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思考の向こう側  作者: 見るヨーグルト
本編
9/13

08 それぞれの仕事

この基地に潜り込むのも、そして情報を収集するのもあまりに簡単すぎて逆に不安になってくる。

上司の開発したとあるシステムのおかげもあるが、それにしてもザルだ。日本にいる所長へ有力な情報を送るため、万全な装備と準備を行った結果ではあるのだが。

それでも、先日の新型兵器を用いての戦闘では目を見張る性能と侵攻力を見せつけてくれたので今回の任務は手ごわいものになるだろうと何となく考えていた。

しかし、その基地周辺の民間人として紛れていた関係から、捕虜・もしくはそれに準ずる統治体制をひくかと考えていた。が、圧制するわけでもなく安全安心を保証するとのことだけだった。

どうやら周囲からの目や評価で、そのあたりを縛ろうにも世論のほうを気にしてしまうのは本当だったようで、行商だとか適当な理由で他の現地人に交じり難なく入場許可がもらえてしまう。

親近感や安心感を与えているという部分をうまく抽出して国内・国外ともにうまい宣伝として使う予定なのかもしれない。

まぁ、こちらとしてはありがたい限りだが。

基地の中へ入ってしまえばこっちのもの。あとはPFIと仮名をつけている人間そのものの偽装システムを使い相手に何となく知っている人間だと認識させることができ、それっぽい迷彩服を着用するだけで自由に基地内を跋扈できるようになる。

残念ながら監視カメラやセンサー、その他コンピューター的なシステムを騙せるわけではなく、人間の視覚というインプットをうまく錯覚させる特殊なアイラインや髪質、イヤリング、ネックレスから靴、腕時計もそうだ。そういった細かいところから腕の動きも巧みに使い誤魔化していく。

まれに上手く誤魔化せない場合もあるが、嗅覚からの補助を使えば一発で騙せる。とくに人数が多かったり集まる場所には事前に撒いたりなども必要だ。

もっとも、このシナモンのような独特のにおいを発する装置は人間の脳内のシンボル認証を麻痺させる機能があり、人体に害がないかは知らない。少なくともここ数か月使ってきたり失敗したギフテッドチルドレンでも使用してきたが問題はなさそうだ。将来問題が起こったとしてもそのころには関係ないだろう。

人間にしか作用しないため、より厳重な検査が行われる機密性の高い場所には入れないが、基地の人間とフレンドリーに情報交換するだけでも必要な情報が多角的に統合でき判断ができる。

こうした情報を聞き出すには昔からセオリーがある。

特定のワードを使わないことだ。

聞き出したい情報の質問をあえて口に出さず、回り道をして聞き出す。例でいえば相手のハイスクール時代のあだ名を知りたいとき、ハイスクールとあだ名という言葉を使わずにその情報を聞き出すなどだ。

例はとても簡単な話だが、こういった情報の聞き出し方は、逆に嘘が混じっていないかの判断もつけやすく理にかなっている。こういったことを毎日お遊び感覚で訓練しているのがCIAだとかそういった情報機関などだ。

ただでさえ少しの破綻がこちらの正体を見破る材料になってしまうので、猜疑心や警戒心をできるだけ抱かせたくない。

そういった細かなところも非常に重要だ。だからこそ、内心考えていた「楽勝」という言葉を深く沈め、次のターゲットへと話をかける。

「いや~悪いっすね。操縦についてうわさを聞いて・・・・・・・・・」

そうして、いつものように声をかけて私も仕事を進めた。






この基地には何か潜んでいる。

クスタはそう確信した。

チキンナゲットを左手で口に放り込み、空いた手でテーブルの上に頬杖をついて思考を巡らす。

(どうしてあんなことに?)

食堂の喧騒も適度なBGMに聞こえるほど周囲がぼやけて見える。

(だが、そもそも私が間違っていたのでは?)

