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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
12/38

10話「鑑定スキル」

 冒険者ギルドの中は閑古鳥でも鳴いたかのように閑散としていた。


「あれ? 昨日もこの時間帯に来たけど、人で溢れかえっていたような……」


「遅いっ!!」


 ――っ!?


 突如背後から声を掛けられたのでびっくりして振り返ってみると、そこには不機嫌な顔のオリヴィアさんが立っていた。


「えっと、すみません。装備を買っていたらお昼になってしまって――」


「言い訳はいいわ! とにかく、今日は私たちのギルドメンバーに会ってもらうからついて来なさい。いいわね?」


「はい……」


 とぼとぼとオリヴィアさんの後を付いて行く。


 道理で冒険者ギルドがもぬけの殻なわけだ。


 オリヴィアさんに占拠されていたら閑古鳥も鳴くよ。


 しばらく気まずい雰囲気のまま歩き続けると、喫茶店のような落ち着いた感じの店へと入っていくオリヴィアさん。


 カラン、カランとドアベルが鳴ると、カウンターに立っていたマスターらしき人がこちらに顔を向けた。


「いらっしゃいませ。皆さま揃っておいでですよ」


「ええ。今日は貸し切りにしてもらって悪いわね」


「いえいえ」


 二言三言交わしただけで、オリヴィアさんは奥のテーブルへと向かった。


「お待たせ」


 オリヴィアさんがその場にいた4人の女性に声を掛けた。


「遅いぞオリヴィア……って男!?」


「……っ!?」


「……っ!?」


「……っ!?!?!?」


 4人が4人とも同じ反応でおもろい。


 若干1名過剰反応している子もいるけど。


 男ですがなにか?とか言ったら殴られるかな。


「ごめんなさいレベッカ。このウスノロ、じゃないゴミ虫が防具を買っていたらしくて遅れたの」


 なぜ訂正したし……。


「お待たせしてすみません。なにぶん冒険者になりたてでして。職は治癒師ヒーラーです。至らぬことが多々あるかと思いますが、よろしくお願いします。あと、僕マサキって言います」


 言えたぞ!


 言ってやったぞ!


 名乗ってやったぜ。ははっ。


 なぜか無性にむなしい気持ちになるのは気のせいか。


 ところで、レベッカさんって幹部の方じゃなかったっけ?


「……」


「……」


「……」


「……」


「みんなの気持ちも分かるわ。なんでゴミ虫、いえウジ虫と一時的とはいえ手を組まなければならないのかってね。」


 だからなぜ訂正したし……。


「ごめんなさい。全面的に私の責任だわ。冒険者ギルドで募集したのは治癒師ヒーラーだったし、過去のことがあったからまさか男が来るとは思わなかったわ……」


「いや、オリヴィア。それなら私にも過失がある。募集する内容をしっかり検閲できていなかったわけだからな。」


 完全に男は人類の敵みたいになっていらっしゃるけど大丈夫かこれ……。


「ありがとうレベッカ。私が責任を持って監視するから安心して。じゃあ改めて紹介するわね。彼は昨日付けて臨時入団したマサキよ。色々と思うところはあると思うけど、けじめはつけないとだから、皆にはどうか1ヶ月間耐え忍んで欲しい」


 色々と思うところがあるのは僕の方ですがね……。


「よ、よろしくお願いします」


 ぺこりと一礼すると、今度はこの場にいる女性メンバー4人をオリヴィアさんが紹介し始めた。


「先ほどから私とやりとりをしているのはレベッカ。あなたが所属する後衛部隊の隊長よ。剣の腕なら右に出るものなしね。覚えておきなさい」


 覚えておけというのは隊長であることだろうか、剣の達人であることだろうか。


「はい。よろしくお願いします」


「ああ。よろしく。礼をわきまえているようだが、変な真似をしたら叩き切るからそのつもりでいろ」


 そろそろ泣いていいだろうか……。


「その隣の子がクロエ。同じく後衛部隊班。手を出したら殺すわよ」


 ……。


「よろしくお願いします……」


「……」


 クロエは軽くお辞儀しただけで目を合わせてはくれなかった。


 せっかく可愛い顔しているのに前髪に隠れてしまっているのがもったいない。


「次がルイーズ。同じく後衛部隊班。手を出したら殺すわ」


 もう慣れてきたな。慣れって怖い。


「よろしくお願いします」


「ふんっ」


 ルイーズはお辞儀をすることすら拒否感を覚えているようだ。


 髪はセミロングでカールしていた。なんかザ・お嬢様って感じ。


「最後はローラ。同じく後衛部隊班。……もう言わなくても分かるわね?」


 重々承知致しております。


「よろしくお願いします」


「……あなた何者?」


 え?


