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あれあれあれれ?第十三話

「両者トリプル20! 60点で同点!」

 

 二人を取り巻く観客たちの間から感嘆の息が漏れる。

 なんてゆー緊張感。ただ三本の矢を放つだけのゲームなのに、既にみんな目を離せないくらいに惹き込まれてる。

 

「ま、こんなもんだな。だいぶ練習したみてーだが、一回まぐれアタリしただけじゃ俺には勝てねーぜ?」

 

 ぐはっ! ま、まぐれだとう!? そんなんじゃないもん! 小宮は完全にマスターしたんだもんね!

 

「イツキお得意の精神攻撃だよ。なにアンタがひっかかってんの」

 

 イツキの遠い背中にシュッシュッとジャブを入れてたら、隣の麻美に突っ込まれた。

 なるほど。頭に血を昇らせようという作戦か。危ない危ない。

 フ……あたしはひっかかりかけたけど、小宮はそんなのにひっかかるほど愚かではなくってよ!

 

「二回当たればまぐれじゃないって分かるよね?」

 

 ほぉ〜〜れ御覧なさい! お〜〜ほっほっほっ!

 

「アンタ、キャラ変わってる……」

 

「オンナ度下がった?」

「かなり下がった」

「面目ない……」

 

 って、そ、それはともかくとして!

 

 小宮とイツキの勝負は得点争い以外のところでも熾烈に行われてるようだった。

 バチバチッと二人の視線の間に火花が散っている。

 友達になるための勝負じゃなかったけコレ?

 お昼、楽しそうにナオと三人でじゃれあっていた、あの時の親密さなんて欠片もない。

 男の子って、本当に割り切るの得意だよね。

 

「んじゃ二投目いきまっしょー! 先攻、小宮!」

 

 再び表情を引き締め、小宮が呼吸を整える。

 二投目、きっと、小宮はまたトリプル20を狙う。三本とも当てるのは、前投した矢が邪魔になって難しいけど、最高点を狙うにはそれしかない。

 ボードを見据えた小宮の腕がスッと上がった。

 

 その時。

 

「脱チェリーの特訓はもうやめたのか?」

 

 イツキのとんでもない横槍が入った!

 

「なっ!」

 

 途端、小宮の体勢が崩れた。腕が落ち、真っ赤になった顔からは汗が噴き出し、口をあわあわさせる。

 

 なっ、なんというファイナルウエポン!

 

 タンッ!

 

「ああ〜〜っ」

 

 周囲から残念な声があがる。

 再度呼吸を整えてから矢を放った小宮だったけど、やはり受けた精神ダメージはでかかったのか、当たったのはBULLよりやや下の低得点の場所だった。

 

「ズルイよイツキ! 小宮の弱点をつくなんて!」

「ばーか。ゲームってのはな、心理作戦のが重要なんだよ」

 

 うぬぬぬ。小宮、イツキにあたしとの馴れ初め話しちゃったのかな?

 アレは相当小宮もへこんでたから、触れられると痛いだろうに。仲良くなろうと思って話しちゃったんだろうなー。

 すっごいショック受けた顔してるよ小宮。

 

「正々堂々の勝負じゃ……」

「ウカツなんだよ、お前が。敵に弱点教えるバカがいるか? 知ったら利用するに決まってんだろ」

「そ…………そっか。あは、あはは。確かに、心理作戦って効くんだね。なるほど。教えてもらえて嬉しいよ、うん」

  

 額の汗を手の甲で拭いながら、イツキを向く小宮の顔は、珍しいことにちょっと怒ってる。

 頬をひくつかせて笑おうとしてるけど、目が笑ってないし、決定的なことに声が震えてる。

 あんなに練習したのに卑怯な手で妨害されたから、さすがの小宮もカッチンときたんだなこりゃ。当たり前だけど。

 

「だろ? お手本を見せてやったんだよ。平和なアタマしてるお前によ」

「うん。よく分かったよ。どうもありがとう」

 

 ピリピリ。ピリピリ。

 うっ。段々空気が殺伐としてきた。そういや一ヶ月くらい前はいがみあってたんだっけ、この二人。こんな風に。

 

「こ、小宮。落ち着いて」

「え? 大丈夫だよ比奈さん。僕は落ち着いてるよ?」

 

 そ、そうですか?

 なんか笑顔が怖いんですケド。

 

「残念だったな、小宮。これで勝負がついちまうかもな」

 

 嫌味ったらしいニヤニヤ笑いを浮かべたイツキがダーツボードに体を向ける。

 小宮の笑顔は貼りついたように崩れない。

 だけど、イツキの腕が上がった瞬間、小宮の口からさり気ない言葉が流れ出た。

 

「そういえば……あの時の女子三人から、後で聞きだしたんだけど……」

 

 ピタッ。

 とイツキの動きが止まった。

 

 あの時の女子三人? なんのこと言ってんの小宮?

 

「まさか、女の子を使って追い詰めるだなんて、そんな姑息なコトする人じゃないと思ってたんだけどね、聞いたときは」

 

 電池が切れたロボットのように、イツキは止まっている。

 いや、頬だけは微かにひくついてるみたい。

 

「な、んのコト言ってんだかさっぱりだな」

「うん、そうだよね。僕の聞き間違いだよね、きっと」

 

 キョトン、と二人を見守るあたし達観客一同。

 なになに? 何が起こってんの?

 水面下で激しい攻防が繰り広げられてるっぽい空気は感じるんだけど、会話の内容はまったく掴めない。

「ぶっ」

 って、横で珍しく麻美が噴きだした。

「イ、イツキ……そうだったんだ。バカだアイツ……や、やるね〜小宮っ」

「え? なに? 麻美は二人の話わかんの?」

「わかんないアンタがおかしいっての」

 

 え? え? え?

 

「ゆっくり呼吸を整えてからでいいよ」

「うるせぇっ! オマエに言われなくてもゆっくり投げさせてもらわあ!」

 

 どう見ても冷静さを失ったイツキがスーハーと深呼吸する。それから矢を構えた。

 それでも姿勢が安定してるところはさすがにイツキ。

 が、矢を放つ直前。

 ポソリと小宮の声。

 

「でも比奈さんは許してくれると思うよ?」

 

 タンッ!

 

「おおっ!?」

 

 どよめきの声が広がる。

 イツキの放った矢は大きく中心を逸れ、ボードの右上に当たったのだ。

 

「て、て、てめっ……」

 

 今起こったことが信じられないのか、顔色を失ったイツキがホラー映画の殺人鬼のようにぎこちない動きで小宮の方を振り向く。

 

「これで勝負続行だね?」

 

 にっこりと微笑みを返す小宮。

 

 ぶちっ

 

 とその時、何かが切れる音がしたように感じたのは、突然歪んだイツキの表情があまりに怖かったからだろうか。

 それとも、危ういバランスで保たれていた静寂が一気に破られたからだろうか。

 

 とにかく、その瞬間、何かが崩壊したのだった。

 

 

 

次回で最終回です!

やたらと長いHP5万HIT記念スピンオフに、一ヶ月間お付き合いいただき、どうもありがとうございました〜!

ダーツ勝負の行方はどうなるのか?

小宮とイツキは友達になれるのか?

次回、最終回をお楽しみにです♪

 

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