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燃えよ闘魂!第十一話

 タンッ!

 

 力強い快音が空気を震わせる。

 その後に続く息づかいは静かで深い。

 ひたすら前を見つめる瞳は穏やかな海を思わせつつ、山のような厳しさも揺らめかせて。

 

 カッコイイ。

 ひたすらカッコイイ

 

 写メ! そうだ写メ撮っとかなきゃ! あっ、でもここ暗いから写らない!

 

 残念ーっ! ってかネタふるっ!

 

「ふう……。ちょっと休憩、比奈さ」

 

 小宮がこっちを振り返る。携帯を構えて残念ポーズしてるちょうどその時だった。

 なんでそんなにタイミングいーかなぁ?

 

「…………」

 

 どうコメントするべきか迷ってるような微妙な顔して固まらないで欲しいんだけど。そこは「なにやってんだヲイ!」くらいのツッコミはしてくれたほうがこっちのダメージは少ないんだよ?

 

「えっ……と、退屈?」

「う、ううんっ、見ての通りネタの練習してたから!」

「そ、そう……」

 

 彼氏に見られたくないシーンTOP10入りポーズをささっと引っ込めて、あたしは小宮のもとに駆け寄った。

 ポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭いてあげる。

 

「すごいね小宮。二回に一回くらいは狙ったところに当たってるじゃん」

「でもまだまだだよ。100%確実に当たらないと」

「すぐできるようになるよ! まだ明日もあるし!」

 ニコッと笑って小宮を励ます。

 今日は水曜日。今は放課後。

 いつもなら平日は空手部の部活がある小宮なんだけど、水・木・金と休ませてもらえることになったので、こうして例のゲーセンでダーツの練習に励んでる。

 決戦は金曜日だから、明日の放課後も練習できるってわけ。

 

「うん、そうだね。頑張るよ」

 

 胸きゅん笑顔でそんなコト言われちゃ応援しないわけにはいかないでしょ。例え今が8時でも……えっ? もう8時!?

 

「小宮! 8時だよ! そろそろ帰らないと!」

 ふと見てしまった時計を指差して教えると。

「えっ、ホント!? まずいなぁ、家に電話するの忘れてた」

 慌てて携帯を鞄から取り出す小宮。

 こりゃお茶する暇もなく「また明日!」かな。あたしんちと違って小宮の家は普通の家庭。夕食作って待ってるんだもんね、お母さんが。

 淋しいけど仕方ない。

 

 ふい、と横を向いて、顔を見られないようにする。淋しがってるのを知られるのって、なんか恥ずかしいんだよね、昔から。

 ぼんやり光るダーツボードを見つめながら、小宮の電話が終わるのを待とうと思ってた。

 と、頭に優しい重みがのっけられる。

 

「ごめんね、比奈さん。ケーキ屋さんに行くって約束、ずっと延期してて。これ、とてもケーキには及ばないけど」

 

 優しい重みはあたしの顔の横をすっと落ちて、目の前にきた手がおずおずと開かれる。

 そこに現れたのは、さくらんぼ味のキャンディ。月曜日から、時々小宮がくれるようになった。

 

「今はこれで我慢してくれるかな?」

 

 バカ。わがままなんて言えるわけないじゃん。小宮の傍にいたいのはあたしなんだから。そんなに優しくしてくれなくても我慢できるよ!

 ――なんて意地っ張りな心は、ほんの一瞬で蕩けちゃう。

 この甘酸っぱさが癒してくれるのかな? 小宮の優しさと同じ味だから。

 

「うん。ありがとね小宮」

 

 素直に受け取って振り返る。

 キスしたいけど、その温かい腕に抱きつくだけにしておいた。

 

 

 そんなこんなで迎えてしまった決戦の日。

 

 あたしは小宮と一緒にランチしようと、お昼休憩、トイレから戻って教室を見回してみたけど、いつもなら数人のクラスメイトと一緒にお弁当食べてる小宮の姿がない。

 席で待ってた麻美に聞いてみた。

 

「麻美ー。小宮知らない?」

「小宮? あ、そういえばさっき、ナオとイツキがきて、三人で出てったよ」

 

 ナオとイツキ?

 決戦前の宣戦布告とかそういうの?

 

「屋上に行こうか、って言ってたけど」

「はっ! まさかリンチ!?」

「ないっしょ、それは。最近、なんかよくつるんでるし。仲良くしてるっつーか三人でコソコソしてるカンジだけど」

「あ! 麻美も気づいていた? なんかコソコソしてるよね、小宮もナオも。あのイツキまで一緒になって、どーしちゃったんだろ?」

 

 そうなのだ。最近、てゆーか月曜から、たまにナオとイツキが小宮を呼びにやってくるようになった。

 何を話してるのか、って小宮に訊くと、「おしゃれについて」とか答えるんだけど。それなら堂々と教室で話せばいいじゃん。ちょっとウソくさい。

 大体イツキ、小宮と話すの、あんなに嫌がってたのに。どんな心境の変化があったのやら。

 

「屋上いく? 比奈」

「……う、うーん……」

 

 もし……男同士の話で盛り上がってるんなら、邪魔するのは悪いよね。せっかく仲良くなりかけてるんだから。

 もしかしたら小宮とナオで、イツキが打ち解けてくれるように、なんかやってるのかもしれないし……。

「とりあえずはいいや」

 あたしは鞄から弁当箱を取り出し、麻美の席に向かった。

「そか」とパンの袋を机に広げる麻美の正面に、前の人の椅子を借りて座る。

 弁当箱のフタを開けた時、にぎやかなナオの声が廊下から響いてきた。

 

「んじゃ、また後でなー小宮! 本はいつでもいっから!」

「うん、ありがとうナオくん。イツキくんも」

「言っとくがコレと勝負とは別の話だかんな。手加減はしねーぞ」

「僕ももちろん、そのつもりだよ。正々堂々と勝負しようね」

「……ふん。ま、お前にゃ負けねーよ」

「それはわからないよ」

 

 なにやら熱いやり取りをしてるみたい。

 随分仲良くなったように感じるのはあたしだけ?

 男の子ってよくわかんない。いきなり仲良くなったり火花散らしあったり。

 スポーツ界でもやたら挑発しあうけど、試合が終わったら仲良く抱き合うんだよね。

 

 教室に入ってきた小宮があたしに気づいて足を止めた。

「小宮なら絶対勝てるよ!」

 にっこり笑って激励の言葉をかけると、照れくさそうな笑みを返してくる純情少年。さっきの強気発言した人と同一人物にはとても見えない。そのギャップが胸にキュンとくる。

 

 うん、絶対、小宮なら勝てる。

 

 あたしの闘志も静かに燃え上がってくる。

 

 

 そして――決戦の夜はやってきた。

 

 

 

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