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第壱話 占いと霊刀

参章開始。

感想、評価、ブックマークありがとうございます。

 何時もと変わらぬ教室の景色。けれど、何時もと違う光景がそこにはあった。


「ねえねえ! 今度はあたしを占って!」


「ちょ、今度はわたしだって! 順番待ちなよ!」


「喧嘩しないでよ! 順番つっかえてんだから!」


 教室のとある一角にて、女子達が集まって姦しくなにやら騒いでいる。


「くっふっふ。まぁそう焦るでない。我は逃げも隠れもせん。順番に占ってしんぜよう」


 女子達の中心に居る女子が、自信満々に言い放つ。


 そう言った少女の様相(ようそう)は変わっており、ひらひらのフリルの付いた校則を軽々と違反した制服に、長い長いツインテール。肩には縫いぐるみを乗せており、更にはテーブルの上にはなにやら怪しげな蝋燭や魔方陣が置かれていた。


 いわゆる所の、ゴシックロリータという格好に近いだろう。一目見ただけでは周りから敬遠されそうな格好だけれど、少女の周りには幾人もの女子生徒が集まっていた。


 クラス、学年問わず、上善寺学園に通う女子生徒が少女の元に日替わりで集まっていた。


「して、御主(おぬし)は何を占ってほしいのだ?」


 ゴシックロリータの少女は眼前に座る女子生徒に問う。


 女子生徒は照れたように頬を赤らめながらも、ゴシックロリータの少女に言う。


「じ、実は、私、好きな人が居て……」


 少女がそう言えば、周りの女子生徒はきゃーきゃーと黄色い声を上げる。


 その声に、本を読んでいた男子生徒が迷惑そうな顔をするけれど、女子生徒達はお構いなしだ。


「ほう。では、御主の想い人との相性について占えば良いのだな?」


「う、うん。お願い、します……!」


「うむ、良かろう。では、占ってしんぜよう。我のーー」


 言って、ゴシックロリータの少女は右目を隠していた魔方陣の書かれた眼帯を外した。


「ーーこの魔眼でな」


 少女の瞳が赤く光り輝いた。

 


 〇 〇 〇



「占いって、結局どうなんだ?」


 平安のとある昼下がり。雪緒と晴明は縁側でお茶を飲みながら、いつものように歓談に興じていた。


 そんな歓談の最中(さなか)、雪緒が思い立ったように晴明に問いかける。


「どう、とは?」


「当たるのか当たらないのかって事。結局、当たる確率ってどれくらいなんだ?」


 雪緒のともすれば天下の随一の陰陽師、安倍晴明に対して失礼な質問に、けれど晴明は気を悪くした様子も無く答える。


「私程になれば、九分九厘当てるな。道満もあれで占いと呪術の腕は確かだ。私とそう変わらぬ的中率であろうよ」


「そんなに当たるのか。凄いな……」


 晴明の言葉に、素直に感心する雪緒。雪緒は朝のニュースでやっている血液型占いがまったく当たった事が無いので、占いというものはとんと信じてはいなかった。けれど、目の前の貴台の天才占術師である晴明を前にして、占いを信じられないとは言えない。それに、晴明なら見事未来を占ってくれると、占ってもらった事も無いのに半ば確信していた。


「けれど、それは私程になればの話だ。二流三流ともなれば、的中率など高が知れておる。当たれば吉、それくらいの心持ちだ」


「へー……因みに、今日の俺の運勢とか占える?」


「占うまでも無い。私と一緒におるのだぞ? 幸せで無いはずが無い」


「なんだそれ。大した自信だなぁ」


 晴明がにやりと笑って言うものだから、雪緒も笑って言葉を返す。


 今のは晴明なりの冗句(じょうく)。最初こそ心臓が跳ねるくらいに驚かされたけれど、最近では慣れたもので、雪緒も笑顔で言葉を返せるようになった。しかして、その頬が若干朱に染まっているのは、言わぬが花だろう。


「まぁ、冗句は置いておいて、だ。占いというのも、そう宛てになるものではない」


「え、そうなのか?」


「ああ。私達占術師は有り得る先の中でも、更に現実に起こりうる可能性の高い先を()ているに過ぎぬ。未来を見据えていると言えば聞こえは良いが、複数ある未来の中の、より可能性の高いものの一端を少しばかり垣間見るだけだ」


 晴明の言葉を雪緒は必死に頭の中で処理し、理解する。


「ってぇと、未来は一つじゃないから、一番可能性が高い未来に向かうための事柄を幾つか知る事が出来るって事……か?」


「その解釈で間違ってはおらん。先とは常に定まらぬものだ。先が分かる者がおるとすれば、其方のような先の世から来た者か、そういった眼を持つ者だけであろうな」


 未来というのは不確定であり、一瞬一瞬で形を変えるものだ。占い師は複数ある未来の形を見て、その中でも一番未来としての可能性の高い形への道標を幾つか見る事が出来るだけなのだ。