しかし、自身の経験から、あの時は最良の選択をしたはずだと考えが落ち着く。

「あら、クスタ珍しい。考え事なんて」

「あんたにゃ私の乙女心はわからんだろうねぇ」

ケインが右斜め後ろから横の席に座りつつ声を変えてくる。それにいつものように軽口で返す。

それと同時に、ぼやけて見えていた視界や周囲の音が波長が合うようにクリアに聞こえてくる。

「なぁ~、どういうわけかこの基地にくせぇ野郎か何かいるみたいなんだよ」

ケインは無表情に見せつつも少し眉を顰め「それって?」と続きを促してきた。

「タクマのこと女にしたやつがいる。ってことよ」

「は?」と発した口は開きっぱなし。

「なんかさ~おかしいんだよねぇ~。夜すれ違ったとき、明らかにこう・・・同族な感じ・・・幸せのありかを見つけた!みたいな安心と幸福に包まれたあの口の形!あぁ~どこで間違ったんだろ・・・」

はぁ、と心底どうでもよさそうなため息と同時に横の人物は立ち去ろうとする。

相談すれば少し楽になったり変わったりするかと思ったが、自分が口から発すれば余計にいら立ちがわいてしまい、さっきから気になっていたことが思わず口からこぼれてしまう。

「あ~誰かシナモンくっせぇなぁ。せっかくのチキンが・・・ったく」

「乙女はそんなこと言わないと思うけど?」

いちいち返さなくてもいいだろ?そう立ち去る背中に声をかけようと思った。

だけど違う。シナモンってこんなにおいか?考えれば考えるほど違和感の原因がわいてくる。そもそもシナモンをスパイスなどに使った料理やスイーツなんてここの食堂にはない。そんなもの軍隊のましてやこんな男くさい所にはあるはずない。いや、あっても今日は少なくとも料理にない。献立は絶対だ。

現地の食材を仕入れたりしているのもあるが、そもそも中国国内では、昔からの大気汚染等の関係でシナモンなどを含む一部急速促進成長改良を受けた食材はこの周辺では栽培されていない。さらに言えばこんな片田舎の村なんかにそんな嗜好品あるわけない。

おかしい。

そもそも、シナモンの臭いだと誤認させられているような不可思議さがある。本当はもっと違うにおいのような。

「まずいぞまずいぞマズイゾ・・・」

このにおい。どこかで嗅いだことある。そう記憶を走査したとき、思い出したくもない一部が脳内に浮かぶ。

寝心地のいいベッド・拘束されてる・針・まずい薬・頭からお尻までを覆う着心地の悪い服・終わらない単調な質問・口角に泡をつけて絶頂している名も知らない横の人物・そんな様々な場面。

それと同時に、「やっぱり・・・ここであってるんだ・・・ここに手掛かりが・・・あるんだ・・・そうだそうだきットソウダ・・・」そう言葉が漏れる。

まさか、本当に何か潜んでいるとは想定外だったが、このまま進めばようやく何かつかめるかもしれない。

「ユアサ所長・・・」

その日はどうしても興奮が収まらず。他のことはどうでもいい、何に悩んでいたかなんて忘れたかのように、ジェイクと補給物資の確認と入庫を行った後、一晩かけて様々な方法で自身を慰め興奮を抑え次の日の仕事に備えた。






彼の仕事は、日本への荷物の運搬だ。他の国々から一旦集められた木材や日用品の運輸通過ターミナルの下っ端。さらに言えばそのCTJロジスティクスパートナーという会社の下っ端という存在が彼。

日々、荷物の仕分けや伝票チェックなど、現地人に任せられないことを任せられている。

「国外勤務は給料はいいんだが、たまには澄んだ空を拝みてぇな・・・日本へ帰って日本人を抱きてぇなぁ」

不満そうな声とは裏腹に、桁の増えた預金通帳と白くて柔らかい女性の肌を想像してかどこか満足そうな表情を浮かべる。

今や、日本と中国の関係は最悪。ただ、どちらも国の中の企業として敵対しているわけではない。

GPSでの再計算現在位置チェックシステムや、高感度IMUによる位置情報割り出しが可能になっても、扱う人間に学がなければ意味がなく、大分簡単に扱えるようになったとはいえ、長距離の輸送コストなどは莫大で必然的に企業力の低い会社は相変わらずここ中国をターミナルとして利用するほか手立てがないのが現状だ。

しかし、彼が仲良くなった、政界で少し力のある中国人から聞きかじった内容だが、今は少しでも汚名を返上するため、世界の警察アメリカさんがついに出張ってきているらしい。

日本人街での暴力沙汰も多くなってきた気がするため、確かに帰国した方がいいかもしれない。そう考えた。

「会社からは後・・・3週間で帰還通告来るはず・・・って!ビザ切れちまってる・・・あー忙しすぎて忘れてた・・・経費で落ちるか・・・?」

普通の就労者や旅行者なら、ビザが切れれば顔面蒼白で即軟禁か強制送還だ。

しかし、彼には頼りにできる知り合いがいる。同業者もたまにやってたりする日常の出来事になるが。

「・・・ええ、そうです、後3週間くらいで・・・ハハ、色々ありがとうございました。では、後はハオランさんを待ってればいいんですね?お手数おかけしますがお願いします。はいでは失礼します」

