第伍話 夢では無いと言うのなら
意識が浮上するように、まるで導かれるように眠りから覚めた。
「起きたか」
起き抜けに、すぐ近くからそんな声がかけられる。
声の方を見やれば、そこには少しだけ疲れた顔をした晴明がいた。
「晴明か…………晴明!?」
「きゃっ」
晴明を認識した途端、勢い良く起き上がる雪緒。
周りを見渡し、そこが雪緒が知る晴明の自宅だと気付く。そして、自分がもう一度平安に来れたことを知る。
何故か、安堵してしまう。
たとえ今見ている光景が夢だとしても、晴明にもう一度会えたことが嬉しい。
「急に起き上がるでない。驚いたろう」
恨めしげに雪緒を見る晴明。その頬は少しだけ朱色に染まっており、らしくなく驚いた声を上げてしまったのが恥ずかしいのだろう。
「晴明、俺は」
どうなったんだと聞こうとして、その口を扇で塞がれる。と言っても、軽くあてがわれるだけだけれども。
「まずはゆっくり休め」
言って、身体を軽く押される。
本当に軽く押されただけなのに、雪緒は抵抗の一つもできずにその場に再度寝転がる。
雪緒が寝転がると、晴明がはだけだ布団をかけ直す。
「俺、寝てたのか?」
「寝る、と言うより、気を失うと言う方が正しいな。なんの前兆も無かった」
言われ、確かにと納得する。
平安から現代に戻る時のことを思い出すと、確かに、急に視界が歪み意識が遠退いて行った。
寝る、と言うよりはーー
「まるで、魂が抜けたかのようだった」
晴明も同じ事を思ったのか、そう言葉を漏らす。
「俺、どれくらい寝てた?」
「まだ一日も経っておらぬよ。とは言え、日は跨いでしまったがな」
外は宵に包まれ、東の空が薄らと明るくなってきている頃だった。
雪緒は晴明の格好を改めて見直し、気付く。服装が出掛けるときと同じである事に。
「寝てないのか?」
「いいや、寝たさ。今起きたところだ」
そう言うが、目の下には薄らと隈が出来ており、晴明の鋭い眼もどこか眠たげだ。
「晴明こそ寝てくれ。俺のせいで身体を壊されたんじゃ申し訳がない」
「今から寝たら昼夜が逆転しそうだからな、今日はこのまま起きている事にする。今日は特に用向けも無い」
「でも……」
「私だが良いと言うておるのだ、気にするな。それよりも、其方が寝ている間、私も少し考えてみた」
少々無理矢理な話題転換。しかし、ここでしつこく食い下がれば、寝不足で不機嫌な晴明の機嫌が更に下がるだろうと思い、雪緒は晴明の話を聞くことにした。
「考えたって、なにを?」
「其方の事だ。何故其方がこの世にやって来たのか、何故其方がこの世から先の世に戻ったのか」
「待ってくれ。なんで俺が先の世に戻ったって知ってる? 俺、話したか?」
「いいや? ただ、そうとしか考えられぬと言うことだ」
「と言うと?」
「恐らくだが、其方の魂は今とても不安定な状態にある」
「不安定な状態?」
「ああ。其方、雷に打たれたと言うておったな?」
「ああ」
現代では耳にたこが出来るほど言われた。雷に撃たれたら普通は即死だと。
だから、その時の事は余り憶えていないけれど、周りがそれだけ言うのだから、雪緒は雷に撃たれたのだろう。
「其方が雷に打たれたのが全ての原因であろう。其方の魂は雷に打たれた事で肉体と魂に分離してしまった。其方はその時点で、幽体となったのであろうな」
肉体と魂が分離したと言うことは、おそらくは幽体離脱の事だろう。
「そして、幽体になってしまった事で、この世……この場合、昨日か。昨日、私は式鬼を召喚しておった。その召喚に、其方が呼ばれてしまった」
「じゃあ、俺は式鬼と変わらないって事か?」