「まぁ、先を占うのであれば断片を少々語るしか出来ぬが、今のその者の状態を占うのはそう難しい事でも無い」


「そうなのか?」


「ああ。人に限らず、生物とは気を放っておる。その気の色、形、濃さを見れば、大体の事は分かる」


「へぇ。じゃあ俺は?」


 雪緒が問えば、晴明は雪緒をじっと見詰める。


 雪緒も、晴明をじっと見詰め返す。


「……可もなく、不可もなく。けれど、若干喜びの色が濃いな。何か嬉しい事でもあったか?」


 問われ、考えてみるけれど、思い当たる節は一つしか無い。


「晴明にまた会えた事かな」


 素直にそう言えば、晴明は頬を赤くして照れたようにそっぽを向いた。


「も、もう数日も過ぎたろうに……まだ言うか……」


「いやいや、まだ数日だろ? 毎日寝るときに結構緊張してるだぜ? また行けるかなーってさ」


「む、其方は私の力を信用しておらぬのか?」


「そうじゃないよ。俺がただ不安なだけだ。晴明に逢えなかったどうしよう、ってさ」


「む、むぅ……そうか。であれば、仕方ない、な……」


 照れながら、雪緒から視線を外して平静を装ってお茶を飲む晴明。


 そんな晴明を笑みを浮かべて眺めながら、少し離れた所に座る冬がからかうように雪緒に言う。


「雪緒さんは晴明様だけに逢いたかったのですね。よよよ、毎朝毎晩御飯を作っているというのに……」


「え、あ、いや! 皆にも勿論逢いたかったですよ!?」


「良いんです、良いんです雪緒さん。無理して取り繕わなくとも」


「無理してませんから! 皆に逢いたかったのも俺の本心ですから!」


 よよよと泣いたふりをする冬に、雪緒が慌てて弁明をする。冬が雪緒をからかっているだけだと、雪緒も分かってはいるけれど、それでも弁明せずにいられない。それは事実無根で、雪緒は皆にもちゃんと逢いたかったのだから。


 慌てる雪緒を見て、冬は袖で隠した口元に笑みを浮かべて、泣きまねを止めて雪緒に笑みを向ける。


「ふふっ、分かっておりますよ。私のお茶目な冗句です」


「分かってても焦るんで止めてください、本当に……」


 笑う冬に、雪緒は苦笑を浮かべて言う。


「よーう、やっておるかー? 儂が来たぞー」


 陽気な声を上げて、何者かが襖を開ける。


 襖を開けて入って来たのは、先の猿夢の時に手を貸してくれた晴明と同じ陰陽師であり呪術師の蘆屋道満だ。


「毎度言っておるが、勝手に入ってくるなと何度言えば分かる」


 晴明が穏やかな顔を潜めさせ、鋭い視線を道満に向けて放つ。目も覚めるような美人である晴明の睨みには凄みがあり、大抵の者は睨まれれば怯んでしまうけれど、道満はもはや慣れたもの。常の飄々とした顔でずかずかと上がり込んで来る。


「毎度言っておろうに。今日は園女が入れてくれたわ」


 道満が言い、園女が笑みを浮かべて入ってくる。


「園女……」


「まあまあ、良いではありませんか。晴明様の数少ない友人ですよ? 大事になさってください」


「少なっ……園女、其方そんなに口が悪かったか……?」


「口を悪くした覚えはありませんよ。私は、ただ晴明様を思って言っているだけです。それに、道満様が来るのも満更では無いのでしょう?」


「いや、此奴は来なくて良い。それに、私にだって友を選ぶ権利がある」


 真顔で言う晴明。本当に、心底から思っていそうである。


「まぁそう言うな晴明。今日は茶請けを用意したのだぞ?」


 しかして、道満は気にした様子も無く風呂敷に包んだ茶請けを広げる。


「……はぁ。其方は何を言っても本当にきかぬな(・・・・)


「そう簡単にきいておるようでは、野良の陰陽師など務まらぬよ」


 くくくと楽しそうに笑う道満。


 道満は風呂敷を引きずりながら縁側に移動し、雪緒の横に座った。


「むっ……」


 そこで、晴明が一瞬眉を潜めるけれど、誰も気付かぬ程の一瞬の事。道満の持ってきた茶請けが珍しく、道満に聞きながら茶請けを覗き込んでいた雪緒や、雪緒に喜々として説明をしている道満は気付かない。


