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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
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12話「料亭での出来事」

――『歓楽区』のとある料亭にて――



 マサキと顔合わせを終えたオリヴィアとレベッカは、『フリージア』幹部の残り2人を呼んで会合を開いていた。


 『フリージア』は、前衛部隊長のグレース、中央部隊長のニーナ、後衛部隊長のレベッカに、団長のオリヴィアを加えた4人をギルドの幹部としている。


「なるほどー。それでオリちゃんはマー君の入団を認めたわけかー。さすがレベっちだね」


 誰彼構わずあだ名で呼んでしまう快活にして無邪気な喋り方のグレースが開口一番そう言った。


「……グレース、いい加減その呼び方止めない?」


「なんでぇ? オリちゃんってあだ名可愛いじゃん! オリヴィアって長いんだもん」


 ぷくーっと頬を膨らめせて譲る気を見せないグレースにオリヴィアはため息交じりで反論する。


「『オリちゃん』と『オリヴィア』は文字数にしても変わらないと思うのだけれど」


「諦めなオリヴィア。このやり取りもう100回は聞いているぞ。それよりも、グレースはマサキの入団は認めてくれるんだな?」


「ウチは別に気にしないよぉ。今は一人でも戦力が必要な時でしょ? オリちゃんとレベっちが認めたのなら異論はないよ」


「そうか。で、ニーナはどうなんだ?」


レベッカは、オリヴィアにぴったり寄り添って座っているニーナにも確認をとる。


「私も構いません。団長が良いと言うなら良いんです。団長が黒と言えば黒。白といえば白なんです。団長、今日この後お暇ですか? 私、近くに宿を2人分とっておりまして――」


「この後は暇だけど、あなたとその宿には行かないわよ?」


 がーん!とオーバーリアクション気味に項垂うなだれるニーナ。


 失意のニーナは支えを失ったかのように、そのままオリヴィアにしなれ掛かろうとする。


 その展開を読んでいたオリヴィアは、ニーナに一瞥いちべつをくれることもなく容赦ないビンタをかます。


「今日の団長のビンタは怒りと悲しみがこもっています……」


 ニーナは頬をさすりながら、わけの分からない感想を述べる。


「お前らのそのやりとりも100回は見たぞ……」


「ニーナの馬鹿に付き合っている暇はないわ。私たちはあと10日以内・・・・・にクレアを救出しなければならないのだから」


 オリヴィアが真面目な顔でそう言うと、先ほどまではふざけ半分だった残りの3人も真面目に答える。


「そうだよねぇ。クレクレを誕生日までに助けてあげないと。今もきっと怖い思いしているはずだよ」


 真面目な空気であるためか、もはやあだ名の方が本名よりも長くなってしまっていることに誰も突っ込まない。


「ごめんなさい。団長。決してふざけているわけじゃなくて本気なのだけ――あっ、痛い! 痛いですっ! 団長! ごめんなさい!!」


「しかし凝りもせずに復讐してくるとは思わなかったな。オリヴィア、今回はもう容赦なんて必要ないぞ?」


「ええ。分かっているわ。禍根は今回で絶つつもり。そのためにもギルドの総力を上げて救出するわよ!」


「おー!」


「かっこいいです団長!私も頑張ります!」


「当たり前だ」


 マサキの入団について話し合っていたつもりだったが、期せずして決起集会のようになってしまった。


「とりあえず、この場にいる皆には共有しておくわね。これがクレアの身代に対する要求よ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


1.奴隷からの解放


2.フリージア幹部の謝罪


3.金銭30万ヴァルツの支払い


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「百歩譲って1と3は分かりますが、2については何を謝れというのでしょうか? ち〇こいだことですか?」