「分からぬ。少なくとも私には其方は人に見える。私が今話した事はあくまで憶測でしかない。現状、分からぬ事の方が多いのだ」
証拠も確証も不十分なまま、持てる知識を総動員して考えてくれたのだろう。言動に反して晴明が優しくて責任感がある人物だという事を雪緒は昨日の時点で理解している。
「私が寝ずに考えた事はこの程度だ。まぁ、暇を潰すには丁度良かったがな」
疲れたように漏らす晴明。しかし、雪緒はお礼も謝罪もする前に、責めるような口調で言った。
「やっぱり寝てないんじゃないか」
言われ、自分が失言をした事に気付いた晴明。
晴明はばつが悪そうに雪緒から視線を逸らした。
「……まだ起きるには早い。もうしばし寝ておれ」
言って、雪緒の責めるような視線を遮るように目の上に手を置いた。
「いや、お前が寝ろ。起きるにはまだ早いなら、なおさら寝ろ」
「私は良い。早う寝よ」
「いや、晴明が寝るまでーー」
「”眠れ”」
晴明が雪緒の言葉を遮るように一言言う。たったそれだけで、雪緒は段々と眠くなり、瞼が重くなっていく。
口を開くのも億劫で、今すぐにでも夢の世界へ旅立ちたくなる。
しかし、眠るのが怖い。
眠って、目が醒めれば現代で、もう二度と晴明とは会えないかもしれないのだから。
止めてくれ。せめて、もう少しだけ……。
そう言いたかったが口は動かず、ただ呼吸を繰り返すのみだ。
「安心しろ。私の考えが正しければ、また逢える」
最後にその言葉だけが聞こえてきて、雪緒の意識は完全に闇へと沈んでいった。
「道明寺さーん、朝ですよー」
聞き慣れない声が耳に入り、まどろみの中にあった意識が段々と浮上していく。
ゆっくりと目を開けば、清潔感のある白い天井が目に入る。
「起きましたか、道明寺さん?」
白一色の視界に、誰かの顔が入り込む。
「……あぁ、天使さん……」
「まだそのネタ引っ張るの? ここは天国じゃないよー」
言いながら、布団を引っぺがす看護師さん。
そう。目を覚ませば現実で、ここは雪緒が入院している病院であった。
「ていうか、昨日自己紹介しなかったっけ? わたし、長和千鶴ね」
「俺は道明寺雪緒でーす」
「知ってるわよ。カルテ見たもの。ふざけてないで、体温測るわよ」
起き上がり、手渡された体温計を脇に挟む。
「今日はよく眠れた?」
「もう少し寝てたかったです」
「あれ、全然眠れなかったの?」
「いえ、むしろぐっすりです」
眠気も無ければ、身体に倦怠感も無い。十分な睡眠が取れている証拠だ。
「ロングスリーパー?」
「いえ全然」
むしろ睡眠時間は短い方だ。
「じゃあなんで寝てたいわけ?」
寝ていれば晴明に逢えるから、なんて言えない。言っても夢か妄想だと思われてしまうのが落ちだからだ。
「一週間遅れで学校に行くという現実を直視しないで済むので……」
「あぁ……それは本当にご愁傷様としか言いようが無いわね。ま、良い教訓になったんじゃないの? 雨天の山には登るべからず、ってね」
「教訓にするまでもねぇー」
「教訓にしなかったから山に登った訳でしょ?」
「気の迷いですよ」
「血迷ったではなく?」
「……否定できない……」
気迷っていたし、血迷っていた節がある雪緒は、千鶴の言葉を否定できない。むしろ、納得すらしている。
「まぁ、なんにせよ良かったわよ。雷に打たれて生きてる事も、あの山に登って無事帰ってこれた事もね」
「え、あの山なんかあるんですか?」
「え、知らないの? 君が登った山、結構曰く付きよ?」
「どんな?」
「幽霊が出たとか、妖怪を見たとか、神隠しにあったとか。地元じゃ結構有名な心霊スポットだけど……本当に知らなかったの?」
「まったく」
雪緒は事前に山については調べたけれど、それは殺生石があるかどうかだけだ。曰くの有無までは調べていなかった。
