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思考の向こう側  作者: 見るヨーグルト
本編
3/13

02 侵攻作戦

・・・

・・・・

作戦の進捗は順調に進んでいた。

俺とジェイクは散布剤を空中にばら撒くためのミサイル射出場を”正確”に破壊した。これは今後こちらも使用することを踏まえてのことだ。

当然、敵にとって重要な施設であるここは守りも強固だった、が、2機という少数の機体による的確な制圧は功をそうし、敵の得意とする面での制圧とは違う戦いを与えることに成功しているのだろうか。

もちろん、戦車ならばここまでたどり着けなかっただろうし、航空機は近づけないこともないだろうが多数の犠牲を出すことになっていただろう。また当然、エクソスケルトンだけでは打撃力不足だったに違いない。

(しかし、軍施設付近の民間人に対する温情的処置ねぇ・・・仕方がないか・・・)

いかに敵基地付近に民間拠点がある糞田舎だとはいえ、今や世論は恐ろしい。

少し前まで行われていたロシアとアメリカの中東における代理戦争のやりあいは、ロシアの政治的戦略の成功・・・紛争地の国家主権を守りとおすことにより、サウジアラビアなどの周辺国家はロシアとの金銭的バックを約束したという理由から負けてしまい、警戒されていた国・地域に派遣されていた米軍兵による入国審査ミスを原因としたテロリストたちの集団脱出劇によってあらゆる場所に腫瘍を残す形でアメリカによるオペは終わってしまった。

これによって今や米軍の評価は右肩下がりで何を行っても五十肩だ。そんな下で民間人を誤爆したり強姦したり人質にしようものならば周辺国どころか下手すれば内側から崩壊する可能性もあるだろう。

ちなみに、敵基地付近の町・・・集落程度だが、不当な搾取と脅迫により盾として残されていると一般には報道されているようだ。プロパガンダ的だと考えれるし、現地人のSNSを少しでも調べれば根拠について疑うべき部分が出てきそうだがそこを勘繰るつもりはない。ヒーローが求められているのではなくヒーローになる必要があるからだ。

とまぁ、それらしい思考を表層上で巡らせつつ、次の段階に向け現状について考える。

ジェイクの送ってくれたデータを参考にした散布剤射出ミサイル場への攻撃は、射撃タイミングの同調により、少ない弾数で効果的な打撃を与えられたようだ。そうなれば、火砲やイオン砲台やその他もろもろの狙いが俺たちに集中しすぎないように定期的に飛ばされるミサイルや、ミサイルと何が違うのかわからないほどの無人高速機等のチマチマした嫌がらせももっと多く投入できるようになる。

これでジェイクと俺のチームは役目を半分終えた。あと数十分もすれば散布剤の密度も低下し、航空機ジェットエンジンの不純物遠心分離可能濃度にまで下がるはずだ。

そういえば、散布剤内を飛び回れるロケット推進剤方式の航空機も考えられていたとかなんとか聞いたか、当然ここまで飛んでくるミサイルはロケット推進のものがほとんどで、制空権もしっかり取れれば高高度からの追加支援も受けられるが、散布剤範囲外でのドッグファイトなんて、現に上空でも並行して行われているが想像もしたくない。

ともあれ数分だ、数分もすれば後方主力による航空機の大規模運用が可能になるだろう。そうなれば、不要な被害を出さずに高精度爆撃が可能になり敵軍施設の制圧が行われ、晴れて(?)民衆は解放となる。

そのためには、破壊対象となっているイオン砲台を破壊する必要があり、現状の通り味方への弾道コースの計算補佐を行いつつ施設内へのハッキングを行うことが先決だ。

クスタ機は特に進行が速い為優先して狙われているようだ。後方からの囮ミサイル達が進路を切り開く手助けすら必要ないようなそぶりで進攻している。簡易ステータスの情報によると、機体の状態も十分問題なし。まだ今の距離程度ならば、狙いが正確な分発射後の弾道を見てからでも問題ないだろう。

GPSを用いての相互位置関係取得はほとんど役に立たないので、DTSからのフィードバックとマッピングされている地形からの入力を、データとして上空の散布剤に向け照射し、簡易ステータス等の情報とともにほんの数メガバイトの情報をやり取りしている。

