36話「奴隷商館」
――冒険者区バローナ通り――
僕とオリヴィアさんは、バイモンさんの後を追うようにして歩いている。
「住宅街って感じで住みやすそうですね。大通りが近いので、買い物も苦労しなさそうですし」
「そうね。人通りは少ないけど、治安も良いみたいよ?」
バローナ通りは道幅が広く、路地のように人の目が届かなくなることはない。
「この辺りは冒険者ギルドの職員とか憲兵の人たちも住んでいるから、わりと治安がしっかりしているのよ」
「へぇー。オリヴィアさんはこの辺りに詳しいんですか?」
「ええ、まぁ。知り合いが住んでいるから」
バローナ通りを歩くことしばらく。閑静な住宅街とあって、あまり人とすれ違うことなく目的地に到着した。
「こちらがリストにあった物件でございます。レンガと石造りの二階建て。一階が店、二階が居住スペースとなります。二階のスペースだけでも4人暮らしには十分な広さです」
なるほど。店舗併用住宅か。確かに店を出す考えが無い人間には勧めにくいな。
「道理でバイモンさんが僕に推してこないわけですね」
「はい。しかもこちらの物件、もともと飲食店を営んでおり、調理用の『魔道具』が完備されておりまして……」
「価格が高いと?」
「おっしゃる通りでございます」
一階の店スペースに入ってみる。フロアには4脚の椅子があげられたテーブル5組、厨房には『焜炉』や『給水栓』の他、『冷却装置』まであった。
「確かに無駄に設備が整っていますけど……。こんな立地条件の悪いところで人なんて入るんですか?」
「そうなんですよ。実は立地条件の悪さから買い手がつかず……。かといってこれだけの『魔道具』を完備した物件を安く売りさばくわけにもいかなくてですね。いやはや痛しかゆしですな」
お手上げだとばかりにポーズをしたバイモンさんに尋ねてみた。
「ちなみに、今おいくらなんですか?」
「金貨250枚ですな」
やはり高い……。
「金貨200枚なら買います」
ギョッとした顔でこちらを見たバイモンさんとオリヴィアさん。
「ちょ、ちょっとマサキ!? いくら大金があるからって無駄遣いは良くないわよ!」
「確かに住居としては高いかもしれませんけど、先行投資ですよ。ちゃんと一階の店も活用します。実は経営者ってちょっと憧れがありまして」
ベンチャービジネスですよ。
ビジネスでも冒険していこうじゃないの。せっかくの異世界だもの。
「……」
「はっはっは! なかなか豪快な方ですな。しかし金貨200枚は些か厳しいです。いくら売れない物件とは言え、金貨50枚も値引いてしまっては私の首が飛びますゆえ」
「じゃあ、2つほど条件を出していいですか?」
「条件?」
「はい」
「伺いましょう」
「まずは――」
――
「お安い御用ですな」
「では、交渉成立ということで」
僕とバイモンさんはがっしりと握手した。
交渉はとんとん拍子で進んだ。商会本部に戻った僕は契約書を交わし、バイモンさんに必要な食材の調達を依頼する。
商会側としては、お荷物物件が売れた上、小口ながら今後も常客となり得る顧客を獲得できた。悪い顔をするわけがなく、お客である僕に対して最大限の誠意を見せてくる。
「旦那様から頂いた要望に添えるよう尽力致しますぞ! さっそく、該当する食材をリストアップしまして、近日中には旦那様の元へ試供品をお送り致しましょう。仕入れルートを確保した暁には、食材の安定供給をお約束します!」
「期待しています。では、人を待たせているので、これにて――」
「本日は当商会へお越し頂きありがとうございました! 今後ともラゾーナ商会を一つ、よろしくお願いいたします!」
ペコペコ頭を下げるバイモンさんに些か恐縮しつつ、オリヴィアさんを待たせている喫茶店へと向かった。
――
商会を後にした僕は、手ぶらではあれなので、一日付き合ってくれたお礼の品を買ってから喫茶店へ入った。物件の購入を決めた段階で別れても良かったのだが、オリヴィアさんは『暇だから』という理由で喫茶店で待っていてくれた。
