14話「旅の準備」
――翌朝――
早起きした僕は、マジックバックを腰に装備し、意気揚々と買い出しに出かけた。
『歓楽区』→『商業区』
実を言うと、商業区に来るのは初めてだったりする。
僕は食材をたくさん扱っている市へと赴いた。
市は早朝にも関わらず活況であり、威勢のいいおじちゃんおばちゃんが声を出して食材を売りさばいている。屋台形式で立ち並んだ店に陳列されている鮮魚や精肉、果物や野菜は多種多様で壮観だった。
新鮮な食材は早い者勝ちと言うし、早いところ調達してしまおう。
買い物リストは、昨晩すでに作ってある。
傷心したメンタルを癒してから作成したので、ちょっとだけ寝不足だ。
◆クリームシチュー(12人前6食分)◆
ジャガイモ36個
たまねぎ18個
にんじん9個
かぼちゃ5個
鶏肉(ももorむね)18枚
パセリ 飾り用
小麦粉大さじ36強~
牛乳5400cc
水3600cc
コンソメ 36個
塩・こしょう適宜
◆ナポリタンスパゲッティ(10人前6食分)◆
スパゲッティ麺6kg
玉ねぎ15個
人参1.2kg
ソーセージ120本
マッシュルーム60個
ピーマン30個
バター小さじ60
卵60個
油 適宜
トマトケチャップ大さじ240
ウスターソース 小さじ60
牛乳大さじ180
砂糖小さじ60
塩、こしょう各適宜
スパゲッティのゆで汁大さじ180
パセリのみじん切り適宜
チーズ適宜
◆フレンチトースト(10人前4食分)◆
食パン80枚
卵40個
牛乳6400cc
砂糖小さじ山盛り80杯
バター320g
◆サンドイッチ(10人前9食分)◆
八枚切り食パン180枚
生ハム270枚
きゅうり45本
チーズ適宜
鶏ササミ45本
干し肉やパンなどは各自持参してくるそうだ。メニューはなるべく飽きないように配慮した。【朝・昼】はフレンチトースト、サンドイッチ。【夜】はシチュー、スパゲッティ。あとは狩りでもしておかずを増やせばいいと思う。
おかげで馬鹿みたいな量になってしまった。
この世界のマジックバックは、魔力に応じた容量を収納することができる。また、マジックバック内部は時間という概念から隔絶されるため、物が腐ったり劣化したりすることはない。だから馬鹿みたいな量でも食材を保存できるのだが、果たして1,000ヴァルツで足りるだろうか?
――結論から言うと、全く足りん……。
1週間続けて3食ナポリタンスパゲッティならいける。
「嫌だ……。来る日も来る日もナポリタンなんて、絶対にいやだ!!!」
とりあえず市では生鮮食料品を優先的に買えるだけ買い、不足分は手出ししてでも食の充実は図ることにした。
どうやって不足分のヴァルツを捻出するのか。冒険者なんだから答えは一つだろう?
『商業区』→『冒険者区』
「エマ、今日中に稼げるクエストってない? できれば『〇〇を何匹討伐せよ』とか『〇〇1匹ごとに〇ヴァルツ』みたいな量に応じた報酬がいい!」
「おはようございます。マサキさん。なんか一昨日と比べてフレンドリーな感じになりましたね。ええ。ありますよ? とっておきのものをご用意しますね」
◇◆『霜降りラビットを狩れ』◆◇
内容:霜降りラビットを狩って持ち帰ること。
報酬:霜降りラビット@50ヴァルツ
ランク:F
備考
脂肪の微粒が全体に行き渡っていて口に入れると溶けるように柔らかい霜降り肉。
主に貴族の食用として高値で取引されているが、臆病な性格な霜降りラビットを
狩るのは至難の技である。仲間意識が非常に強く、頭から生えている角には要注意。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「単価50ヴァルツか。なかなか割がいいな。これにする! お昼過ぎ頃には戻って来ると思うから、買い取りよろしく!」
「え? ちょっとまだ説明が――っもう!! ちゃんと説明聞いてから行きなさいよっ!!」
僕は南門から城外へ出て、人気のないところまで行くと魔法を行使した。
【召喚】:霜降りラビット×100
「「「「「「きゅー」」」」」」
霜降りラビットを100匹召喚すると、ラビットが重なり合って辺り一面白に染まった。
「ラビットたちよ! 心して聞いてくれ! 実は今、霜降りラビットをたくさん狩らなければならない状況に陥っている。だから協力して欲しいんだ。君たちには今から僕の言う作戦通りに行動してもらいたい」
僕は狩りの必要性を説き、その上でラビットたちの協力が必要だと述べた。
「なに簡単な作戦さ! じゃあ時間も無いから、早速作戦を説明するぞ? まずは同族の霜降りラビットを探してくれ! 白いからすぐ見つかるだろ? 同族の霜降りラビットを発見したら、接触を図ってもらう。その際、警戒心を抱かせないように細心の注意を払うんだ。慎重に近づいていって、しっかりと油断をさせたら――」
