーん……雑誌コーナーにでも一時退避しようかな。
なんて思ってるところで小宮と目が合った。
「ごめんね、比奈さん。もう少しで買う本決めるから」
「いっ、いいよいいよ別に! いい本あった?」
さっき、影でこっそりあくびしてたの気付かれたんだろうか。
動揺がモロばれのどもり声で返事すると、小宮は「うん」と一冊の本を掲げて見せた。
「これが詳しい図説付きでいいかな、て思うんだ」
「そっか。やっぱ図とかある方がいいよね! あとは練習あるのみ、ってカンジか〜」
「そこが一番難しいところなんだけどね」
「え?」と、苦笑気味に言う小宮を振り返る。
「難しいの?」
「うん……僕の部屋は狭いから、ダーツのセットを買っても練習にならないし。それに、ちゃんとしたダーツのセットって、結構高いんだよね……」
「マジ? どのくらいするの?」
小宮が指で示してくれた本のとあるページを覗き見てみる。
ちょいちょい。5ケタとかあるじゃん!
そこにある数字は、高校生のあたし達にはかなり痛いものだった。
「ハンズとかに売ってるような、パーティグッズのヤツじゃダメなのかな? あれならもっと安いと思うんだけど」
「うーん……。あそこのクラブにあったダーツ、ボードも矢もかなりしっかりしてたから……。安い物だと練習にならないかも」
「そ、そっか……。それは大問題だね」
早くも壁に当たっちゃった予感。クラブでやれば確実なんだろうけど、あそこは夜しかやってないし、店のゲームをずっと独占ってわけにはいかないだろうし。
「どうしようかな……」
顎に手を当てて考え込む小宮。
指の背に軽く唇を当てて、中空に目線を固定する。うっ、なんだかセクシー!
あたしってば、小宮が真剣になればなるほど欲情しちゃってるダメ女だよどうしたもんだかコレ。
その時、ショルダーの中の携帯から、こないだダウンロードしたばかりのドラマ主題歌である着信音が流れた。
「あれ? ママかな?」
ゴソゴソと携帯を取り出し、二つ折りのソレをぱかっと開く。
「えっと……えっ? ナオ!?」
ナオだった。
いやそんなに驚くほどじゃないんだろうけど。
あたしのケイ番教えてあるし、たまにはナオからだってかかってきてもおかしくないし。
でも遊びの誘いはいつもイツキを通して、ってカンジだったからやっぱり珍しいことなんだよね。
『よっ、比奈! 今、優等生クンとデート中だったりする?』
いつものラテンなノリの声。でも電話から聞こえてくると何故か新鮮。
「やっほー、ナオ。うん、デート中だよ」
『お〜〜ちょうどよかった。ダーツの特訓って、してんの? 彼』
「あはは、今ちょうどその話で頭抱えてたとこなんだ。入門書みたいなのは見つけたんだけど、練習する場所もモノもないねーって」
『マッジ!? 俺ってエスパー!?』
「は? なにそれ?」
『すっげータイミング。やるね俺! あ、つまりはちょうどその件で、折り入って話があったってワケ』
「話? ダーツのことで?」
『そ。よければ俺がコーチしてやろっかな〜なんて思ってんだけど。どう?』
「え……コー……え・えええええっ!? コーチ!? ナオが!?」
思わず店じゅうに響き渡る大声で反応してしまった。
小宮がハッとした顔であたしを見る。話の内容を察したらしい。
『なんつー声だすんだよお前』
「だ、だって、小宮をコーチするってコトは、小宮を応援してるってコトで……ナオ、イツキの味方じゃないの? ダーツ勝負言い出したのナオじゃん!」
『バーカ、んなのは作戦に決まってっだろ。ああいう風にもってかないとイツキのやつ、いつまでたっても意地はってばっかじゃん?』
確かに、そうかもしれない。
勝負に負けたら仲良くするって約束だから……とか、そういう縛りでもないと、イツキは小宮を素直に受け入れることはできないだろう。
イツキの優等生嫌いはそれほど筋金入りだったのだ。
「そっかー。けっこうアッタマいいじゃん……って、それは小宮が勝ったらのハナシで、負ける確率の方が全然でかいんですけどーっ!」
『なんだよ。比奈、カレシのこと信用してねーの?』
「えっ。そんな……こと、ないけど」
思わぬナオのツッコミに、しどろもどろに答える。そういう聞かれ方されると反論できないじゃん。ナオってばずるい。
『な? やってみなきゃわかんねーべ? つーわけで、コーチしてやっから、やれるところまでやってみよーな?』
顔を上げると、ソワソワとこっちを窺う小宮の話を聞きたくてたまらなさそうな目と視線が合った。
もう返事は決まったようなもんだろうけど、改めて話して欲しそうだから、期待に応えましょーかね、と深呼吸をひとつ。
「小宮。ナオがさ。ダーツのコーチしてやろーか、って言ってんだけど、どうする?」
「是非、よろしくお願いしますっ!」
その一声は、次の瞬間、ハタキを持った店員さんに店から追い出されるほどに力強かった。