「すみません、お待たせしました」
「早かったわね。交渉は上手くいった?」
「もうばっちりですよ! これもオリヴィアさんのお陰ですね」
「そ、そう? 私のお陰……ね。ふ、ふーん?」
なんか妙に嬉しそうだな。照れ隠しなのかティーカップを口に運ぶペースが速い。
「今日は本当にありがとうございました。これ、気に入ってもらえるか分からないんですけど、よかったら――」
そう言って僕はオリヴィアさんにプレゼント用に包装された小箱を渡した。
「これ……マサキが私に?」
「はい。オリヴィアさんには感謝しているんですよ。今日だけじゃなくて、『フリージア』に加入させてもらった時から、いつかお礼をしなきゃなと思ってまして」
大事に両手で小箱を受け取ったオリヴィアさんは、『開けてもいい?』と目で訴えてきた。僕が小さく頷いてあげると、オリヴィアさんが包装を綺麗に解いていき、小箱を開けた。
「これ……」
小箱から姿を現したのは、オリヴィアさんの髪と同じスカイブルーのサファイアが装飾されたネックレス。
「どうですかね……。あ、ほんと気持ちなんで、無理に受け取って頂かなくても全然――」
「もらう! もらうわっ! 今さら返してって言っても返さないから!!」
お……おう。
さすがに返せとは言わないから安心して欲しい。
「アクセサリーといっても種類がたくさんあったので悩んだんですけど、そのネックレスの色がオリヴィアさんを連想させたんですよね。ほら、綺麗な青じゃないですか。どっちも」
「ね、ねぇ」
「はい?」
「マサキは、その、えっと、ちゃんと分かっててこれを私にくれるの?」
分かってて?
オリヴィアさんが店でネックレスを見ていたことだろうか。
「もちろん分かってましたよ。だから買ったんです。あ、ウエイトレスさん、僕、ホットミルクで」
「~~~~~~~~っ!?」
耳まで赤くして固まるオリヴィアさんに対し、僕は通りかかったウエイトレスにホットミルクを注文した。
「ほ、本気?」
「えっと――」
本気とは、ネックレスを贈ることに対してだろうか。だったら本気だ。確かに貴金属だけあって高かったけど、それ相応にお世話になっている自覚がある。
「本気ですよ。家まで買ったんです。僕を甘くみてはいけません」
お金なら心配ない。家を購入したことで生活は安定するだろうし、店が上手くいけば危険な冒険者稼業に依存しない収入源も確保できる。
「だ、だから4人で住める家を……。こ、子供は、ふ、二人ということかしら?」
子供?
獣耳メイドのことかな?
「そうですね。僕は2人を考えてます。ちなみに2人とも女の子がいいです」
「…………だ、大事なことだから、時間を下さい。あ、嫌とかじゃないの! ただ、気持ちの整理とかが必要で。必ず返事はするからっ」
そう言い残すとオリヴィアさんが喫茶店から走って出て行った。
オリヴィアさんの意図するところが分からず、ぽかーんとしていた僕は、再起動を果たすと、お会計を済ませて次なる目的地へと向かった。
抜かりはない。家を売っている店を探すのに手間取った先程の二の舞にならぬよう、バイモンさんからしっかりとメイドさんを斡旋してくれる場所を聞いておいた。バイモンさんがサムズアップしながら『男なら』とか『ロマンですよね』とかごちゃごちゃ言ってきたが、余計なことには耳を貸さず、必要な情報だけをゲットした。
――奴隷商館――
「必要なのは女か? それとも男か?」
奴隷商館に着いて第一声がこれである。
「女で」
ただでさえひ弱そうな僕は、舐められないように毅然と振る舞い、たどたどしさをおくびにも出さずに答えた。
「歳や容貌の希望は?」
「歳は若い方が。あと、獣人がいい」
「獣人? なんだ女を買いに来たっていうから、てっきり人間の性奴隷目当てかと思ったんだがな」
なん……だと……。
「せ、性奴隷って駄目じゃない? ねぇ! 良くなくなくない?」
さっきまでの毅然とした態度が一瞬で崩れ去った。
