第拾伍話 論より証拠と言うけれど
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何事も無く時は過ぎ、放課後。雪緒は小野木に言われた通り、職員室に向かっていた。
説教か、反省文か。どちらでも良いけれど、手早く終わってほしいものだ。
職員室に到着し、こんこんとノックをしてから入る。
「失礼しまーす」
「あぁ、来たわね、道明寺くん」
雪緒が入室すると、小野木が雪緒を見付ける。
「ちょっと待ってて」
そう言って、小野木はパソコンに何かを打ち込むと、一度スリープしてから席を立つ。
「それじゃあ、行きましょうか」
「え、行くってどこに?」
「生徒指導室よ」
「もしかしなくても、俺って怒られます?」
「さぁ?」
くすりと意地悪く微笑んでから、小野木は歩き始める。
雪緒はその隣に並ぶ。
二人は生徒指導室に行くまでの間、特に話をすることもなく歩く。
雪緒はその間、小野木の様子を横目で観察する。
小野木は特に怒っている様子は無い。常と同じような笑みを浮かべている。
今朝の事をそんなに怒っていないのか、それとも怒りを笑みの裏に隠しているのか。出来れば怒ってないでいてくれた方が嬉しいけれど、それは生徒指導室に着いてみないと分からない。
数分と無い短い道中を経て、二人は生徒指導室に到着した。
「さ、入って」
「はい」
小野木に促されるまま、雪緒は生徒指導室に入る。
「カーテン閉めてもらえる?」
「え、あ、はい」
何故カーテンを閉める必要があるのかは分からないけれど、雪緒は素直にカーテンを閉めに行く。
すると、背後からがちゃりと鍵が閉まる音が聞こえてきた。
振り返ると、小野木が扉の方のカーテンを閉めているところだった。
まさか他の人には見せられないやばい事が起こるのではと、遅まきながら警戒をする。
「閉め終わった?」
「あ、いえ。まだです」
言いながら、カーテンを閉めていく雪緒。
いったい何が起こるのか戦々恐々としながらも、カーテンを閉める。
「さ、座って」
「はい……」
カーテンを閉め終わると、雪緒は小野木に椅子に座るように促される。
気は進まないし、本音を言えば今すぐ帰りたいけれど、雪緒は小野木の対面に腰を下ろす。
「さて。それじゃあ話を始めさせてもらうけど、ここで話した事は、くれぐれも内密にお願いね?」
いったいどんな会話をするつもりなのか。
「は、はい」
やっぱりばっくれて帰るべきだったかと後悔していると、小野木は真剣な顔で言う。
「今朝のあれって、もしかして虫じゃなくて、幽霊だったりした?」
「へ?」
突然、なんの脈絡も無くそんな事を言われる。
しかし、雪緒にとっては予想外ではあっても、脈絡も関連性もあった。
けれど、それは雪緒に限った話しだ。雪緒は小野木の背後に居た幽霊を知っていたから、関連性を持っているけれど、少なくとも、小野木はまったくもってそれを知らないはずだ。知っていたのならあんなに驚かないし、憑かれた事に対する対処もするだろう。あんな変態が幽霊とはいえ近くに居るのは嫌だろうし。
雪緒は困惑しつつも、小野木にたずねる。
「えっと、なんでそう思ったんですか?」
「実は、ここだけの話しなんだけど、昔同じような事があったのよ」
「同じような事?」
「そう。高校生の時にね、同級生が道明寺くんとまったく同じ事をしたのよ。指で私の肩の辺りを弾いて、その後絶叫が響き渡ったの。その時は人の居ないところだったから今日みたいな騒ぎにはならなかったんだけどね」
「すみませんね、場所も選ばずに」
「と言うことは、本当に幽霊だったのね?」
「うっ……」
思わず軽口を叩いてしまい、墓穴を掘ってしまう。
ここから上手く挽回出来るとは思わないし、どうやら小野木の方も多少は訳知りのようである。
雪緒は一つ溜息を吐くと、観念したように言う。
「そーですよ。幽霊が居ましたよ」