「本当に運が良いわね、君……あの山、色々起こるから、若者からじい様まで誰も近付きたがらないのよ? 若者は単にビビって、じい様達は祟りを信じてだけど」
「へぇ……」
「へぇって……もっと他に無いわけ? 危なかったとか、怖かったとか」
「雷に打たれるより危ないことを俺は知らない」
「そう言えば、超弩級の危険に直撃したばっかりだったわね……」
怖かったという方については、知らずに行ったのでどこを怖がれば良いかまったく分からない上に、怖い思いをしていないのでなんとも言えない。
話の区切りが良いところで、ぴぴぴと電子音が鳴る。
雪緒は脇から体温計を取り出すと千鶴に渡す。
千鶴は体温計を受け取ると、計測できた体温を見る。
「三十六度七分。平熱ね。元気で何より」
「身体は元気でもあんまテンション上がりませんけどね……」
晴明ともう逢えないのだろうかとか、一週間も遅れて学校に行って友人ができるのかとか、勉強ついて行けるかなとか、心配事は山程ある。
「ちょっと、憂鬱になるような事言わないでよ。わたしまで気が沈むじゃない」
「すんません」
「はぁ……忘れてた事思い出しちゃったわ」
「じゃあ忘れちゃいましょうよ」
「そんなぽんぽん忘れられる訳無いでしょうが。はぁ……実家帰りたくない……」
「親と喧嘩でもしたんですか?」
「似たようなもんよ。両親が結婚しろ結婚しろって煩いの。そんなに簡単に結婚できたら苦労しないっての」
知らず知らず、雪緒は千鶴の地雷を踏んでしまったらしく、その後、朝食が運ばれて来るまで千鶴の愚痴が続いた。
やれ自分は二十六でまだ働き始めだから結婚など考えられないだとか、そもそも出会いが少ないだとか、お見合いや婚活パーティーはごめんだとか、大人の女性特有の愚痴を延々聞かされた。
正直途中からとても辛かったけれど、自分が聞いてしまった以上口を挟むわけにはいかない。
雪緒は他の看護師が千鶴を止めに入るまで千鶴の話を行儀良く聞き続けた。
千鶴に二度と結婚関係の話はしないと誓った。
簡単な検査をして、昼間は過ぎていき、夕方は明乃と繁治がお見舞いに来た。
面会時間が来たので帰っていた二人を見送ってから、雪緒は屋上へと足を運んだ。
屋上の鍵が開いていることは千鶴に聞いていたので、屋上に簡単に上がれることは分かっていた。
ベンチに座り、夕日が沈み行く町を眺める。
景色を眺めに来たていを装いつつ、雪緒は他に人がいない事を確認する。そして、今いるところがどこからも死角になっていることも確認する。
別の棟からも、他の高い建物からも見えない場所。ここが都会だったら周りがビルに囲まれているので死角は無く、もっと場所を考えなくてはいけないけれど、都会とも、さりとて田舎とも言い難いこの町では、あまり高い建物を心配する必要も無い。
まあ、望遠レンズを使って遠くから撮影でもされれば見えてしまうかもしれないけれど、そんな酔狂なことをしている者はそうはいないだろう。
雪緒は病院着の懐から一枚の紙を取り出す。
実は、昨日、明乃にお使いを頼んでいたのだ。
その内容は和紙と筆ペンとハサミ。
なにに使うのか聞かれたときには文通と適当に答えた。馬鹿を見るような目で見られたけれど気にしない。そんな事はいつものことなのだから。
人形に切り取った和紙に、五芒星を筆ペンで書き込む。
指の切り傷の瘡蓋を剥がして、指の腹を少し押して血を搾り出す。
人形の中心の少し右、つまり、人で言う心臓の位置に指を押し付けて血を付ける。
そうして出来た式鬼札を指で挟み、意識を内側まで沈み込ませて、内側にたゆたうナニカを掴む。そして、集中しながら唱える。