「ニーちゃんのえっちぃ! もっとオブラートに包んでよ!」


「今さら何を言っているの? グレースだってち〇こぐのに賛同したじゃない。だいたい男のちん――」


「あー! もう! うるさいぞお前ら! ニーナは場をわきまえろ。公共の場だぞ? つつしみを持て!」


「ごめん。レベっち」


「ごめんなさい。レベッカ」


 レベッカが二人をいさめた後、相手の言い分は『受けた罰が過剰であった』ということに結論付けた。


「完全にあの人たちの言いがかりね。とりあえず私たちは要求を呑むふりをしてクレア救出の機会を伺うわよ。奴隷の首輪がある限りこちらの命令は絶対に従うのだから」


「オリヴィアの言う通りなんだが、それを見越して要求を出してきたってことは、それ相応の準備をしてきているはずだ。注意を怠ることなくクレアの身の安全第一でいくぞ」


 話がひと段落ついた頃に料理が運ばれてきたので、4人は一様に料亭の味に舌鼓を打った。



――



 食事を終えて個室から出た4人は、会計を済ませて料亭を出ようとした。しかしオープンスペースの方が騒がしかったので足を止める。


「貴様! わしを誰だと思っとる! 子爵バーモン家の当主ぞ!!」


「も、も、申し訳ございません! しかしお品をお出しした際にそのような異物は入っていなかったかと――」


「なんだと? わしが嘘をついているとでも言うのか? 不敬であるぞ!!」


「め、滅相もございません! すぐに新しい料理をお持ち致しますので、何卒ご容赦下さい!」


「ならん! 貴様にはしっかりとその体に折檻してくれる。ついて参れ!」


「そ、そんな……」


 料亭で働いていた若い女性店員は完全に怯えてしまっていた。


 容姿の整った女性店員は、助けを求めようと周りを見渡すも誰も目を合わそうとはせず悲嘆に暮れる。


 周りの店員や客も相手が子爵ではどうしようもないと諦めているのだ。


「はようせい! たっぷりとその体に沁み込ませてやるわい。一晩かけてじっくりとな!」


 薄ら笑いを浮かべ、豚のように肥えた子爵が女性店員に手を伸ばす。


 オリヴィアたちが助けに入ろうとしたその時だった。


 黒い影が音も気配を感じさせない動きで女性店員と豚貴族の間に割って入った。


「失礼します。店員さんが困っているようなので、その辺で止めてもらえませんか?」


 女性店員に伸ばした豚貴族の手を鷲掴みにして立ちはだかったのは、先ほど喫茶店で別れたばかりのマサキであった。


「き、貴様! この手はなんだ!! わしがバーモン家当主のバーモン・カーターと知っての狼藉か!?」


「いえ知らないですけど。困っている人がいれば助ける。僕の故郷では当たり前のことでしたよ?」


「貴様がしておるのは人助けではない! 貴族への謀反だ!! 打ち首にしてくれる!! おい!!」


 豚貴族の後ろに控えていたがたいの良い護衛2名が抜刀し、躊躇なくマサキに切りかかる。


「フハハハハ! こいつらは我がバーモン家が誇る護衛たちだ。貴様などあっという間に切り刻んでくれる」


 これはさすがに不味いかとオリヴィアが剣の鞘に手を掛けると、レベッカが手で私を制した。


「レベッカ?」


「いい機会だ。やつの実力とやらをじっくり拝見しようじゃないか」


「……やっぱり悪女ね」


「言ってろ。店員や他の客に危害が及ぶようなら私たちも出るぞ」


 レベッカがほくそ笑むと、マサキと護衛2人の攻防に見入った。


「ぐ……」


「ちっ……なぜ当たらん」


 先ほどから護衛2人がなりふり構わず剣を振り回すが、一太刀もその攻撃は届いていなかった。


 キンキンと剣の打ち合う音がしたかと思えば、空ぶったように空を切る風切り音がする。


 マサキが最小限の動きでもって剣をいなし、剣をかわし続けているのだ。


 息も絶え絶えになってきた護衛2人に対して豚貴族が苛立ちを見せ始めた。


「何をしとるか! 相手はまともな防具も付けていない小僧1人だぞ!」


 護衛2人も当初は黒いローブを身に纏っているマサキを軽視していた。


 剣の腕に覚えのある冒険者は通常ローブなど着ていないからだ。


 おまけに歳が若く、がたいも良くない。金がないためにローブでも着ているのだろうと思っていた。


 しかしいくら攻撃しても当たらない。


 上段からの切り下げ、下段からの切り上げ、左右からの横切り、重心移動からの突き。


