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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
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9話「黒のローブ」

「そして、男を敵と成し、男に付け入る隙を与えないくらい強くなろうと一致団結したギルド、フリージアはこの国でも有数の戦力を誇るギルドになったのでした」


 おとぎ話でも語るかのように締めくくった。


「……」


 冒険者ギルドに居た男たちが居なくなった理由が分かった。


 フリージアとは男性冒険者にとって畏怖の対象だったのだ。


 女性だけで構成されたギルドに男である僕が入団希望を申し出れば、またよからぬことを企てていると勘ぐられても仕方がない。


 過去の事件は内通者の協力を得て犯行に及んでおり、関わった者の末路は聞いた通りだ。


 フリージアに内通者を送ったと取られ、あらぬ免罪をかけられてはたまったものではない。


「お顔が優れませんが、大丈夫ですか?」


「……」


 この状況でお顔が優れる人がいたら呼んできて欲しい。代わってあげるから。


「お待たせ致しました」


「――っ!!」


 透き通った美しい声が冒険者ギルドの入口から聞こえた。


 それはもう惚れ惚れするような綺麗な声だったのだが、僕にとっては今最も聞きたくなかった声であった。


 僕は恐る恐る冒険者ギルドの入口を見る。


 そこにはスカイブルーと評しても良いくらい美しく深い蒼色の髪を背中まで垂らし、純白の装備を身にまとった女性が佇んでいた。


 シルエットだけでも抜群のスタイルを誇っていることが分かる。


 その美の形容詞が途轍もなく似合う女性は、話に出てきたオリヴィアさんその人だった。


「男?」


「……はひっ! すみません。男ですみません」


 僕は男に生まれて来たことをお詫びした。


「一応聞いておくけど……あなた私たちが怖くないの?」


「怖いですけど……。実を言うと、僕はこの国に来てまだ2日と経っていないんです。だからフリージアというギルドを詳しく知ったのも募集を受けた後でして……。はめられたというかなんというか……」


「そう……」


 するとキッと受付の方を睨むオリヴィアさん。


 するとプイッとそっぽを向くエマ。


 もしかしたら受付嬢のエマと知り合いなんだろうか。


 ちなみに故意ではないにしろ、この状況を作り出したエマに僕は敬称を使うのを放棄している。


 相手が年上なら敬うのは当然だと思うけど、エマに対して今後敬語を使っていける自信がない。


「えっと……」


「いいわ。募集には女性限定とは書いてなかったし」


「あ、ありがとうございます。僕はマサキって言いま――」


「期間は1ヶ月! もしも私のギルドの子に手を出したら……分かっているわよね?」


 ひっ……。


 自己紹介も取り合わず、警告をしてくるオリヴィアさん。


「わ、分かっています。公私の区別は付けているつもりですっ!」


「ならいいわ。ところであなた、見た目初心者って感じだけど、中級クラスの治癒魔法は使えるのかしら?」


「あ、はい。それは間違いなく使えます」


 高位の修道士でも治せなかったアーニャちゃんの病気を治せたわけだし。


 おまけに文字通り神スキルだし。


「もしも使えなかったりしたら森に置いていくわね」


「……」


 平然と恐ろしいことを言ってのけるオリヴィアさんに絶句する。


「あとはそうね。あなたは治癒師ヒーラーなのだから戦闘は無理にしても、その初心者丸出しの装備はなんとかなさい。冒険者気取りにしても腰からぶら下げているその剣じゃ護身用にもならないんじゃないかしら? 服もペラペラだし。治癒師ヒーラーなのだから格好悪いと思っても杖を持ちなさい。恰好だけでは冒険者にならなくってよ?」


 おぅおぅ。言いたい放題じゃないか。


 確かに装備はなんとかしようと思っていたけど、パーティに入ってからメンバーに教えてもらう予定だったんだよ。夢だったんだよ!


 そんなに言うのでしたら、コーデを手伝って下さってもよろしくってよ?


「えっと、冒険者に登録したのがついさっきでして。初心者で分からないことだらけなんで、できたら装備のコーデをお願いできないかなぁと――」


「え? いやよ」


「で、ですよね~」


 ですよね~。


「それから知っていると思うけど、うちは30人の大所帯よ。しかも全員女。遠征中あなたには皆と一定距離をとってもらい、行動にも制限をかけるわ」


 ……。


「あなたは非戦闘員としてヒーラーの仕事の他、後方支援と雑用係として働いてもらうわ。後方支援といっても、やることは殿しんがりくらいなものよ」


 殿しんがり……。


 本隊の後退行動の際に敵に本隊の背後を暴露せざるをえないという戦術的に劣勢な状況において、殿は敵の追撃を阻止し、本隊の後退を掩護えんごすることが目的である。そのため本隊から支援や援軍を受けることもできず、限られた戦力で敵の追撃を食い止めなければならない最も危険な任務である。