「式鬼神招来」
直後、持っていた式鬼札が熱を持ち、大きさを変えていくのが分かった。
雪緒は慌てて式鬼札を離す。
目の前で、徐々に人の形を成していく式鬼札を見て、驚愕と共に歓喜の情が沸き上がる。
完全に人の形になった彼女を見て、雪緒は確信した。
夢ではなかったのだ。あの出会いは、あの場所は夢ではなかったのだ。
目の前に表れた少女は雪緒を見ると、嬉しそうに笑んでお辞儀をした。
「久方振りでありまする、主殿!」
雪緒は、眠らされる直前に晴明が言ったまた逢えるという言葉の意味を知りたかった。
その言葉が嘘ではないと証明したかった。
けれど、不可思議な傷痕である、指先の切り傷だけでは証明には弱かった。
何か、他に何か無いかと考えた結果、一つだけあの出来事が現実だと証明できる方法を見付けたのだ。
それが式鬼神召喚。
晴明が教えてくれた方法で式鬼が召喚できたのなら、あの出来事が夢ではなかった事の証明になる。
そう考えた雪緒は昨日の内に明乃にお使いを頼み、式鬼神召喚の準備をしていたのだ。
物が届かない間は、晴明が式鬼神召喚をする際に教えてくれた最初の手順ができるかを練習していた。意識を内側に沈み込ませてナニカを掴む。恐らく、このナニカが晴明の言っていた霊力なのだろう。
その霊力を掴む事が出来なければ、物を揃えたところで式鬼の召喚が出来ない。
しかし、一番肝心要の霊力を掴む事があっさりと出来てしまった。
勘違いでも気のせいでも無く、ナニカを掴んだ感触が確かにあったのだ。
そうして道具も揃い、霊力を掴む事も出来たところで、人の目が無い屋上までやってきて小梅を喚んでみた、というわけだ。
まさか本当に成功するとは思わず、口角が引き攣る。
「ま、マジか……」
「いやぁ、主殿はお変わり無いようで、某は嬉しいでありまする! 時に、ここはどこでございましょう? 晴明殿の母屋ではないようですが……それに、空気も悪うございます!」
鼻をつまんで顔をしかめる小梅。
目の前で動く小梅を見て、夢幻の類いではない事を理解して安心するが、それと同時に違和感も覚える。
その違和感の正体を掴めずにいると、小梅が小首を傾げた。
「主殿? どうなされたのですか?」
「あぁ、いや、なんでもない。会えて嬉しいよ、小梅」
「はい! 某も大変嬉しゅうございまする!」
にこっと花が咲くように笑う小梅。見た目が小学生程なので、小梅の子供特有の無邪気な笑顔にはとても癒される。
「さて、これで夢じゃ無かったって分かった訳だが……」
しかし、目の前の小梅が雪緒の妄想の産物であることも否定できない。
「小梅、お前って人に見えたりするよな?」
「はい! 元は違えど、今は人の形を模しておりますので、人の目にも写ることができまする!」
「そうか。それじゃあ、人に見つからずに移動することも出来るか?」
「はい! 某は化生なれば、人を化かしてみせるのも容易い事でありまする!」
「そうかそうか。それじゃあ、ちょっと下で悪戯してきてくれ」
「悪戯、にございまするか?」
「あぁ。ちょっと試したい事があってな」
「試したいこと……分かり申した! 某の実力を試したい、そういうことにございまするな!」
「まぁ、そういうところ」
本当のところは、小梅が雪緒の妄想の産物ではない事を証明するために、実際に現実に干渉させてみようということなのだが、それを説明するのも面倒ではあるし、小梅が傷付きかねないので黙っていることにする。
幸い、小梅は一人で勝手に納得してくれたので、説明の必要は無かったけれど。
「それでは行ってまいりまする!!」
「待て待て」
「へぶぅ!?」
