クラブへ集合!第四話
「気楽に気楽に。リラックス、リラックス」
トンカチで叩いたらいい音しそうな小宮に、努めて明るく言う。
小宮の歩き方、SF映画に出てくるロボットみたい。めちゃくちゃ緊張しまくってる。
見た目はそれなりにあたしが整えてあげたんだけど。ジーンズとTシャツとアクセで、ほんの少しラフにチャラっぽく。 でも全然チャラけて見えないわこりゃ。
「みんな気さくなヤツだからさ。踊りもテキトーに合わせてりゃオッケー。躍るのダメそうならムリしなくていいよ」
「踊り…………盆踊りは出ないよね?」
「出るわきゃねーだろっ」
麻美の即ツッコミが小宮の後頭部にヒットする。
いつもはあたしの夜遊びには付き合わない麻美なんだけど、今日は「面白そうだから」って理由でついてきた。
イツキの小宮を嫌がる様子が面白いらしい。麻美ってトコトンSだよね?
煌びやかなネオンの光に包まれて歩くあたし達。
ここに来ることも、めっきり少なくなった。小宮と付き合い出してから。
小宮みたいな真面目コは、こういう場所に来ると萎縮してしまうものらしいけど。あたしにとっては、むしろ我が家のようにくつろげる。
一番淋しかった時期、あたしをあったかく包んでくれたのが、このネオンだったから。
酔っ払いのおっちゃんと、朝まで地べたに座って、缶コーヒー片手に語り明かしたこともある。
どんな人とだって肩を寄せ合える。そんなキモチにさせてくれる場所なんだ、ここは。
「んじゃ、入ろっか」
ゲーセンが隣にある、ひときわ大きな建物の前で足を止めた。
ダンスする男女の影絵が壁一面に描かれていて、何をする場所なのかは一目瞭然。これを見てホテルだと思う人はいないだろう。
完全な防音になってるから、近くに行くまでは中の音は聴こえない。でもいったん扉の中に入ると、空気を震わす重低音が一気にのしかかってきて、リズムが体を支配する。
あたし達三人は、受付をすませ、青と赤の照明が浮かび上がらせる熱気の中心地の外側をまわり、いつもの仲間がたむろする場所に向かった。
「比奈! こっちだこっち……いっ!?」
あたしの姿に気付いたイツキがまず手を振ってあたしを呼び寄せ、すぐに顔を凍りつかせる。
「きたよーイツキ♪」
「待て待て。幻覚か? 俺の見間違いだよなきっと?」
「イツキくん、いきなり来てごめんね」
「今日はよろしくするわ」
よろめくイツキにアイサツする小宮と麻美。
みるみるイツキの顔は耐えられないってカンジに歪んでいった。でもってあたしの頭をぐわしっと掴んでくる。
「イタイイタイー!」
「呼んだのはお前だけだろ! なんでいらんもんくっつけてくんだよ!」
「だって二人が来たいって」
「来たいって言えばパンダでも連れてくんのかお前は! しかもお邪魔虫ランキングTOP2じゃねーか!」
「お邪魔虫で悪かったね。アンタの歓迎なんか期待してないから」
イツキの横腹をつねりあげながら、冷たい声で言ったのは麻美だ。
さすが麻美。全然負けてない。
この二人が付き合ったら面白いカップルになりそうなんだけど、残念ながら麻美は彼氏持ち。
惜しいなー。
「おわっ! 麻美ちゃんじゃん! マジで!?」
その時、イツキの後ろから、イツキの大親友、ナオがやって来た。
垂れ目でちょっと可愛いやんちゃ系のマスク。でも中身はスケベ小僧。
イツキ以上にノリが軽くてもはやラテンの域。でも結構女子に人気の面白いヤツなんだ。
「ちわーす! よくきたね〜。美人大歓迎だよ!」
「ほら。アンタ以外は歓迎してくれてるから。一人でノリ悪いヤツに成り下がってんの、かっこ悪いよ」
容赦のない追撃に反論できず、イツキは悔しそうに麻美を睨みつけるばかりだった。
ムリムリ。あたし達の頭じゃ麻美の口に勝てるわけないから。悪いけどとっととあきらめてこの状況を受け入れてね、イツキ。
「ちくしょう。すっげぇ帰りてぇ……」
「なーに言ってんだイツキ。……ん? そっちの彼は……あれ? もしかして、比奈と同じクラスの……」
「あ、はい。初めまして。小宮啓介です」
ナオの質問に恭しいお辞儀で答える小宮。
途端、ナオの目が本当にびっくりなカンジに丸くなった。
「マジ……? あの優等生の小宮くん? ええっ!? 全然学校と違うじゃん!」
「へっへーん♪ あたしがコーディネートしたげたの」
「なぬぅっ!? って、あ、そっか。比奈、付き合ってんだっけ、小宮くと。あー……そっか。それで最近イツキの様子が」
「ナニ喋ってんだ!」
イツキに耳を引っぱられて、「イテテ」と話を中断する。ナオって思ったことをすぐ口にする癖があるから、いっつもイツキにどつかれてるんだよね。
「なんだか僕一人、浮いててすみません。踊りとかもできないんですけど、比奈さんのお友達に会ってみたくて」
「あ、全然! 気にしなくていいから! 俺たちみんな軽いノリで集まってんの。躍りたいヤツは躍るし、喋るの好きなヤツはだべってるだけだし。小宮くんも楽にしてていっから! とにかく座ろうぜ?」
「いいかな? イツキくん」
「――っ! 俺に訊くな! イヤでもしょーがねぇだろっ。でも気安く話しかけてくんなよ。俺は絶対お前と仲良くする気はねーからな!」
あはは。予防線はられてるよ。
まぁでもイツキの反応は想定内なのか、小宮は逆に嬉しそうに頷いてる。
そんな二人のやり取りを見て、ナオが意外そうにイツキの顔を覗きこんだ。
「なーんか、仲良くね? お前、優等生嫌いなおったん? ちゃんと友達してんじゃん」
「あに言ってんだ! めちゃくちゃ嫌ってるだろ、今!」
「前はもっと冷たいカンジだったじゃん。すっげーよ小宮くん。コイツの優等生嫌い、なおすなんてさ」
「え? 僕が?」
「ナオ! てっめ、妙なコト言ったらぶっとばすぞ!」
「コイツ、アレだよアレ。ツンデレってやつ。クチ悪いのが愛情の裏返しだから、けっこう気に入ってんだよ。小宮くんの」
「殺すぞお前っ!」
「いっ……んなに怒んなって」
「ツンデレ……? ……はぁ……?」
目を点にする小宮と、ナオの背中にパンチを入れながら怒るイツキと、軽い調子でそれを受け流すナオ。賑やかで楽しそう。いいなー。
微笑ましいんだけど、あたしはやや淋しい気持ちで男子三人を見つめた。
男の子たちのじゃれあいって、女には入りにくい雰囲気があって、ちょっと羨ましいとこがあるんだよね。
でもここはでしゃばらず、カノジョのヨユーってヤツで見守ってあげなきゃ。
それがオンナ度を高めるポイント。なんちゃって。
隣の麻美に、くすっとした笑みを向け、呆れたように言ってみせるあたし。
「まったく、男の子ってコドモだよね。ねぇ麻美?」
だけど。
「ゆっとくけど、いつものアンタと小宮もあんなカンジだから」
ジト目で返す麻美のセリフは、あたしの余裕をあっさりバッサリ斬り捨てたのだった。