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甘いレモン

田中とバームクーヘン


突然だが、皆さんはバームクーヘンを知ってるか?と聞かれれば、どう答えるだろうか。きっと皆当然知っていると答えるだろう。それぐらいバームクーヘンという物はメジャーな食べ物なのである。


しかしそんなメジャーな食べ物ですら知らない人は確かに存在する。その1人が僕の友人の田中だ。彼はバームクーヘンを知らない。何で知らないのかは分からないが、きっと家が貧乏だからなのだろう。彼の家にはTVすらない。常に極貧生活をしている事は友人なら皆知っていた。


田中は良い奴なんだけど、プライドが高い。どうやら家が貧乏なのを皆に知られたくないみたいで、家は5DKだと嘘をついている。他にも親父はパイロットだとか、妹がAKBの最終オーディションまでいったとか、平気で嘘をつく。そんな田中を僕は友人として見ていられなかった。


そして、僕は決意した。田中の虚言癖を治してあげようと。あのままではきっと田中は駄目になる。ここはガツンと言ってあげるのが、友というものではなかろうか。なので、今日僕は彼を呼び出してガツンと言う事にした。そう決意を改めていると彼がやってきた。


「おっすおっす、日高。どうした?こんな所に呼び出して。あっもしかしてお前、A組の前田さんに告白でもする気だろぉ俺、恋の相談ならいつでも乗るつってたもんな」


「いや、今日は違うんだよ。お前の事についてなんだ」


「俺の事?オイオイ、俺はそっちの趣味はねぇぞ。ケツはガバガバだけど」


登場からいきなり面倒臭いなコイツ。折角虚言癖を治してやろうと思ってんのに。もう辞めようかな。


「違うわ。僕もそっちの趣味はない。ケツはガバガバだけど」


「あっそ。で、トゥデイは何の話をしようと思ってたんだ?」


「お前さ、バームクーヘン・・・知らないよな?」


「いや、知ってる」


「じゃあ、どんな物か言ってみろよ!あぁん!」


「はぁ・・・日高よ、いや、日高さんよ。今更バームクーヘンについて語る必要あるか?お前はおにぎりについてどうこう語ったりする?知ってて当たり前の物を説明する気なんて起きねぇよ」


「その知ってて当たり前の物をお前は知らないんだろうが!」


「たいゃはさとあ!バームクーヘンぐらい知っとるわい!」


「だから知ってるならどんな物か言えや!ボッケエエエエエエ!」


「分かった分かった。言えば良いんだろ?そうすればお前は満足なんだろ?このバームクーヘン野郎」


「あぁ、それで良い。さっさと言えや、この万年ほら吹き野郎」


「えー、バームクーヘンってのはだなぁ・・・あっ!前田が一人でスピッツ歌ってるうううううん!」


「えっ!嘘!?・・・何処にもいないじゃないかよってお前何やってんだよ!」


「うるせぇ!ちょっとスマホ弄ってただけだろうが」


「ちょっとってお前、検索ワードにバームって入ってんじゃねぇか!しかも予測変換がバーム 乳首ってどういう事だよ!」


「外人の乳首が見たくなる時ぐらい誰ってあるだろうが!」


「ハァハァハァ・・・分かった。一旦落ち着こう。話がそれてきちゃってるし、お前の性癖なんぞどうでも良い。俺が知りたいのはお前がバームクーヘンを知ってるかどうかだ」


「だから知ってるって言ってんじゃん。お前何?バームクーヘン流行らせたいの?」


「田中、もう見栄を張るのは辞めよう。別に良いじゃないか、バームクーヘンぐらい知らなくても。恥ずかしい事じゃない。これから知れば良いだけだしな、さっここは素直に認めて俺と一緒にバームクーヘン食いに行こう」


「ハイ、バームクーヘンは食べ物!これで良いか?これで満足?ねぇねぇ日高くん答えてよ」


しまった!自分からヒントを与えてしもうた。このまま正解に辿りつかれると、田中の虚言癖を治せなくなる。気を付けなければ。


「じゃあ、どんな食べ物か言ってみろよ」


「しつこいなぁお前まだ続けんのかよ。じゃあこうしよう。日高、俺は実は前田の好きな人が誰か知っている」


「なっ!だ、だ、だ、だから何だってんだ。今、前田は関係ないだろ」


「いいから聞け、前田命。バームクーヘンの話を終わらせるなら誰か教えてやろう。続けると言うなら交渉は決裂だ。前田の好きな人は教えない」


「うぐぅ・・・」


どうしよう。前田の好きな人は物凄く知りたい。だが、ここで引けば奴を逃がしてしまう。恋を取るか、友情を取るか・・・フッ、田中とは長い付き合いだ。これは選ぶまでもなかったな。


「前田の好きな人を教えて下さい」


「お前のそういう所嫌いじゃないぜ。じゃあ言うぜ、前田の好きな人は・・・」


「ゴクリ」


「俺だ」


「はっ?」


「俺なんだ。実はこの前、前田に告白されたんだ。お前には言おうと思ってたんだけどな、中々言い出せなくて」


「嘘だろ・・・。で、お前はどうする気なんだ」


「付き会おうと思う」


そんな・・・ヤバイ頭が真っ白になって来た。もはやバームクーヘンの事なんかどうでも良くなってきたぞ、早く帰って泣きたい。


「まぁ嘘だけど」


「嘘かい!お前ふざけんなよ!」


こいつはまた・・・。


「悪かった。まさかあそこ迄マジになるとは思ってなかったわ」


「お前言って良い冗談と悪い冗談があるの知ってる?」


「だから悪かったって。しゃーない、騙したお詫びに教えてやるよ」


「何を?」


「俺がバームクーヘンを知ってるかどうか」


「んな事はもうどうでも良くなったわ。てか、知らんの分かってるし」


「やっぱバレてたか。バームクーヘンなんて知らね~よ」


「お前さ、ちょいちょい嘘つくの辞めろよ、マジで。皆お前が嘘ついてんのバレてっからな」


「そうだな、気を付けるよ」


「分かってくれれば良いんだ。ハァ・・・もう気が抜けたわ、とりあえずバームクーヘンでも食いに行くか」


「あぁ。泣けるくらい美味いバームクーヘンを食べに行こう」


「そうだな、店で俺が泣いてもバームクーヘンせいだからな」


「分かってるよ」


こうして僕は田中の嘘を暴いた。バームクーヘンを知ってる嘘も、あの嘘も・・・やっぱり田中は嘘つきだ。だけどやっぱり良い奴だ。


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