「やっぱり。それじゃあ、道明寺くんが除霊してくれたって事で良いのね?」
「除霊と言うか、撃退と言うか……」
「どっちでも良いわ。ともかく、ありがとうね。最近、やたら視線を感じたり、新品の歯ブラシが使い古したみたいになったり」
「先生、悪い事は言わないから歯ブラシは買い替えた方が良い」
十中八九あの中年変態男の使用済だ。テレビ番組のどっきり企画で、芸人が女優等の歯ブラシをしゃぶるよりもえげつない事この上ないけれど。
「流石に気味が悪いし買い替えたわ」
「他の日用品とかも、違和感があったら買い替えた方が良いですよ」
あの変態に小野木の私生活が侵されているとなると、流石に不憫が過ぎる。
「うん、そうするわ。それにしても、今朝から肩凝りが取れたんだけど、これも道明寺くんの除霊のお陰かしら?」
「さぁ、それは分からないです」
言いながら、小野木のとある部分を一度ちらりと見る。
小野木は、とても魅力的なボディラインをしている。出るところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。異性だけではなく、同性からも羨望の眼差しで見られる程のものだ。
特に胸が大きく、肩凝りは主にその胸のせいじゃないかと思う。
が、それを言ったら叱られるしセクハラなので、雪緒は言わずにおく。
「えっと、話ってそれだけですか?」
「あ、ううん。もう一個あるの。これは話と言うか、お願いなんだけど……」
言いづらそうに視線を彷徨わせる小野木は、覚悟したように雪緒に視線を合わせる。
「聞いて、くれるかしら?」
異性であれば、内容を聞かずに頷いてしまうであろう小野木のお願い。上目遣いで、普段凛として頼もしい小野木が見せる弱々しい雰囲気に、何も考えずに頷いてしまうであろう。
けれど、雪緒は違う。
幽霊の話が出て、その後でお願い事となれば、十中八九そっち側の内容だろうからだ。
「内容によります」
だから、とりあえず話から聞くことにする。
話は聞いてくれると分かり、小野木は目に見えて安堵する。
「あのね、実は私の友人が行方不明なの」
行方不明。その単語にぴくりと反応してしまう。
まさか、と思い当たる節が浮かぶ。
「生徒で、ましてや子供である道明寺くんにこんな事を頼むのはお門違いだし、危険がある事も分かってるの。でも、無理を承知でお願いします。友人を捜すのを手伝ってください」
そう言って、頭を下げる小野木。
雪緒は嫌な予感を覚えつつ、小野木に問う。
「先生、それはきさらぎ駅が関与してますか?」
「ーーっ! 何か知ってるの!?」
きさらぎ駅と言う単語を聞いて、即座に顔を上げる小野木。
しかし、残念な事に、雪緒が知っている事は多くはない。
「そういう噂が出回ってるって事と、行方不明者が増えているって話は聞きました。けど、それだけです」
「そう……」
目に見えて落胆をする小野木。
「それに、俺はちょっと幽霊が見えるだけの高校生です。奇妙な噂の事や行方不明者を見付けるなんて出来ませんよ」
実際には、平安に魂だけ時間遡航をし、式鬼を使役している訳だけれど、そこまで言ってしまうと胡散臭くなるし、小野木にしたら荒唐無稽な話になる。
そうなってしまっても良いのだけれど、後々面倒になるのも嫌なので黙っている。
「でも、一般人よりは詳しいでしょう?」
「俺が幽霊が見えるようになったのは昨日です。そんな俺に、いったい一般人とどれ程の差があるんですか?」
「それは……」
それに加えて噂話を聞いたのも今日が初めてだ。そんな雪緒の知っている事も、出来る事も一般人よりはそんなに多くはない。
「その、除霊をしてくれたっていう友人を頼れば良いんじゃないですか? 先生と同級生なら、俺より年季も違うでしょうし」
雪緒がそう言えば、小野木は力無く首を横に振る。
「高校卒業してからは疎遠なの。元々、そこまで仲が良かった訳でもないし……」