 何者と返されるとは思わなかった。


 何者だろう。マサキって言いますけど?


 冒頭で最も過剰反応を示していた子だったが、どこかで会っただろうか。


 金髪ショートの髪で青い目をした西洋風の顔立ち。失礼だがドール人形みたいだ。


「ローラ? どういうこと?」


 オリヴィアさんもローラの発言に違和感を覚えたのだろう。


 どういう意図があったのかと尋ねた。


「彼の能力……おかしい」


「――っ!?」


 鑑定持ちか!? 確かに後方部隊に鑑定持ちがいるって聞いていたけどこの子か!!


 ならどこまで見られているんだ!?


「彼の能力? 鑑定持ちであることは隠しておきなさいって言っておいたけど、もういいわ。話して」


 やめてぇ。見ないでぇ。


 ん?


 見られても問題ないか?


「鑑定スキルにも色々あるのだけれど、私の場合は一定クラスまでの能力名を見ることができるの。一定クラスというのは、私の魔力量で扱えるスキルまでね」


「それで? 彼の能力はヒールじゃないの?」


 オリヴィアさんが急かすように聞くと、じーっとこちらの目を覗き込むようにローラが見つめてくる。


 対して僕は年下の女の子にじーっと見つめられたことがないため照れて視線が彷徨ってしまう。



◆ローラが鑑定スキルで見えている情報◆


冒険者名:マサキ


状態:健康


スキル:????―――ヒール

           ????

           ????

           ????


    生活魔法―――点火

           湧き水

           乾燥

           洗浄

           冷房

           暖房

           発光


    ????―――動物召喚

           ????

           ????

           ????

           

    ????―――????

           ????

           ????

           ????


    ????―――????

           ????

           ????

           ????


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「違う……正確にはヒールだけじゃない・・・・・・。もっと高位の魔法を持っていて、ヒールはその内の1つに過ぎない」


「……つまり、彼はヒール以外にもいくつか回復魔法を使えるってこと? ちょっと! どういうことよ!?」


「えっと……。彼女のご考察通り回復魔法全般使えます。鑑定っていいですね」


 僕も『鑑定』能力欲しいな。


 ちなみに回復魔法は以下の通り4つに大別することができる。


『HP・スタミナ回復系』……ヒールを代表格とし怪我の治癒や疲労回復などが挙げられる。


『状態異常回復系』……毒・麻痺・石化・呪いの解除などが挙げられる。


『再生・矯正系』……部位欠損の再生や適正状態への矯正魔法などが挙げられる。


『浄化・摘出系』……対アンデットの浄化や病原体・異物の摘出が挙げられる。


 さらに細かく分類するなら、上記の4つ種別に加え、効果範囲と効果時間にも違いがある。


 全体魔法もしくは単体魔法、継続魔法もしくは単発魔法といった具合だ。



――閑話休題――



「回復魔法全般って……。あなた何者よ……」


 半信半疑だったオリヴィアさんの顔が、僕の言葉を聞いて驚愕に染まる。


「それだけじゃないっ」


 信じられないものを見ているような顔でローラが声を張り上げる。


「ローラ?」


「それだけじゃない……。彼は回復魔法の他に4つも能力を持ってる!」


「っ……!?」


「っ……!?」


「っ……!?」


「っ……!?」


「っ……!?」←僕


 この場にいる全員が目を見開き、あり得ない者でも見るような視線を僕に向けて来る。


「能力は神が与えて下さるご加護で、1つもらえればそれは至上の賜りもの。本来2つも3つも持つものじゃない。なのに5つも……」


「って、なんであなたまで驚いているのよ!?」


 オリヴィアさんが僕に向かって吠える。


「いや、だって鑑定ってそこまで見えるんだと思って驚いてしまって……」


「否定しないのね。それで? 彼の残りの4つのスキルとやらは何なのローラ?」


「1つは生活魔法。これだけでも一生食べていけるだけの価値がある……。それから、これも高位の魔法だと思うんだけど、召喚系の魔法」


 うへぇ……丸裸じゃん。隠ぺいスキルとか無かったら情報漏洩もはなはだしいな。


「回復魔法、生活魔法、召喚魔法で3つね……。信じられない……。あと2つは?」


「分からない……」


「え?」


「分からないんです! オリヴィア団長! 生活魔法だけは全部見えていますが、それ以外の4つは私なんかじゃ到底扱えないような高位の魔法なんです……。こんなの初めてで……」