ちなみにこれは、直接光の届く位置に味方がいない場合に行われるここ最近のトレンド的通信方法だ。他の通信手段なんてもってのほかだ。

そんなやり取りを知ってか知らずか、固定砲台は多数のセンサーを用いてこちらを狙ってくる。光学センサもその内だ。高精度な解像度はなにも敵機の発見の為だけではない。

今でこそもう追加製作はかなわないことだが、宇宙空間での無重力環境で作成された超々高精度のレンズ技術や可変ブロック式受光プロセッサからなる敵側の光学センサはすさまじい脅威だ。幸いなのは、空と海と陸でそれぞれのセンサーが偏光システム等の関係で別物であることか。それのおかげで陸上は35kmという我々にも敵にとっても”至近距離”に近づくことができたのだ。

そして、こちらが体感時間を延ばすのであれば、向こうはこちらの動きを予測してくる。

戦争とは常にいたちごっこであり、技術発展の要でもある。

近代戦争にて最初期は収束光による所謂レーザー兵器が猛威を振るっていた。

発射から猶予もなく即着弾。破壊力こそ少ないが、ピンポイントで的確に行われる攻撃は航空機にも、戦車にも、当然歩兵にも有効だった。

バカみたいな方法だが、戦闘機の稼働翼に溶接を行う高等テクニックも報告事例として上がっていた。

しかし、対応策が生まれ、実質的対応が半年後から行われるようになった。耐熱技術として開発過程をちょうど終えたグラファイト研究を根幹とし、数千を超えるグラファイト層が重なった積層グラファイトの塗布である。

皮肉にも収束光技術によるレーザー、超精密分離層式施工技術がブレイクスルーとなり大規模開発ラインの建設も早々に順次行われるようになった。

これにより熱問題により滞っていた各種技術発展。小型で大発電が可能なジェネレータの登場も早まった。

だが、いたちごっこ。

光速には程遠いが、精密で絶大な破壊力はほんの数刻の猶予もなく命中することが可能なイオン式加速砲台が誕生したのだった。いや、それに合わせてセット販売された散布剤も同じく脅威ではあるのだが。

この固定砲台は射撃時にも特殊な動きをしてくる。

航空機が攻めあぐねているのはそのせいだ。先ほど”発射後”と説明したが理由がある。散布剤により飛行区域及び高度が制限された状態の航空機は継続的で瞬発的な動作を苦手としており、高度が取れる状況下であればよけることも可能だろうが、パイロットへの高Gも問題となっている。

遠距離からの操縦は大気に分散された散布剤による妨害で行えず途中に必ず中継器が必要になるし、無人機は遠距離指揮から離れるとハニカムリンク理論による操作乗っ取りやデータの抜き取りも問題となっている。

それに輪をかけて、最終弾道修正の関係で砲口とは絶妙にコースが変わるため、発射の予測が大変難しい。

動きの予測とあったが、スピード、フレーム・機体の歪み、気流、可動部の些細な動きから次に動く軌道を予測する高度なアルゴリズムが組まれている。

そんな状況であるが俺たちも、もちろんこんな固定砲台に対して近づけば近づくほどに発射後の砲弾を確認してからよける動作に入っていては遅い。

その為、弾道修正コイルへの電荷量と発熱量から修正方向や砲弾回転率を計算していく。

そして、現在並行して行っているハッキング。最も確実な方法は砲台の射撃コース計算を”盗み見る”ことだ。

実は敵施設の各砲台はそれぞれスタンドアローンのように見えてそうではない。高射砲、迫撃砲、銃座、大型砲台はそれぞれデータリンクでお互いに標的を認識しあっている。これは効率のためが一番であるが、お互いの制御/処理を分散しあうという目的もある。

効率化を重んじるあまり、つまりは欠点とも言える部分をさらけ出しているのだ。もちろんデータプロテクトの一環でそうやすやすとノゾキができるわけではない・・・が我々には可能だった。

サイドステップに搭載されている単一処理特化生体基盤が人間らしい曖昧さを持ちつつも、超高速でプロテクトを解除しノゾキ見のおぜん立てをしてくれるからだ。

そのためには、データリンクされている砲台へ直接接続が必要にはなってしまうが、今、それも達成された。

「05タクマだ。5基目。ポイントS21ー1の迫撃砲が最もデータリンクのつながりが強そうだ。このまま”先生”に解析を開始させる」

『ジェイク了解。っと有線コードは迷彩養生テープでカモフラージュできたぜ。ケーブル範囲は60mまであるが急な動作はできるだけ控えるようにな。コードリールのベアリングが焼き付いちまう』

まるで宇宙とつながっていそうなほど真っ黒なパイロットスーツ兼、エクソスーツを着用した状態の、現作戦段階でバディであるジェイクが外での作業を終え、自身のサイドステップへ搭乗しながら通信してくる。