 ことごとく攻撃をかわされ、護衛2人に焦燥感が生まれ始めた。


 焦りは隙を生む。


 護衛2人は力任せに剣を大振りし始め、挙動が大きくなっていく。


 すると、今まで守りに徹していたマサキが動いた。


 護衛2人は一瞬マサキの姿と剣の太刀筋を見失う。


 黒い影がうごめいたと思った時には、キンと甲高い音を立てて護衛の手から剣が弾き飛ばされていた。


「えっ!?」


「なっ……」


「はやっ!?」


 その場に居た者が口々に驚きの声を上げた。


 マサキはへたり込んでいた護衛2人を素通りし、腰を抜かしていた豚貴族へ剣先を向ける。


「な、な、何者じゃ! 貴様!!」


「今日2度目のセリフですね……。僕はマサキって言います。これに懲りたら人様に迷惑を掛けないで下さい」


 マサキがそう言うと納刀した。


「ま、マサキの言ったな!? 覚えておれ! 貴様の名前は覚えたからな!!」


 豚貴族はそんな捨て台詞を吐きながら店を出て行った。



 一方、マサキの剣の腕前を見た『フリージア』幹部たち面々は―



「すごぉーい。マー君って治癒師ヒーラーじゃなかったの?」


「驚いたな……あれだけの剣の腕を持っていたとは……。私でもあれだけの手練れを無傷でいなすのは困難だぞ……」


「団長、私、早すぎて見えませんでした」


「……」


「団長?」


「――え? そ、そうね。最後のは私もちょっと見えなかったわっ」


 ニーナはずっとマサキの姿を見ていたオリヴィアを不信に思い、心配顔で傍に寄り添った。


「あー! わかったぁ!! オリちゃんマー君のことちょっと見直したんでしょ?」


「ま、まぁ、多少は腕がたつようね」


「それだけならいいがな」


「何か言ったかしらレベッカ?」


「いや何も?」


 『フリージア』幹部たちがそう言いあっている間も、マサキは怪我人が居なかったか確認しており、女性店員からしきりにお礼を言われていた。


「助けて頂き、ありがとうございましたっ! あのっ!! えっと……私リアって言いますっ!」


「いえいえ。リアさんも災難でしたね。もしああいった輩が出た時は、迷わず店を逃げ出すといいですよ。僕でよければお助けしますので、いつでも頼って下さい」


「は……はい。ありがとうございます。それで、えっと――」


リアは何か言いたげにもじもじしている。


まるで告白でもするつもりなのかというくらい頬を赤らめ、肩に力が入りきってしまっていた。


足をくねらせながら俯き気味にマサキと向かい合っていると、店の奥からは『がんばれー』と声援が飛んでくる。


胸に大事に持っているものを渡そうとしているのだろう。


声援が後押しになったのか、幾ばくかの沈黙の後、意を決したようにリアが一歩前へ進み出た。


「あ、あのあのっ! こ、これ! わ、私の住所ですっ。お近づきのしるしに……。あ! 誰にでも住所を教えるような軽い女ではないですからっ! えっと……その……。し、失礼しますっ!!」


 そう言ってリアは住所が書かれているとおぼしき紙をマサキに押し付けるように渡すと、小走りで店の奥へと消えていった。すると店の奥から同僚らしき女性たちのキャーキャーと騒ぎはやすような声が聞こえてきた。


「あれあれぇ? あの子、マー君のこと気に入っちゃったみたい? 若い女の子が住んでいる場所を教える相手なんて、気になる異性くらいだよねぇー」


「いいのか? オリヴィア。早速、店員の子にマサキが目を付けられたぞ?」


「さっきから何が言いたいのかしらレベッカ?」


「いや、可愛い子だったから、マサキがあの子に盗られてしまうのではないかと思ってな」


「ふん。ちょっと見た目が可愛い子だったからってデレデレしちゃってみっともない。そんな浮ついた男なんてどうなろうと知ったことじゃないわ!」


 先ほどからマサキと店員のやりとりを一部始終見ていたオリヴィアがご機嫌斜めにそう言うと、レベッカが笑いを堪えるようニヤニヤと頬を緩ませていた。


「ねぇねぇ、ニーちゃん。もしかして、もしかしてだけど、オリちゃんってば嫉妬しているの?」


「ありえないわ! 団長には私というものがあるのだから! きっとご飯食べすぎてお腹が痛いのよ。私、お腹さすって来るわ」


 その後ニーナが盛大なビンタを食らったのは言うまでもない。


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