だからこそ、幽霊が見える雪緒を頼ったのだろう。相手が生徒で、子供である事を気にしながらも、縋るように頭を下げているのだろう。
けれど、雪緒にどうこう出来るとは思えない。晴明ならばあるいはと思わないでも無いけれど、晴明は過去の人だ。現代に直接手を下すことは出来ない。
「……残念ですが、俺には無理です」
一瞬、仄の事が頭を過ぎるが、彼女を巻き込んでしまうのも気が引けた。
それに、仄は雪緒を信頼して話してくれたのだ。それを雪緒が他人に軽く話すべきではない。
そう謝り、立ち上がろうとした雪緒の手を小野木が掴む。
「お願い……一番辛い時期に側に居てくれた人なの。だから、お願い……」
「先生のお気持ちも察しますけど、無理です。俺に出来る事よりも、警察に出来る事の方が多いと思いますし」
「警察じゃお手上げだから道明寺くんに頼んでるの」
「なら、俺もお手上げですよ。そうだ、他の霊媒師の方に頼んでみては?」
「頼んだわ。でも、関わりたくないの一点張りよ」
「プロでも嫌な案件なら尚更です。俺には無理です。割に合わない」
「報酬ならちゃんと用意するわ! お金でも、物でも。なんなら、私の事を好きにーー」
「先生!!」
小野木の言葉を声を張り上げて遮る。
驚き、雪緒を見る小野木。
今まで俯き加減で分からなかったけれど、その目は涙に濡れていた。
けれど、だからこそ、雪緒はその先を言わせる訳にはいかなかった。
「先生。それは、教育者としても、一人の女性としても、軽々しく口にしちゃダメだ」
自分を好きにして良いだなんて、そんな事を軽々しく口にしてはいけない。
その言葉が明るみに出た時には、小野木は教育者としての信頼と、女性としての品格を失うからだ。
まだ出会って一ヶ月も経っていないけれど、小野木が良い人だと言うのは分かっている。だからこそ、そんな事を言わせたくは無かった。
決して軽々しくは無いのだろう。葛藤は、あるのだろう。けれど、ダメだ。
だからこそ、この話はもう終わらせるべきだ。
「先生。俺は、先生がどんな事を言っても頷けません。俺が雷に打たれた時、家族に死ぬほど心配かけた。だから、これ以上無駄に心配をかける事は出来ません。すみません」
そう言って、小野木に掴まれた手をそっと離す。
そして立ち上がり、生徒指導室を後にした。
背後からは、小野木の啜り泣く音だけが聞こえてきた。
雪緒は静かに生徒指導室の扉を閉めると、早足に廊下を歩く。
いったん教室に戻ってリュックを取り、学校を後にする。
帰路をひたすら無心で歩き、家に向かう。
朝には気になっていた幽霊も、まったく気にならない。
きさらぎ駅。行方不明者。雪緒の思考はその二つに、あるいは、一つに占拠されていた。
小野木に言った事に嘘は無い。そして、晴明や白藻に言ったことに嘘も無い。
だから、小野木の頼みを聞いたとしても、小梅を巻き込むような事は出来ない。したくは無い。
雪緒の唯一の切り札である小梅が封じられている以上、危ない橋を渡るべきではない。
それは分かっていた。だからこそ、雪緒は小野木の話を断った。
そう、分かってはいるのだ。だというのに、頭の中がすっきりしない。
いや、理由などとうに知れている。雪緒が、困っている小野木を見過ごせない。ただそれだけだ。見過ごせない自分に理由をつけて、何もしない。そんな自分が許せないと同時に、家族にも心配をかけたくないという当たり前の事を思う自分も居る。
自分の心情と最近知り合ったばかりの小野木。何年も一緒に居て、辛い時期も楽しい時も一緒に過ごした家族。
天秤にかけるまでもなく、大切な方は決まっている。
なのに、断った事に未練がある。
「はぁ……やめだやめ。考えたって仕方ないだろ。もう言っちまったんだから」
雪緒はこれ以上考える事を止め、少し乱暴に歩いた。
家に着き、雪緒は苛立ちながらも扉を開けた。