さっさか行ってしまいそうだった小梅の襟首を慌てて掴んで引き止める。
「ど、どういたしたのでありまするか?」
「いや、悪戯の内容を説明してないと思ってな」
ここは病院だ。ということは重病の患者もいる訳で、そんな人に悪戯をしようものなら取り返しのつかない事になりかねない。雪緒は人を苦しめたい訳ではなく、少し確認がしたいだけなのだ。
なら病院の外で悪戯をすれば良いと思うが、それだと雪緒が確認のしようが無い。
そのため、この病院内で悪戯をさせようと決めたのだ。
まあ、悪戯と言っても、ボールペンをナースステーションから一本拝借して来いとか、子供コーナーにある絵本を一冊持って来いとか、そんな可愛らしい悪戯だけだ。
スカートめくりをしろとか、点滴のチューブを抜いて来いとか、そんな非道な事をさせるつもりは毛頭無い。
「この建物の一階に…………」
説明をしようとして気付く。
一階とかナースステーションとか言って、果たして理解できるのか、と。
現代には、凡そ平安には存在し無い物の方が多い。そのため、説明自体が難しいのだ。
「……俺も一緒に行った方がいいか。よし、とりあえず一緒に行くぞ」
「承知!」
雪緒はベンチから立ち上がると、屋上から一階に歩いていく。
「むぅ! 何やら鼻を刺すような強烈な臭いがしまする!」
建物内に入るや否や、小梅が鼻を押さえてしかめっ面をする。
「あぁ、消毒用アルコールの匂いだな」
「しょーどくよーあるこーる? に、ございまするか? 申し訳ございませぬ。某、しょーどくよーあるこーるがいかな物なのか、皆目見当もつかぬでございまする」
「あぁいや、気にするな。ここにはあの頃には無かったものばかりだ。こんな建物にも入った事無いだろ?」
「はい! 真っ白で、なにやら光っておって……とても不可思議な物ばかりでありまするな!」
興味津々といった顔で院内を見回す小梅。
物珍しげに辺りを見回す小梅を、通りすがりの看護師や入院患者がおかしな者を見るような目で見ていく。
そこで、雪緒は気付く。
ああ、悪戯する必要無かったわ、と。
言ってしまってはなんだが、小梅の格好はこの時代ではとても目に付く。映画や漫画の中でしか見たことが無いような衣服に身を包んでいる小梅の姿は、さぞ奇抜に見えることだろう。
ましてやここは病院。ハロウィン会場でもなければ、コスプレ会場でも無い。映画やドラマの撮影会場でもないので、とても場違いな服装になっている。
小梅の格好が目に付き、通りすがりの人が小梅の動きを目で追っているのであれば、小梅はそこに要るという事に他ならない。
院内を少し歩かせるだけ存在の証明が出来たのだ。
「小梅」
「なんでございましょう!」
「小梅、ここでは声を潜めろ」
「はっ、承知いたした」
少し騒がしい小梅を窘めれば、小梅は真面目な顔で頷く。
そんな小梅に、雪緒は手に持っていた筆ペンを投げ渡す。
「小梅、ほい」
「え、ほ、わっ」
急に筆ペンを投げ渡された小梅は、筆ペンを何回かお手玉してから、その手中に収めた。
小梅がお手玉をする様子を通りすがりの看護師がはらはらとした様子で見たり、宙を舞う筆ペンを目で追う人もいた。
やはり、小梅は他の人にも見えている。
「小梅、悪戯は中止だ」
「何故にござりまするか?」
「必要が無くなった。部屋に戻っておとなしくしよう」
「承知いたしました」
取り敢えず、小梅が雪緒の妄想の産物ではない事に証明が付いた。通りすがりの人まで妄想なのではとか考え出したら最早切りが無いので考えない。
小梅は今ここに居る。それが分かっただけでも一歩前進したはずだ。
あの出来事や晴明が夢幻でない事が分かり、密かに安堵しながら、雪緒は部屋に戻っていった。