こっちでのビザの更新はコネクションと金しだいで何とかなってしまうのが壊死した国家たる国家だが、こちらにはありがたい。高級風俗2回分ほどの金がなくなってしまうのが痛いが、経費で落としてもらおう。

誰から教わるわけでもなく、こちらでの仕事が増えれば身に付く技術。4年ほど前の第一期海外勤務でも経験したが、最初はドキドキだったが、きちんと正規の更新判が押されており、帰国も問題なく行えた。

腐敗具合には本当に苦笑いするしかなく。ATMからは偽札が出てきたりもするし、レジではぼられそうになったりまた偽札・・・と日本の常識は悪い意味で通じない国ではある。

しかし、別にすべての人間が腐ってるわけではなく、もちろん悪い奴なんて一部で、変な先入観を持ってしまうのは若干しょうがないが、実際に触れ合うと、基本は人当たりは悪くはないというのが彼のここ1年ちょっとでの経験だ。

しゃべる言語も、英語を使っていれば変に目をつけられることもない。

「ふ~お昼休憩ももう終わりか・・・さて、またチェックだな」

午後から主にチェックしていくのは輸入木材。最近の日本でのエコ建築などという、財布にエコなだけの環境保護団体が推進する事業のおかげで木材の輸入が増えており、彼にはわからないが、一般消費者たちは原産国を気にしているようで北欧系の木材が人気である。

そして、それら環境保護団体は日本の政界にも進出しており、関税やチェックが更にゆるくなっていっている。正直、今も出所のチェックとアイテムIDバーコードチェック、そして、行き先のチェックだけ。

わざわざ中身を空けて確認することなんて気が向いたとき程度。

無駄に高い天井からぶら下がる水銀灯を眺め、鼻歌交じりに積載ウェイティングエリアを練り歩く。

適当に端末を手で遊ばせながら滑り止めの張られたステンレス製の床の上を進み端っこから機械に通していく。

「ん?なんだ?しょっぱなから勘弁しろよ」

今朝辺り、アイテムチェック用の端末がシステム更新されていたが、それのせいだろうか?と彼は首をかしげる。

日課にしている二重チェックでエラーが出る。

「バーコードはスウェーデン製をさしているが、中身のICチップが読み取れないぞ・・・?バージンチップが何でこんなところに?」

他の積荷も走査し、一つの結論に落ち着くと彼は得もいえぬ恐怖から全身を悪寒が襲う。

「どういうことだよ・・・これらは、一旦俺たちの会社の預かり知らないところで中身がいじられてるってことになるよな・・・?」

管理室へ戻って再度明日積む積荷をチェックしなおそう。ついでに端末のチェックも。そう考えた。

しかし、何故だろう。管理室の中に人の気配がする。

いや、人の気配自体は珍しいものではない。同僚もいることがあるのだから。

だが、何かが彼に危険を伝えてくる。

何が?

何かがまずい。

とたんに怖くなり、同僚のいるはずの区画まで行こうと振り返ろうとする。が、視界が真っ暗になると同時に床のステンレス製グレーチングが頬の横にあった。

(何だ・・・?どうなったんだ?)

床の冷たさどころが打ち付けた痛さすらなく、だんだんと首と頭部と顎部分に熱と痺れを感じるも、そういった感覚すら徐々に遠のいていく。

そんな中で日本語が聞こえてきた。

「やっぱり奴らに任せてっと、てっきとうやねぇ。ほんまたまらんすわしっかりデコーディングしとけっつうのに」

「・・・ああ、それに比べてこいつらは優秀っすな。しっかり二重でチェックしてますわ。でも、こまるんだよねぇ・・・気付かなきゃ良かったのに・・・ヘヘ・・・とりまこいつも同じく打ち込んでます・・・ええ」

(電・・・話・・・?越しに何を・・・言ってる?このまま・・・では俺はどうされちまうんだ?)

「ンンン!ウウウン!!」

首から下どころか舌の感覚すらない。

(なんだ・・・・・・頭が・・・)

(ああぁぁ・・・感覚が・・・視界が・・・せ、かいが・・・)

幸か不幸か今後も彼は知ることはない。まさか自社が運搬していたものがとある触媒で、日本へ大打撃を与える引き金になるものだったとは。

さらに、数年前から少しづつそういった荷物を運搬してきたことも知らずあっさりと彼は世界から姿を消した。

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