「あんた何考えてんの!?」
「うわぁ!? なんだよびっくりすんなぁ!!」
扉を開けた瞬間、明乃が怒声を上げた。
「びっくりしたのは私の方よ! 誰なのこの子は!?」
そう言って、明乃は何かを持ち上げた。いや、何かと言うのは適切ではない。この場合、誰かと言うべきだ。
明乃に持ち上げられたーー正確には抱き上げられたのは、雪緒にとってお馴染みの人物であった。
「お帰りなさいませ、主殿!」
しかし、明乃にとっては始めましての人物にして、道明寺家影の同居人。そう、小梅嬢である。
雪緒は思わず頭を抑えた。
「ただいま、小梅」
とりあえず、挨拶。
「ただいまじゃないでしょう!! ちょっとこっち来なさい!! 父さんも居るから!!」
「え、父さん帰って来てるの!?」
「あんたの部屋に知らない子供が居たって言ったらすっ飛んで帰って来たわよ!!」
「まじか……」
もはやどうしようもない程小梅の存在がばれてしまっている事に、思わず溜息が出る。
「溜息吐きたいのはこっちなんだからね!? 弟が、ついに犯罪者になっちゃったんだから!!」
「おい、ついにってなんだついにって!! 今までもこれからも犯罪者になる気はねぇよ!!」
「いいから!! とっととリビングに来なさい!!」
言って、小梅を抱っこしながらリビングに足音荒く歩いて行った明乃。間違い無く、雪緒が雷に打たれた時よりも怒っている。過去類を見ない程、怒っている。
これは繁治も相当怒っているはずだ。
雪緒は、憂鬱だった気分が更に下がっていくのを感じる。
しかし、何時までも玄関に居ても仕方が無い。
雪緒は観念して家に上がり、リビングに向かう。
リビングの扉を開ければ、そこには意外な光景が広がっていた。
「ほら、小梅ちゃん。こっちのお菓子も美味しいぞ?」
「ありがとうでありまする、父君!!」
「好きな物があれば、どんどん食べると良い」
「はい!」
父、繁治がソファに座り寛いでいる。
それは良い。そんな事は何時もの事だ。
しかし、何時もと違う事がある。それは、先程まで明乃が抱き上げていた小梅が、繁治の膝の上に座っているということだ。
繁治は厳つい顔をだらし無く緩ませて、小梅にお菓子をあげていた。
思わず呆然としてしまう雪緒。
「父さん、雪緒帰って来たよ。小梅ちゃん、ジュース置いておくね?」
「ありがとうござりまする、姉君!!」
「うん」
明乃が繁治の隣に座り、小梅の頭を優しく撫でる。
怒っていた割に平和な光景に、先程との落差を感じて付いていけない雪緒。
「ああ、雪緒。お帰り」
「た、ただいま……」
雪緒を見付け、常の表情でお帰りと言う繁治。
しかし、その膝の上には小梅が座っており、まるで緊張感が無い。
「まぁ、座れ」
「お、おう……」
繁治に促されるまま、雪緒は繁治の対面に座る。
繁治は煙草を吸おうとして、膝の上に小梅が居る事を思い出すと、そそくさと煙草をしまった。
「雪緒」
「ああ」
「お前が意味も無くこんな事をするような奴じゃない事は知ってる。ただな、俺は何か一言欲しかったし、説明もしてほしかった」
「……ごめん」
少しだけ悲しげに言う繁治に、雪緒は素直に頭を下げる。
「まぁ、お前が隠したって事は、何か言えない事情があるんだと思う。お前は無意味に俺達を心配させないだろうしな」
「雷には打たれたけどね」
「……無意味に俺達を心配させないと信じてるぞ」
明乃の言葉に、繁治は念を押すように雪緒に言う。
「ただな。親としては、やっぱりこういう事は話してほしい。保護者としての責任ってだけじゃない。親として頼ってもらえなかった事が、俺は寂しいんだ」
「それは、本当にごめん」
これにも、素直に謝る雪緒。返す言葉も無いからだ。
しかし、繁治は謝る雪緒を見て、少しだけ悲しそうに眉を下げる。
「話せないか?」
「話せる……けど、その場合俺の正気が疑われる」