 小梅は庭で薪を割り、冬と園女はお茶の準備をしているので気付くはずも無かった。


「そういえば、晴明聞いたか?」


 道満が菓子を食べながら晴明にたずねる。


「何を?」


秀郷(ひでさと)がこちらに来るそうだ。なんでも、将門(まさかど)の事で御門に話があるとか」


「ほう、あの秀郷が?」


 道満の言葉に、晴明が驚いたように言う。


 しかして、二人の間に挟まれた雪緒には何の事だか分からず、少しだけ疎外感を覚える。


「晴明、秀郷って?」


 気になった雪緒が問えば、晴明が説明をする。


藤原秀郷(ふじわらのひでさと)下野(しもつけ)の武将。霊刀の保持者であり、武に優れ、豪気で大胆。私が知る中で、一番もののふらしいもののふだ」


「儂もあまり敵に回したくはない相手だのう。いや、勝てん訳ではないが、ちぃと面倒だ」


「へぇ、凄い人なんだな」


 口頭の説明だけではあまりどういった人物か想像は出来ないけれど、雪緒の知る限り一番力に優れている二人が褒めるのであれば、その藤原秀郷とは凄い人物なのだろうと納得する。


 凄い人物だという事が分かり、その上で雪緒には一つ気になる事があった。


「霊刀って言うと、七星剣と同じか?」


「ああ。まぁ、あちらのは私が作った贋作とは違うがな」


「贋作とは言うがな晴明。あの七星剣は本物と遜色は無い。それどころか、他の誰でもない汝が作った剣だぞ? その力はそんじょそこらの霊刀では太刀打ち出来ぬ代物だ」


「しかし贋作だ。それに、鍛冶師の真似事をしただけだ。本物の(・・・)鍛冶師が作った刀剣には負ける」


「本物ではない汝が作った結果があの七星剣なのだが……こういうところが変に謙虚だと笑えばいいのやら嫉めばいいのやら……。判断に困るのう、雪緒?」


「まぁ、晴明としては七星剣を霊剣って言うのに抵抗があるんだろうけど、俺はこの剣に何度も命を救われたし、俺の我が儘を通せる力になってくれてるし……晴明がどう思ってても、俺にとってはとっても有り難い霊剣だよ」


 道満に話を振られ、雪緒は思っている事をそのまま口にする。


 晴明がどう思っているにしろ、雪緒にとってこの剣は本物だ。相手を打ち倒す雷撃(ちから)を持ち、仲間を守る障壁(ちから)を持っている。


 真贋(しんがん)はどうあれ、晴明のくれた七星剣が誰かを守れる力である事に変わりは無い。


「俺にとって、七星剣は本物だ。晴明がくれた、俺が誰かを守れる力だ。偽物だろうが本物だろうが、俺は晴明に感謝してるよ」


 雪緒が素直な言葉を口にすれば、晴明は一瞬目を見開き、すぐに若干顔を赤くして照れたようにそっぽを向く。


「そ、そうか。其方の力になっているようであれば、何よりだ……」


 照れながら言う晴明に、道満はにやりと厭らしい笑みを浮かべる。


「おーおー、朴念仁(ぼくねんじん)が照れておるのう」


「う、五月蝿い! そ、それよりも、霊刀の事であろう? かの藤原秀郷が使う霊刀は毛抜形太刀と言ってだなーー」


 道満にからかわれた晴明は、露骨に話を逸らそうと霊刀の話に戻る。


 やれ蝦夷(えぞ)から渡ってきた刀が原形だとか、そんなうんちくを垂れ流す晴明。それが照れ隠しである事は明白であり、それが分からぬ程雪緒も鈍感ではない。


 思わず、笑みをこぼしてしまえば、晴明に鋭い視線で睨まれる。


「何を笑っておる」


「いや、別に」


 しかして、頬を赤くした晴明の睨みなど可愛いもので、雪緒は更に笑みを深めるばかりだ。


 それが気に食わず、晴明はむすっと不機嫌そうな顔をする。


「悪い悪い。真面目に聞くよ」


 さすがにこれ以上は晴明が拗ねると思った雪緒が謝れば、晴明は疑り深げに雪緒を睨むけれど、説明の口を再開させた。


 今度は黙って晴明の説明を聞く雪緒。時折、道満が補足の解説を挟んだりと、なんだか勉強会のような内容になったけれど、こうして晴明の話を聞くのが好きな雪緒にこの時間は苦ではなく、猿夢の件(そうどう)が一つ片付いた事もあってか、むしろ心地良い。 


 道満が加わり、前よりも少しばかり賑やかになったけれど、これはこれで悪くはないと思った。

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