「いいに決まってんだろ。第2等級なら勿論だが、第3等級の奴隷の中にも、金欲しさに性行為を許可している奴隷はいる。同意の上ってやつだ。まぁ、その分高いがな。中には性行為が大好きな痴女もいるぞ! がっはっはっは! とりあえず見ていけ! 金はあるんだろう?」
「え? いや男だし、興味が無いとは言いませんけど……」
確かにちょっと気になる。男だし。誰だって思春期の頃にはエロ本を追い求めて冒険するじゃん?好奇心が無いなんて言ったら嘘だ。だが……。
「おし。じゃあ、選りすぐりの女を並べるから待ってろ」
地に足がつかない状態で待合室で待つこと数分。
「準備ができたぞ。入れ」
中に入ると10代から20代の女の子が素っ裸で並んでいた。
「ぶっーーーー!?」
乳房や陰部を隠すことなく立っている少女たち。
これはあかんやつや。ガチなやつや。
頭の中だけならいざ知らず、実際に目の前に裸体を差し出されると体が引けてしまう。こういうのは、一定の距離感が大事だと思うんだ。写真とか動画とかなら第三者視点で見ることができる。だが、いざ自分がその枠の中に入ると、当事者意識が強まり、極度に緊張を催してしまう。取って食われるわけでもないのに体が震えだす。
「どうした? 感動で震えているのか? 胸くらいなら揉んでもいいんだぞ?」
「……」
改めて実感した。
だから童貞なんだよって言われそうだが、こういうことは段階を踏んでいかないと駄目だ。最初から裸で迫られても対処に困る。そう知れただけでも収穫じゃないか。
ここに来た目的を果たそう。
「僕はメイドさんを探しに来たんですよ。とりあえず素養があるか見ていきたいと思います」
なるべく体を見ないように、顔と目だけを見て一人一人【鑑定】していく。
名前:ジェシカ
人種:人間
性別:女
年齢:26歳
身長:172cm
体重:57kg
出身:ヴァルツリッヒ
ジョブ:奴隷、娼婦
名前:ランカ
人種:狼族
性別:女
年齢:24歳
身長:175cm
体重:65kg
出身:ボロッコの森
ジョブ:奴隷、狩人、誘惑
名前:イザベラ
人種:人間
性別:女
年齢:19歳
身長:159cm
体重:44kg
出身:ルクルド村
ジョブ:奴隷、痴女
出身地に懐かしい地名があったため思わず尋ねてしまった。
「イザベラさんはルクルド村出身なんですか?」
「え? どうしてあたしの名前と出身が……」
間髪入れずに奴隷商人が僕に問い質す。
「おい! あんた【鑑定】持ちか?」
奴隷商人がそう言った瞬間、ざわめきだす奴隷たち。誤魔化す必要もなかったので、肯定すると続けざまに奴隷商人が切り出してきた。
「黒服に童顔……あんた、街で噂の冒険者マサキだろ!! ドラゴンを討伐してB級冒険者に昇格したっていう異才の――ぐあ!?」
「ちょっと! どいてっ! ねぇ~、マサキさん? あたしなんてどうかしら? あたし、こう見えて初心で一途なの。あなたに一生仕えるわぁ。メイドだってやってあげるし、エッチなことだっていっぱい――」
「阿婆擦れがよく言うわ! あんた気に入った人が居たら誰にでもそう言うくせに! 私っ! 私があなたに相応しいわ! 若い性欲をいくらだって受け止めてあげる! 私、あなたの子を孕みたい――」
「ねぇ? お姉さんとイケナイことしたくなぁい? お姉さん、すっごいのよ? 男の子を気持ちよくさせるのが得意なの。私を買ってみない?」
我先にと猛アピールをしてくる奴隷たちに僕はたじろぐ。胸をぶるんぶるん揺すったり、股を広げたりして迫って来る女性たちは、童貞にとってみれば狂気としか言いようがない。
メイドをここで探すのは間違いだったか?と諦めかけた時、猛アピールを繰り広げる輪に加わっていない2人の獣人の女の子に目が留まった。
名前:ルー
人種:狐族
性別:女
年齢:16歳
身長:149cm
体重:42kg
出身:ウルドの森
ジョブ:奴隷
名前:サニャ
人種:猫族
性別:女
年齢:15歳
身長:145cm
体重:36kg
出身:ウルドの森
ジョブ:奴隷