 ……。


 場が沈黙に支配される。


 するとどうしたことだろうか。


 なにやら殺気らしきものまで流れてくるではないか。


 こ、これはさっそくローブの能力を使うしかないか?


「あなた隠していたの?」


 これから自分の身を隠そうとはしましたが、隠し事は一切しておりません。


「全くそんなつもりはないです。聞かれなかったですし」


「聞かれなかったから話さなかった? 何を企んでいるの?」


 これはオリヴィアさんの過去のトラウマが発動している予感。


「えっと、何一つ企み事はありません。能力を話さなかった理由は2つあります。説明しても?」


「……」


 沈黙は肯定ととらえます。


「第一に、自分の能力を話しても信じてもらえないということです」


「だろうな……」


 さきほどまで無言だったレベッカさんがオリヴィアさんに代わり相槌を打ってくれた。


「第二に、これはあくまで私見ですが、能力とは秘匿性の高い情報ではありませんか? ギルドメンバーに一時的に入団したからといって、知り合って間もない相手に能力を公開するでしょうか? 保身のためにも、能力の情報は信頼関係が構築されるまで極力伏せるはずです」


 まぁゲームでもそうだしね。


 どこにでもいるんだよね。


 特殊能力や特殊装備を持っていることを嫉妬して攻撃する人間って。


「ごもっともだな……」


「……」


 相変わらずオリヴィアさんは黙ったままだが、レベッカさんはどうやら納得してくれたようだ。


「私は……私は反対ですっ! 危険すぎます。彼は得体が知れません! そんな人をギルドに迎え入れるべきではないと思います!」


「私も反対だわ。お姉様たちに害を及ぼしかねない不穏分子は最初から排除すべきよ」


「……」


 順にローラ、ルイーズが意見を述べ、クロエは黙っている。


 一番の衝撃はルイーズがオリヴィアさんとレベッカさんをお姉様と呼んだことだな。


 今度百合の花でも贈ってあげようか。


「そうね。私も計算外だわ……。とりあえずマサキ、あなたの残りの能力2つを教えなさい」


 オリヴィアさんがそう僕に言ってくるが、答えは決まっている。


「え? いやですけど」


「っ!?」


 別に意趣返しのつもりはなかったが、意図せずオリヴィアさんが以前僕に言ったものと同じようなセリフになってしまった。


 だって、一方的な関係にはなりたくない。


 お互いを尊重し合える関係こそ目指すべきギルドメンバーの在り方だと思う。


「さっきも言ったと思いますけど、僕は信頼できる人にしか教える気はないです」


「いい性格しているわね?」


 ひきつった笑顔を見せるオリヴィアさん。


「お互い様です」


 笑顔で応戦する僕。


 いいぞもっとやれ。


 しかし、そろそろ僕の胃が限界突破しそうだ。


「そう。あなたがそういう態度を取るなら、別に私たちのギルドにあなたはいらな――」


 オリヴィアさんが戦力外通告を申し渡そうとした時、レベッカさんが僕とオリヴィアさんの間に割って入ってきた。


「まぁ、待て待て。落ち着こう、オリヴィア。とりあえず、ちょっとこっち来い」


 そう言ってレベッカさんがオリヴィアさんと連れて離れていく。


 仕方なく残った3人に僕が視線を向けると。


「こっち見ないで」


「お姉様に逆らうなんて有り得ない! 死ねば?」


「……」


 もう誰のセリフかは説明不要だろうか。


 嫌われ者の僕は何を言っても受け入れてもらえないだろう。


 手持無沙汰になったので、空いた椅子に腰かけると折り紙をし始めた。


 折り紙めっちゃいい。


 傷ついた心を癒すり所を見つけたかもしれん。


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