――閑話休題――



「雑用は主に荷物の運搬と炊事ね。荷物の運搬にはギルドで使用しているマジックバックを貸し出すわ。それから……」


「おおおお! マジックバックってあるんですか!? すげぇ、さすが異世界!! ゲームみたいだ!!」


 興奮した僕はオリヴィアさんが説明し切る前に叫んでしまった。


「異世界? げえむ? ……よくわからないけど、そんなことはどうだっていいわ。炊事に関してだけど、あなたは後衛部隊10人分の炊事を担当なさい。大事なことだから言っておくけど、何か食べるものに異物を入れようだなんて考えないことね。後衛部隊には鑑定持ちの子がいるから。誰が持っているかは言わないわよ?」


 もう完全に敵を見る目してるよオリヴィアさん。男性不信ここに極まれりだな。


「はい。肝に銘じておきます。あと、僕はマサキって――」


「説明は以上よ。今日はこれにて解散。追って連絡は冒険者ギルドを通じて出すから、あなたは毎日ここに顔を出しなさい」


 僕はマサキって言います……。



こうして最悪の顔合わせが終了した僕は、項垂れるように宿屋へと戻り、ベットに倒れ伏した。


 時刻は昼下がり。


 本当はパーティメンバーと仲良くなって、和気あいあいと装備コーデとかしてもらう予定だった時間帯。


 しかし現実は得てしてこんなもの。


 僕は夕食まで不貞寝という名の惰眠を貪った。



――翌朝――



 昨日の午後から不貞寝→やけ食い→不貞寝をローラーし、一晩経つとだいぶ気持ちが楽になっていた。


「よしっ! 気持ちを入れ替えて午前中は防具を見て回るか。一人で……」


 ……いかんいかん。


 まだどこかで引きずっているようだ。


 切り替え切り替え。


 僕は装備を整えるべく『三日月亭』を後にする。


『歓楽区』→『冒険区』


 問題なく内門を通過し、冒険区に到着した僕はまず所持金を確かめる。


 ご利用は計画的に。


 現在の所持金は2,505ヴァルツ。


 フリージアから得られる報酬は1ヶ月後になるから、24日分の宿代は残しておく必要がある。


 1泊あたり20ヴァルツだから24泊だと480ヴァルツ。


 所持金2,505ヴァルツ-宿代480ヴァルツ=予算2,025ヴァルツ


「うーん……。防具の相場とか分からないけど、一式揃えられるかな。2,000ヴァルツあれば宿に100日は泊まれるわけだし、結構な資金……のはず」


 今使える金額を算盤ではじきながら防具屋へ向かう。


 さっそく冒険者ギルドの通りに面した比較的大き目の防具屋へ入った。


「いらっしゃいませ。冒険者の方とお見受けしますが、防具をお探しで?」


 入店と同時に腰を低くした男性店員が声をかけてきた。


 仕事熱心だなぁ。


「はい。冒険者になったばかりなので、手頃なものを探してます」


「さようでございますか。では、比較的安価で丈夫なものがよろしいですな。一応防具の特徴を一覧にしたものがこちらになります。ご参考程度にどうぞ」


 そう言って店員が壁に掛けてある一覧表を指さす。



◇◆◇防具種類◇◆◇


プレート 軽さ★★★

     強度★★★★★

     丈夫★★★

     安さ★


チェーン 軽さ★

     強度★★★★

     丈夫★★

     安さ★★★


レザー  軽さ★★★

     強度★★

     丈夫★★★★

     安さ★★


ローブ  軽さ★★★★★

     強度★

     丈夫★

     安さ★★★★★


★=おすすめ度


※オリハルコン、ミスリル、銅、鉄鉱など素材によって個体差があります。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なるほど……分かりやすいですね」


「ありがとうございます。安さと強度でいくならチェーン。軽さと丈夫さでいくならレザーがオススメですね」


「これ、冒険職によって選ぶ防具変わってきますよね?」


 ゲーム知識そのままに店員に尋ねてみた。


「いやはや、おっしゃる通りでございます。チェーンはその強度と重さから、がたいの良い前衛の盾職や槌職が好んで使います。対してレザーは、万能型といってところでしょうか。前衛の剣職から後衛の弓職まで幅広く好まれております」


「えっと。プレートとローブについては?」


 全く説明してこない2種類の防具について尋ねてみる。


「いやいや、お客様。なりたての冒険者でこの2つの防具を選ぶことはまず無いですよ。まずプレートですが、一覧表に記載した通り、その軽さと強度でもって一番人気の防具になりますが、いかんせん高い! うちで取り扱っている最安値のものでも1万ヴァルツはしますよ」


