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七夕

作者: 百眼

「昨日は七夕だったな」

「そうですな、ご隠居」

「皆、七夕の夜は晴れることを望んでいるがな、」

「そりゃあそうですよ、年に一度のことですから」

「そう、年に一度だ」

「でしょ?」

「だからこそ、本当は晴れないほうがいいんじゃあないのかねぇ」

「何でです?」


「そもそもこの二人が何で一年に一度しか会えないのかね?」

「そりゃあ、何でです?アサリの味噌汁で貝殻棄てるときみてぇに教えてくださいよ」

「かいつまんで、か。

 牽牛、彦星じゃな、と織女、これは織姫、は、晴れて夫婦になれたんだが」

「いきなりドラマの最終回みたいなの持ってきましたね」

「かいつまんで話せと言っただろう。まだ先はある。

 夫婦になったのはいいんだが、働き者だった夫婦が」

「より稼ぐために旦那が天の川の向こうに出稼ぎに行ったと」

「そうじゃあない。二人ともめっきり仕事をしなくなってしまった」

「へぇ、また何でです?」

「まあ、そこは我らの与り知らぬところだ。ただな」


「ただ?」

「好いた者同士が晴れて夫婦になった。一つ屋根の下で暮らし始めたんだ

 そりゃあ、お互い湧き上がる情ってぇものがあるだろう」

「情、ですか」

「お前だって、時々女房が色っぽく見えるときはないか?」

「いやぁ、嬶ぁ貰ってこのかたそんなこたぁ……あ、ありました

 俺が呑んで帰ったらちゃぶ台の前に、嬶ぁがこう、横座りになりやがってね、」


「……長くなるかい?」

「あ、いや、この先ぁ照れくさくていけねぇや」

「まあなんとなく想像はつくさ。その時は女房がかわいいと思っただろう?」

「ええ、その晩こさえたのがうちの金太郎で」

「ああ、ごちそうさん。 それが情っていうものだよ

 普段憎まれ口をたたいているお前だってそうなんだ、好いた者同士が一緒にいて御覧」


「好いた者同士が一緒にねぇ、……あ、ああ!」

「まあ、そういうことなんじゃないのかねぇ」

「ああ、そうかそうか。そりゃあ仕事どころじゃねえや」

「そのにやけた顔をどうにかしなさい。 で、」

「で、どうしたんです?」


「天の神様がお怒りになられてな、二人を天の川の両岸に分かれさせた」

「ひでぇことをするもんだね」

「一年互いに一生懸命働けば一度だけ逢わせてやるとな」

「それが七夕の日なんで?」

「そういうことだ。二人は一年一生懸命働いて、やっと逢える日が来るわけだな」


「ご隠居、忘れてるかもしれないから言っておくと、

 それじゃあ何で晴れないほうがいいなんて思うんです?」

「いいかい、一年に一度、好き合った二人が逢える。それが七夕だ」

「そうですよ。目出度い日じゃねぇですか」

「そんな日に雲もなく晴れたらどうかね」

「どうって、どうなんです?」


「好き合う二人が年に一度逢えるというのに、だ。

晴れてるおかげで皆に見られて逢わなければならないのだぞ」

「何かまずいんですか?」

「どう言ったらいいかね。 皆に見られて、いつ情を交わせるんだね

お前だって金太郎坊を拵えるときは二人っきりだっただろう?」

「ぃやだなぁご隠居ォ。恥ずかしいじゃアないですかァン」

「頬を染めるな、頬を。

 そういうわけで、だ。

 七夕の日には、雲でも出てきて二人っきりで逢わせてやるのがいいんじゃぁないかねぇ」

「なるほど。そうかもしれないねぇ」

「東京物語かい。変なところでものを知ってるねお前は」


「そうすると。昨晩は二人ともよほどの情を交わしたんでしょうねぇ、ご隠居」

「?何でだい?」


「昨夜は土砂降りの雨だ」



ちゃんちゃん

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