「子供誘拐してる時点で正気じゃないのは承知の上よ」
「誘拐してねぇし!」
「じゃあなんだって言うのよ? この子どこから連れて来たわけ? この格好は何? 完全にコスプレじゃない」
どこからには平安からと答え、格好については式鬼だからと答えられる。いや、後半は少し強引だけれど、雪緒にはそうとしか説明が出来ない。
「それに、あんたこの子に何教え込んだの?」
「え、何って……」
自分が教え込んだ事を思い出し、雪緒は言う。
「特に、何も。普通の事だけど……」
「へぇ……普通の事、ねぇ」
訝しげに雪緒を見てから、明乃は小梅に優しく問い掛ける。
「小梅ちゃん、自己紹介できる?」
「はい! 某は主殿の式鬼にござりまする! 主殿の身を守り、傍に仕える事が使命にござりまする!」
「はい良く出来ました。雪緒、申し開きは?」
「返す言葉も無い……」
話してはいけない事まで全部話してしまっている小梅に、思わず雪緒は天を仰ぐ。
そんな雪緒を、明乃は心底軽蔑した目で見る。
「あんた、最低ね」
「待て、誤解だ。嘘ではないが、誤解なんだ」
「それは、どういう事なんだ?」
問われ、雪緒は考える。
話していいのか、話すべきなのか、話してはダメなのか。
恐らく、遅かれ早かれ小梅の事は何か理由を付けて話さなければいけない時が来たはずだ。
小梅をずっと雪緒の部屋に閉じ込めておくのも気が引けるし、いくら食事が必要無いとは言え、雪緒達が楽しげに食事をしている間、一人で部屋に待たせている事にも罪悪感があった。
それに、全部話す必要も無い。
平安の事を伏せて、雪緒と小梅の関係だけ話せば良い。今は、雪緒と小梅の関係をはっきりさせれば良いのだ。
それなら、荒唐無稽ながらも、話せない事も無いのでは?
多少の誤魔化しや嘘っぱちを入れつつ、真実を話す。
そう考え、雪緒は口を開く。
「実は俺、陰陽師になったんだ」
「雪緒、俺は真剣に話をしてるんだぞ?」
「俺だって真剣だよちくしょー!!」
なんだって真剣に陰陽師になったなんて言わなくてはいけないのか。そんな事を言っても信じてくれる訳も無いし、怒られるのは当然だ。
しかし、当事者である雪緒とは違い、繁治と明乃は完全に部外者だ。そんな話を信じられる訳も無いし、ふざけていると思われても仕方がない。
「ええい面倒臭い! 姉さん、小梅と一緒に二階に行って!」
「は? なんで?」
「いいから! そっちの方が早い!」
「なるほど! 論より証拠と言う訳でありますな? では早速! 行きましょう、姉君!」
「え、ちょ、小梅ちゃん!?」
二人が陰陽師と言う存在に懐疑的であると察した小梅が、雪緒の意を汲んで明乃の手を引いて二階に上がって行った。
「雪緒、本当にどういう事なんだ?」
「まぁ見ててくれ。見てもらった方が早いから」
言いながら、ポケットから式鬼札を取り出す。
「それは?」
「式鬼札だ。これで式鬼を、この場合は小梅を召喚できる」
「小梅ちゃんを? ……まったく話が見えない」
「小梅も言ったけど、論より証拠だ」
言って、式鬼札に霊力を込める。
「式鬼神招来」
そして、一言唱えて、式鬼札を手放す。
直後、式鬼札が徐々に人の形を成していく。
雪緒も慣れてきたので、形を成すまでが以前とは比べものにならない程早い。
「お呼びでござりましょうか、主殿!」
「おう、お呼びだよ」
いつも通りの光景、いつも通りの小梅の言葉に、若干乱暴に返す。
繁治の様子を伺えば、目が飛び出ん程小梅を見ていて、信じられないといった顔をしていた。
そして、二階から大きな足音が響き、リビングの扉が乱暴に開かれる。
「小梅ちゃんが居なくなったんだけど!?」
「居るぞー」
「は!?」
「おりまする!」
「はぁ!?」
慌てて降りてきた明乃は小梅を見てこれでもかと言わん程驚いた。
繁治も明乃も驚きのあまり固まってしまっている。
論より証拠とは言うけれど、説明も必要だなと思った。