ごくり。
ラビットたちが息を飲んだかのように静まり返る。
「――頭の角で一突きにしてくれ」
「「「「「「きゅー!?」」」」」」
信じられない、何言っているのこのご主人様、同族を殺せと?とでも言わんばかりに困惑するラビットたち。
「じゃないと毎日ナポリタンだ! そんなの嫌だ! だから行け!!」
理不尽極まりない鬼畜ご主人様に渋々従って同族殺しの狩りが開始された。
――――
『キュー!(やあ元気?)』
『キュキュー!(見ない顔だな?最近こっちに来たのか?)』
『キュ~(そうなんだ。今日こっちに着いたばかりで)』
『キューキュッキュ(そうかそうか。なら俺がこのあたりを案内してやろう)』
『キュッキュー(ありがとう!でもそれには及ばないよ)』
『キュ?(え?)』
『キューーーーーーーー!(死ねーーーーーーーー!)』
『キュー!?!?!?!?!?……キュ(なぜだ!?!?!?!?!?……ぐふっ)」
仲間意識の強いラビットに同族を近づかせ、一突きにするという鬼の戦法で次々と獲物を仕留めて行った。
ヴァルツリッヒ皇国近辺の霜降りラビットが忽然と姿を消したと騒がれるのは、もっと後になってからの話。
――数刻後――
「ごめん……ちょっとやりすぎたかも……」
積みあがった霜降りラビットの死体の山。
そして、心が病んでしまったラビットたち。
「「「「「「……」」」」」」
「ご、ごめんってば……。とりあえず君たちには、心の療養が必要だと思うんだ」
「「「「「「……」」」」」」
僕はラビットたちをそっと召喚解除し、獲得した霜降ラビットの山をマジックバックにしまう。
今度メンタルケアをしてあげようと心に誓って。
――お昼過ぎ――
冒険者ギルドにクエスト完了の報告をするべくエマのもとへ戻る。
「ふふーん、やっぱりね! マサキさん、ちゃんとギルド職員の説明は聞くものですよ? 大見え切った手前、戻って来ずにはいられなかったのでしょうけど、霜降ラビットはそもそも短時間のうちに狩れるものじゃないんです。ましてやマサキさんのような素人じゃ――」
なんか説教し始めたから、狩ってきた霜降りラビットのうち半分の50匹をギルドの受付にドンッと出してやった。エマのドヤ顔とか、したり顔とか見ていても楽しくないし。
「――っ!?」
「50匹×@50ヴァルツだから、合計2,500ヴァルツね」
「……」
エマは目を白黒させて霜降りラビットの山と僕を交互に見比べる。
「このあと食料の調達が残っているから早くね」
「ぐぐぐっ……。はい……」
先ほどまでの威勢はどこへやら。なぜか悔しそうに涙目になりながら僕を睨んでくる。
エマは粛々と換金作業を行い、未練がましく報酬2,500ヴァルツを僕に渡した。
手にした報酬で残りの材料を買ってみたところ、余剰金ができてしまった。予想以上に稼ぎすぎてしまったようなので、色々と買い揃えることにする。
木製コップ、木製食器、ナイフ、フォーク、スプーン、歯ブラシ10人分。
どうしても石鹸だけは見つからなかったのだが、鍛冶屋でトローナ鉱石が売られていたので、もういっそ作ってしまおうと思い、トローナ鉱石を購入した。泡立たない&汚れが落ちない&香り無しの石鹸もどきはもうイヤ!
また、デザート的な趣向品も買ってみた。女性は甘いものが好きと聞くし、喜んでもらえれば嬉しい。パンパンになったマジックバックで『三日月亭』へと帰還する。
――『三日月亭』にて――
石鹸を作ってみた。
鍋に水を沸騰させて重曹を溶かし、泡が小さくなるまで待つ。
同時にココナッツオイルを作る。買ってきたココナッツミルクに火をかけ、油を分離させて必要なオイル部分を抽出。
出来上がったココナッツオイルを鍋に混ぜ、しっかりと火に掛けてから、用意しておいた四角い容器の型に流し込む。
冷やして固めた後に適当な大きさに切り分け、あとは明日まで熟成させる。
試しに切り分けた一欠けらで手を洗ってみたが、しっかりと泡立っていたし、ココナッツミルクのいい香りがした。
料理担当するなら衛星管理も大事だよね。
手もきれいになったことだし、石鹸作りの次は料理だ。
サンドイッチだけでも前日に作ってしまおうと、僕は繁忙前の『三日月亭』の厨房を借り、10人前9食分の合計90食を作った。ありがたいことに、寡黙な『三日月亭』の主人も手伝ってくれた。
今日はなんだかんだ朝から忙しなく動いて疲れたため、夕食はテーブルにつかず、厨房で簡単なものを取らせてもらって早々と床に就いた。
明日は遅刻できないからね……。