「そ、それは手が出ませんね……」


「そうでございましょう? そして、ローブに至ってはさらに選ぶことが無いと思います。ローブを選ぶのは魔法使いか治癒師ヒーラーの二択です。前者は貴族くらいなものですが、進むべき道がある貴族はリスクの高い冒険者になりません。後者は教会を出た者くらいですが、教会で教えを学んだ者は、好戦的な冒険者に向いておらず、男性がほとんどおりません」


お金と縁が無さそう(貴族ではない)男である(女ではない)僕を見ながら店員がそう説明してくる。


 この店員の口ぶりから察するに、治癒師ヒーラーの需要ってかなり高いんだろう。


 そして、男の治癒師ヒーラーは壊滅的であると。


 オリヴィアさんもそれを見越して治癒師ヒーラーを募集していたから、まさか男が来るとは思わなかったんだろう。


 そういえば冒険者登録した日に突っかかってきた冒険者も、僕が回復魔法を使えるとは信じてくれなかったっけ。


 ま、そんなことはどうでもいいや。


 ローブなら安くて済みそうだし、オリヴィアさんも『杖持ちなさいよ杖、治癒師ヒーラーでしょう?』とか言っていたしな。


 いや、杖は持たないけど。


 治癒師ヒーラーらしくローブにしよう。


「すみません。実は珍しいかもしれないんですが、僕の職ヒーラーでして。ローブにしようかと思います」


 ポーチから冒険者カードを取り出して店員に見せる。


「なんとっ!? 男性で治癒師ヒーラーとは珍しい!いやはや、でしたらローブでよろしいでしょうな。治癒師ヒーラーは基本的に前に出て戦うことは致しませんので」


 すると店員はよし決まり!といった勢いでローブが並んだコーナーへズンズン進んで行ってしまう。


 僕も遅れないに付いていくと、そこには色とりどりのローブがずらりと並んでいた。


「けが人が治癒師ヒーラーをすぐに見つけられるようにと、最近はカラフルなローブが流行っているんですよ」


「なるほど……オシャレブームですね」


「おしゃ? はて何のことでしょう……。当店では女性の趣味趣向に合わせ、フリルの付いた可愛いデザインから露出が多めのローブまで多数ご用意しております」


 それを僕が着て何になる……。


 目立つカラーがブームであるなら、ギルドメンバーの防具と色が被らないようにしないとだな。


 確かオリヴィアさんは全身真っ白な装備していたっけ。


 白のフリージアは『純潔』って花言葉があるくらいだから、たぶんそれにちなんだのだろうけど。


 となれば黒か。


 いや、決して黒のローブが格好いいから選ぶんじゃないぞ?


 今は目立つ色を選ぶのがブームなんだ。


 断じて中二病的な趣向ではない!!


「黒のローブってありますか?」


「ありますよ。女性が多くて全く売れないカラーなんですよ……」


 すると店員がカラフルなローブが置いてあるゾーンを通り過ぎ、奥まった角に陳列されていた黒のローブを広げて見せてくれた。


「おおおお! なかなか恰好いいじゃないですか」


 前言撤回。


 格好いいわ黒のローブ。


「まぁ、着る人なんて滅多にいませんけどね? 男性ヒーラーなんてお客様くらいですよ」


「これにします! いくらです?」


「え~っと。実はこのローブ元々は結構な上物でして。生地にはユニコーンの毛が使われておりまして、耐熱効果と魔力微増効果があります。おまけにローブに魔力を込めるだけで隠遁ハイドスキルが発動する優れものなんですよ」


 まじか……。


 鑑定スキルが無いから本当にそんな能力が付帯されているのか分からんけど。


 ユニコーンの毛って白じゃないんだ?とか思ったけど。


「もしかして結構高いですか……?」


「まぁ、定価であればプレートと同等の金額になりましょうな」


 それって最低でも1万ヴァルツってこと!?


 そんなお金持ってなくってよ!?


「いやいや! あくまで定価ですよ、お客様。我々も良い物を仕入れたと思ったのですが、あまりに売れなくて持て余していたのです。いい勉強になりましたよ。よろしければ、こちらのローブ1,500ヴァルツでいかがですか?」


「買いますっ!」


 即決だった。


 これで所持金は、2,505ヴァルツ-1,500ヴァルツ=1,005ヴァルツ。


 480ヴァルツは残さないといけないので、残り予算約500ヴァルツ。


 その後、冒険者用の黒のブーツ、ズボン、シャツを着替え用を含めて数着購入。


 さっそくその場で着替えて全身黒づくめの完成だ。


「お似合いですよ、お客様」


「へへっ。ありがとうございます!」


 お世辞とは言え、おだてられて悪い気はしない。


「じゃあこのまま冒険者ギルドに行ってきます!」


「毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」


 気分よく防具屋を後にした僕は冒険者ギルドへと向かった。

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