それってどうなの?第二話デス
いつも応援してくださっている読者の方々、どうもありがとうございます!
のっけから砂吐き全開、思わずどつきたくなる二人でしたが、いかがでしたでしょうか?
この「もっと!チェリー」は続編を望む読者様の声に応えるべく執筆したものです。
楽しんでいただけたなら幸いです♪
四万文字ほどの軽い中編ですが、よければ最後までどうぞお付き合いよろしくお願いします。m(_ _)m
それと、前作の「チェリー」とこの「もっと!チェリー」をあわせてアルファポリス恋愛小説大賞にエントリーしてみました。
たまたま時期があったのでエントリーしてみただけなのですが、よければ応援してくださると嬉しいです♪
ではどうぞ本編をお楽しみください〜〜。
翌朝。
小宮にもらったチューの効果はまだ続いてて。
ふわふわ幸せ気分で校門にまで辿り着いた。
気を抜けば、小宮のあのセリフを思い出して、にやにやする怪しいヒトここにいまーす! ってカンジなのをどうにかこうにか抑えて登校。
やばいって。このままじゃ今日のテスト赤点だって。いやこんな状態じゃなくても赤点必至の数学なんだけどさ、今日は。
「こんなコトなら、あんなお願いするんじゃなかった……」
そんなアタマんなかハートマークだらけのあたしに周囲の景色なんて見えてるはずもなく。
気付いたら、前を歩いてた人の背中にモロぶつかりしてた。
「あぶっ!」
我ながらへんてこりんな奇声をあげて、一歩後退。
イテテッ。は、鼻ぶつけた!
「ぶっ。誰かと思ったらお前かよ、比奈」
およ? この声は……。
笑い混じりの聞き慣れた声に顔をあげてみれば、そこにいたのは昨日の話題の主、イツキだった。
「あぶっ、てどんな悲鳴だよ。朝から笑かすなバカ」
金に近い茶髪を陽の光にきらめかせたイツキは、多分、この学校でもかなり高ランクのイケメン。
制服のタイを緩ませてるところや、片耳にピアスしてるところ、肌の色が少し焼けてるところ、長身で引き締まった体してるところなんかがワルそうで、女子にかなりの人気アリ。って前作読んでるヒトは知ってるよね?
「だって考えゴトしてたんだもん。そういう時って思わぬ奇声が出たりしない?」
「そういうトコがオンナ度低いんだよお前。油断してる時でも可愛い悲鳴出せるように訓練しとけ」
「うーん、”あぶ”は可愛くない?」
「どこのガキがぶつかったのかと思ったぜ」
「ふむふむ、”あぶ”はガキっぽい……勉強になりますイツキ先生!」
「おう。今日のテストに出るからよく覚えておくように」
「って数学じゃん! 出たらキセキだよ〜〜っ!」
朝のあくせくした周囲から浮きまくりの大笑いするあたし達。
イツキとあたしっていつもこんなもん。バカ言い合って、じゃれ合って、悩みなんかないって顔して。
だから気付くの遅れたんだ。イツキがホントは重いものを背負ってて、それに押し潰されないよう軽く振舞ってたんだってコト。
「比奈。今日でウツなテストも終わるしよ。夜はパーッと騒がねー?」
笑いを半分ひっこめて、イツキがさらりと訊いてくる。いつものお誘い。
あたしはもちろん、「うん!」と元気よく返す。もうイツキが助けを求めてる時を見逃したくないから。
あ、でも、今日はどっちにしろ放課後みんなでお茶するんだった……って、小宮がいるんじゃイツキは来ないか。じゃあ、夜はイツキたちと遊ぶ予定いれるかな。
まだ朝の予鈴まで時間があるからと、昇降口の前でダベるあたし達。いつものクラブ集合で、誰を呼ぶか相談しあってた時だった。
「イツキくん!」
聞き間違えるはずのない愛しの声が遠くから聞こえてきて、あたしの頭にパッと花が咲いた。
対照的に、「げっ」と顔をしかめるイツキ。
あはは。そこまで苦手か、小宮のコト。
振り返ると、息せき切ってこちらに走り寄ってくる小宮の姿。今日はメガネ着用だ。
おじいさんがくれたっていう古臭いべっ甲縁のメガネは小宮のトレードマーク。
あれを着けてると、目の大きさのバランスが崩れるし、なんかドンくさく見えちゃうんだけど。
一旦あれを外すと、サナギから蝶になりましたー! ってなカンジの爽やか好青年に変貌する、なんだか一粒で二度美味しい変身メガネ男子。
今更紹介するまでもないだろうけど、あたしのダーリン、小宮啓介。外見は前作からまったく変わってません!
「おはよう、イツキくん。丁度よかった。話があるんだ」
純朴そのものの笑顔を浮かべてやってきた小宮は、イツキの嫌そうな顔にひるむことなく話しかけてくる。
だけどイツキはいつもの超華麗なスルー。
「そろそろ教室に入ろーぜ」
小宮から顔を逸らして昇降口に入っていく。
あははは。徹底してるなー、イツキ。
「あ、待ってイツキくん! 今日の放課後、良かったら一緒にお茶でも」
「いーわけねーだろ! なんで俺がお前とお茶しなきゃいけねーんだよ! ホモかお前! キモすぎんだよっ!」
照れとかじゃなく、心底イヤそうに怒鳴りつけるイツキ。
ごめん小宮。あたしもその誘いかたはどうかと……。
「え、あの、僕と二人でじゃなくて、比奈さんと麻美さんと四人でってことで」
「あの上から目線オンナもいんのかよ! お前とセットで最悪コンビじゃねーか! ぜってー行かねーっつの!」
上から目線オンナ……。イツキ、密かに麻美のコト苦手だったんだ……。
「比奈。俺、先に行くからな。昼はぜってー誘ってくんなよ! またメールすっから、夜にな!」
イツキは一秒でも早く小宮から遠ざかりたいらしく、半分捨てゼリフのように上履きをひっつかんだまま階段を駆け上っていった。
乾いた笑いを浮かべながらその後ろ姿を見送るあたし。
と。
「え……比奈さん……?」
その時、初めて気付いたかのように、小宮があたしの方を見た。
横に立ってたあたしの方に。
「あ、比奈さん! いたんだ? ごめん、気付かなくて。おはよう」
すまなさそうな顔で、余計な一言の混じった朝の挨拶。
カッチ――――ン
カッチンきましたよコレ。ちょっとどういうコトでしょう?
付き合ってまだ二週間のカノジョを見落として、他の男へまっしぐら。しかも「いたんだ?」ときたかヲイ。
さっきまでのふわふわ気分が一瞬で吹っ飛んだ。跡形もなく。代わりに怒りの炎がめらめらと燃え上がってくる。
あたしは小宮のタイを根元からぐわばっと引っぱった。
「小宮っ! あんたガチガチ症克服とかの前に、その失言癖をなんとかしなよねっ! オンナノコはデリケートにできてるんだよっ!」
「ご、ごめんっ! またなんかやらかした、僕?」
「やらかしまくりだよこの天然メガネ! 天然なら全てが許されると思うなーっ!」
小宮の首をがくがくと揺さぶって吼えまくるあたしと、ひたすら謝り続ける小宮。
「勝手にやってろ」と言わんばかりに、朝の予鈴が響きわたった。