そんな無防備な味方をカバーするように対外センサーの反応に穴が開くほど食い入って反応がないかチェックしている。今も3人始末したところだ。現状この施設では戦闘隊員が少ないのか施設が乏しいのかほとんど生身・・・もちろん防弾チョッキを着てはいる…がこちらの弾の着弾による衝撃か堅牢すぎるアーマープレートによってかえって被害が出るように設計された弾丸形状の為か無事無力化できている。

「05タクマ了解。解析終了まで残り5分、プロトコルもリンク系統もきれいに整理されている分基地でやってた試験より早く済みそうだ」

処理の進行具合をHMD越しに確認し搭乗が無事終わった04号機、ジェイク機へ現状を伝える。

と、ジェイクが乗った後のプレシークエンスを終えたタイミングでサイドステップのものではない複数のガスタービン音を複合センサーが捉えた。

ジェイクがコックピットに収まった後でよかったと安堵しつつも標的の概要を捜査する。

音紋を見る限り時代遅れの戦車だろう。こんな状態で陣地も確保している俺たちに攻撃を司令される敵側も正直言ってかわいそうとも思えてしまう。おそらく敵さんはイオン砲台の性能にあぐらをかいて任せていたのだろうしここまで進行されると思っていなかっただろう、一方こちらは攻守どちらにもとりやすい位置を数週間前からずっと考えていた。その結果が見敵必殺の現状に如実に表れていた。

インバータ・コンバータ、リチウムポリマーとナトリウムイオンのハイブリット式バッテリの状態から察するに、サイドステップのハイテンプエキゾーストリサーキュレーションシステム搭載型ガスタービン式ジェネレータのデシベルキラーは現状のままならオフにせずともよさそうだ。

(プロテクト解除まで残り1分か、進行状況と合わせて考えると大分早いくらいだ)

ゆっくりと接地面を考えながら移動し、充出力の兼ね合いと、レールガンの照準システムと折合いをつけて右手のトリガーを握りこむ。ブゥゥンといかにもSFチックなうなり音と、カコッというある意味拍子抜けな音。

ああ、暑そうだな、と着弾した戦車が穴という穴からきれいな火花を散らしながら燃え盛る姿を見て感じ、表層的に考えて、「検出脅威NO・04排除」とつぶやき、次の標的に照準を合わせる。

ジェイクもおそらくそうなのだろう。冷静に対象を排除していく。

『クリア。今ので最後だ。』

「了解。ああ、プロテクト解除から基礎データ吸出しと状況設定、命令系統の確認を完了した。あと30秒ほどで射撃コースバイナリデータの送信が可能だ。作戦通り、そっちにも同時データ照射の設定を頼む」

データ照射用のユニットは起動させたところで外観上変化はないが、分断して進行している隊長機を含むほかの4機と通信ルートが構築されたようだ。ジェイク機との相互通信による橋渡しの強化も問題なし。互いに数字を送りあい解析されたデータの横流しを開始する。

おそらく、向こうの機体のパイロットたちには、HMDに数ミリの誤差もない砲台のリアルタイム射撃軌道が見えるようになったはずだ。発射されてから弾道を見極める計算も必要ない。ただただその線から逃げ続けるだけだ。

(もう少しでこちらの武装の攻撃可能距離だ・・・頑張ってくれ)

こちらの武装が電磁投射砲なのには当然理由がある。弾速の速さと貫通力、そして火薬が不要なところだ。

威力があっても弾速が遅い場合、発射した弾を向こうの接近物迎撃用固定砲台が無効化してしまうためだ。また、貫通力に関しても複合装甲と電界ウォータージャケットによるいくつかの層に分かれて守られているためにこういった武装が必要になったのだ。

(あと少し・・・)

破壊目標達成。その言葉を聞けるまであと数キロメートルだった。数分だった。

ばかな、と思ったし実際声にも出した。

ノゾキ見ている射出コースを何度も確認し直したし、現実感のないふわふわした感覚が脳内を覆い、抑制されるはずの不安が残滓を残すように指先に痺れとして現れる。

『おいこれって・・・嘘だろタクマ!?やつら間に合わせやがったぜこの土壇場で!しかも同時に2つも!!』

ジェイクも気づいたようだ。飄々としている彼にしては珍しい焦燥感を前面に出した切迫したしゃべり方だ。

そう、データ照射しているイオン砲台の射撃コース計算が、射撃ラインが、3つに増えていた。

偏差的に躊躇わず射出された敵の砲弾は、最も近づいていた02号機であるクスタ機に向け射出され、音声データも届かないのに俺は彼の名前を叫んでいた。


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