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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
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11話「折り紙」

 ローラが言ってることが本当に正しいなら、怖い。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


 ただただ怖い……。


 彼が万が一私より強くて、遠征中に襲い掛かってきたらと思うと震えが止まらない。


 私はあの事件以来、男に触れることができなくなってしまった。


 だからこそ普段は虚勢を張り、男を自分に近づけないように強がっていた。


 男に触られただけで飛び上がってしまうような人間が団長だと知られ、仲間に見損なわれるのも怖い。


 なぜレベッカは得体の知れない能力を持った男をギルドに入れようとするのか分からない。


 十分に奥のテーブルから離れると、前を歩いていたレベッカが振り向いて言ってきた。


「分かっているのか? 今がどういう状況かってことを。一人でも戦力が欲しいところに有能なヒーラーだぞ? おまけに召喚師だ。少なくとも後衛としてはこれ以上ない戦力だ。」


 分かっている……。


 でも怖いの。あなたは知らないかもしれないけど、私は男が怖いのよレベッカ。


「そんなことは分かっているわよっ! でも、得体のしれない能力を持っているのよ? 団長としては許容できないわっ!」


 あたかも正論を振りかざして反対する私の心を見透かしたように、レベッカは核心をついて言ってきた。


「許容できないのは、あいつが男だからだろ?」


「――っ!?」


「お前は例の事件以来、誰よりも男を怖がっているように見える。だから誰よりも強くなろうとしたし、気丈に振る舞おうとして強く当たってしまう。違うか?」


 違わない……。


 気づかれていた……。


 こんな惨めな私を悟られてしまった。


「……」


「あんな経験をしたんだ。どれだけの力を秘めているのか分からない男を女だけのギルドに入れるのは私だって抵抗があるさ」


「……だったらっ!!」


「だとしてもだ。あいつはたかだか1人。対してこっちは29人・・・。前回とは状況が全く違う」


 確かに数の上では圧倒的に私たちが優位だ。


 しかし、能力は得てして数をも凌駕することがある。


 一撃の魔法で一個小隊を吹き飛ばすこともあるのだ。


「レベッカは彼を受け入れるの……?」


「違うな。受け入れるんじゃない。利用するんだ。いいか? 私たちにはもう時間がない・・・・・・んだ。一刻を争う状況でまたヒーラーを探すのか?」


「分かったわ……」


「よし。なに、期間はたった30日さ。事が済めばすぐにも追い出してやればいい」


 男を怖がっている私を知っても、いつもの調子で接してくれるレベッカに少しほっとする。


 それがレベッカの良さでもあるのだけれど。


「ふふっ。レベッカは私より悪女ね」


「なんとでも言うがいいさ」


 こうしてレベッカの説得に不承不承ながら納得し、私たちはもとのテーブルへと戻った。


 すると、テーブルの上に色とりどりのオブジェができており、ぎょっとして呟いてしまった。


「なによこれ……?」


 動物をモチーフにした数々のオブジェ。


 首が細長く尖ったくちばしの鳥、垂れ耳の犬、長い耳の片方がぺたんと折れてて愛らしい兎、吊り目の狐、その他にも見たこともないような動物のオブジェがたくさんあった。


「どうだ? クロエ。これが折り紙って言うんだ」


 まるで盲信者のように折り紙を折り続けるマサキ。


 折り紙が崇高な癒しの源泉だと確信したような顔で1枚1枚丁寧に。


「……すごい」


「そうだろう、そうだろう。もっとあがたてまつってもいいんだよ? クロエ」


「……1枚の紙からこんなに色々。……すごい」


 私はそのオブジェの数にも驚いたが、なにより私と同じくらい男性恐怖症のクロエがマサキと話をしているのが信じられなかった。


「ちょっとっ!! こんな紙切れでクロエを懐柔しようとしないでよねっ!」


「いや、別にそんなつもりないけど。ていうか気に入らないんだったら、そのルイーズの手に持っている猫の折り紙返してよ」


「――っ!? こ、これは、この子(猫の折り紙)があんたから逃げたいって言うから……」


 ルイーズはマサキに指摘され、焦ったように手に持っていた真っ白な猫の折り紙を隠そうとする。


 ルイーズが大事そうに持っていたそれをよく見てみれば、なんと立体型であった。


 ルイーズは持って帰る気満々である。


 ローラはと言えば、『なんて有様よ』と言いながら頭を抱えてしまっている始末。


 するとレベッカは笑いながらその輪に入って行く。


「はっはっはっは! よくできているじゃないか。なんだ? 貴様は細工技師でも目指しているのか?」


「いやそんなつもりはありませんよ……。目の前の3人が相手にしてくれなかったので、一人で暇つぶししていただけです。そしたらルイーズに猫を盗られました」


「と、と、盗ってないわっ!! この子(猫の折り紙)が自主的にあたしのところに来ただけだしっ!!」


 クロエたち3人とのくだけた感じの話し方とは打って変わって、レベッカには敬語を使って答えるマサキ。


 そしてルイーズがなにやら苦しい言い訳をしていた。


 レベッカはテーブルの上にあった犬の折り紙を手に取って、まじまじと眺めている。


「しかし、どういう発想をしたらこんなもの作れるんだ? 1枚の紙から動物の形を作ろうとは普通思わんぞ」


 このままだとこの場が折り紙の評論会になりそうだったので、さっきレベッカと話し合って決めたことをこの場にいる残りの4人に告げる。


「そんなことより、マサキの処遇についてよ。レベッカと話し合ったのだけれど、マサキに悪意はなかったとしてこのまま団員として迎えることにするわ。よろしくて?」


 4人の反応は様々だったが、私の考えに理解を示したようだったので、この場はお開きになった。



 ――余談であるが、結局白い猫の折り紙はマサキの手元に戻ってこなかった。

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