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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
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13話「変調」

 なぜか住所の書かれた紙をもらってしまった。


 小さな丸文字で、実に女の子らしい筆跡だった。


 これはリアさんの大切な個人情報だから無くさないようにと思い、大事に内ポケットに仕舞ったところ、何やら強烈な殺気を感じた。


 しかも複数だ。


 なんだ?危険察知能力なんて持ってないのに。


 とにかく殺気を放っている出所は探さない方が吉だろう。きっと藪蛇やぶへびだ。


 もともと三日月亭に戻る途中で騒ぎに駆け付けたようなものだし、ここはさっさと退散するに限る。


 だが、帰路に就こうとしたところで聞き覚えのある声に呼び止められた。


「待ちなさい。マサキ」


「え!? オリヴィアさんですか? どうして歓楽区なんかに居るんですか?」


 突然のオリヴィアさん登場に僕は慌てふためく。


 オリヴィアさんの後ろに控えているのはレベッカさんと見知らぬ2人の女性。


「ちょっとした野暮用よ。丁度いいから『フリージア』の幹部2人を紹介しようと思って声を掛けたの。紹介するわね? この子は前衛部隊長のグレース。盾と片手剣の使い手よ」


 ラフウェーブした短めの髪はチョコレートブラウン色で、背丈が低く僕以上に幼顔であった。体は貧――いやスレンダーで、幼児――いや若々しい体系である。人懐っこそうな笑顔で、天真爛漫てんしんらんまんな雰囲気を醸し出している。


「ねぇねぇ? 今、ウチのこと貧乳とか幼児体系とか思わなかった?」


 笑顔なのに目が笑ってない……。


「い、いいえ。一切そのようなことは思っていません。可愛い方だなぁと思っていました」


「えへへ。ありがとう。今度、貧乳とか幼児体系と思ったらぐぞ?」


「ごめんなさい……」


 何をとは聞けない。


 グレースさんは僕の視線と表情だけで心の中を読み取った。


 恐ろしい……。


「次に中央部隊長のニーナよ。攻撃魔法を得意としているわ」


 髪は銀髪でストレートロング。なぜか左頬に真っ赤なもみじが出来ているが、気にならないほど端正な顔立ちをしている。花のように美しい顔と、柳のように細くしなやかな腰。グレースさんが天真爛漫てんしんらんまんなら、ニーナさんは花顔雪膚かがんせっぷだ。体は彫刻のように芸術的な曲線美を描き、調和のとれた体系をしている。


「団長、この男、私を嘗め回すように見ています。怖いです」


 そう言ってオリヴィアさんに抱き着こうとしたところ、強烈なビンタが炸裂した。


 あ、右頬にももみじが出来た。


「というわけで、私を含めてこの場にいる4人が『フリージア』の幹部よ。あと、これは明日渡そうと思ったのだけれど先に渡しておくわね」


 そう言ってウエストポーチのようなものを渡して来る。


「これは?」


「マジックバックよ。明日中に1週間分の食料を調達なさい。バックの中に1,000ヴァルツ入っているから」


「おおお!! これがマジックバックですか! すごい。見た目は普通のバックなのに」


 そう言ってマジックバックを様々な角度から検分していた僕をオリヴィアさんが可笑しそうに微笑えんだ。


「おかしな人ね。あれだけの剣術を心得ておきながら、マジックバックごときではしゃぐなんて」


 ん?


 もしかしてさっきの騒動見られていたか?


「すみません。無知なもので。なにぶん田舎から出てきたものでして……」


 ところで、さっきからニヤつきながらこっちを見ているレベッカさんが気持ち悪いんだけど。


 何?何なの?


 田舎者がおかしいのか?


 そうなんだな!?


 こちとら異世界に来てまだ2ヶ月経ってないっての!!


「そんなことより、ウチはマー君の隠された実力が気になるなー」


「マー君?」


 聞きなれない呼び名に首を傾げつつ、僕はさっきからニヤついてるレベッカさんに尋ねてみる。


 いい加減ニヤニヤやめれ。


「ああ。マサキに付けられたあだ名だ。グレースは誰にでもあだ名を付けるんだよ」


「へぇーそうなんですね。ちなみにレベッカさんのあだ名は何て言うんですか?」


「……」


 どうした?柄にもなく顔を赤らめて。


 『レベッカ』のあだ名で思いつくのは『ベッキー』だろうか。


 回答はレベッカさんではなく名づけ親から返ってきた。


「レベっちだよ?」


「今なんと?」


「レベっち」


「もう一回……」


「おいっ! それ以上ふざけるなら貴様の胴体を真っ二つにしてくれるぞ!!」


 すげぇ。冷静なレベッカさんが激高するとはなんたる威力!『レベっち』すげぇ。


「もー。あだ名なんていいから、教えてよー!」


 そう言って僕の腕にレベッカさんが自分の腕を絡ませてくる。


「ちょっ!?」


 途端、心拍数が跳ね上がり、女性に免疫のない僕はたじろぐ。


「おやおやー? マー君は女の子に耐性がないのかな? アハハハ! おもしろーい! もっとギュッと腕にしがみ付いたらどうなるのかなー?」


 ぐっ……。


 こいつが世に言うビッチというやつか。


 僕が困惑していると、救世主は思わぬところから現れた。


「グレース。止めなさい! こんな往来の道のど真ん中ではしたないわ!」


「えぇ~。だってマー君の実力気になるじゃん!」


 そう言って僕を挟んでもみ合いになる二人。


 やめてくれ!当たってる。当たってるって!童貞には刺激が強すぎるって!


 ――おいっ!そこなレベっちよ!

 

 なにニヤけてやがる?


 田舎者の童貞キモいとか思っているのか?


 ちくしょう……。


「いい加減に離れなさい!!」


「えぇ~、なんかオリちゃん必死すぎる~」


「そ、そんなことないわ! 純潔を名乗る『フリージア』にあるまじき行いを正しているの!」


 ようやくグレースさんが僕を解放すると、オリヴィアさんはグレースの首根っこを掴んで引っ張って行く。


「帰るわよ! マサキは明日食料調達して、明後日一番鐘が鳴ったら南門に来なさい。ほらグレース来なさい!」


「なにをするー!! マー君を解放したのにこの仕打ちは酷いじゃないかー!!」


 ぶーぶー文句を言いながら引きずられていくグレースを相変わらずニヤつきながらついて行くレベッカさん。


 自分も宿に帰るかなと思っていると、横から視線を感じた。


じー


 横から覗き込むように視線を送ってきたのは、先ほどから黙ったままのニーナさんだ。


「え? 何?」


「私、あなた嫌い」


「……」


 まさかの嫌い宣言である……。


 その後、初対面の人に嫌い宣言された僕は、悲哀を漂わせながらうの体で宿へと帰り、人知れず枕を涙で濡らした。

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