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思考の向こう側  作者: 見るヨーグルト
本編
2/13

01 人生のターニングポイント

・・

・・・

・・・・

時は4年ほどさかのぼる。

僕がとある事情によりアメリカで生活するようになったころのことだ。

誰も自分を知らない世の中に逃げたかった。日本の超少子高齢化や女尊男卑による今後の不安から解放されたいとかそんな大仰なものではなく、極プライベートでセンシティブな問題のせいだ。

日本国での技術者勢への待遇改善は遅すぎたし、それによってばかばかしい派閥争いやわけのわからない格差も生まれていた。

若者たちが気づいたのが遅かった。決して自分たちが仕事ができないわけじゃない、努力してないから結果が出ないのではない、ただ単純にきちんと評価できる上司というものがどこの業界にも少なくなったせいだ。

自分は自分のことを取り繕うので精一杯で、物理的にも精神的にも窮屈な社会構造はもはややり直しなどきかなさそうだったし、誰も興味がなかったのかもしれない。

でも、これも自分を納得させるための言い訳の一つだ。

最初にも述べた通り、プライベートな問題からだ。それが納得できないからこうして理由付けを行っている。派閥争いで競争に負けた両親。ただでさえ枯れかけた市場からも追い出されてしまった家族を待っていたのは、なかなかに過酷な日々だったしあまり思い出したくもなかった。

毎日喧嘩をする両親は、僕に手こそ上げなかったが次第に放任的になり、技術系の高校を卒業する18歳の時には成人とともに自立の道を進んでいた。僕も関わり合いたくなかっただけなのかもしれない。今更考え直しても無駄なことではあるが。

そんな中、技術職の業界でそこそこ躍進した僕だったが、出る杭は打たれるというか、21歳の有頂天の時期に、当時開発していたFFM、フラットフィットマッスラーと呼ばれる人工筋肉を使用した義手のとある部品の塑性変形表示グラフの関数計算に誤りがあったと指摘されデータの見直しが行われることになり、気づかないうちに責任が僕に回ってきていた。

その時思った、「もしかしたらすべては無意味だったのか」

何ができても当然の社会。世間のため、人のためになることをしてもあたりまえの世界。

何か一つ歯車が狂うと元に戻れない綱渡りな、そんな世の中に。

結局は生産工程での現場監督不行き届きが原因と判明し、僕は裁判にかけられることこそなかったが疲れていた。

当時は精神的疲労をいやしてくれる何かがほしかったとも思う。宗教への異常な酔狂・献身や違法ドラッグによる堕落した生活はこうした精神状態からも生まれてしまうのかもしれない。

今の職場、2040年11月12日より務めることになる”アメリカ陸軍傘下・験兵器実地テスト部隊・NFTT”からの招待メールが遅ければそういったものに縋っていたいただろう。僕はそう考える。

海外の取引先でのやり取りの為に必死に覚えた英語のおかげもあって言語的部分も大丈夫そうだったのも関係あるかな。

まぁ、「君を必要とする職場という」という文章を見て飛び込んだ先がまさか軍だったとは考えもしなかった。施設についた時に少しだけちびってしまったのは誰にも内緒である。

軍に入る前から知っていた。世界は破滅の一途をたどっている。

別に僕は終末論者ではない。現実がそうなのだ。海底資源を巡った領海域の意地の張り合いなど見たくなくても聞こえてきてしまう。

2039年4月に発生した低軌道衛星のケスラーシンドロームは、その軌道上に25基存在していた回収エネルギー射出衛星を23基も破壊した。生き残っているロシア製の射出衛星も、何とか生きていることは望遠カメラで確認できたそうだがそれ以上進展はないらしい。

そして、このエネルギー回収衛星達の射出先。その国家では大体25~35%が衛星からの電力を当てにしていた。主要国家でいえば中国、ロシア、ドイツ、日本、アメリカ等か。

しかし、宇宙開発というものは、準軌道エレベータの完成によってより身近なものになったがやはり基礎技術や宇宙と地上での設備連携の承認等様々な問題がある。

そんななか、東南アジア諸国連合・・・ASEANと日本の共同海底散策は功を奏し、安全かつ大量に海底資源を回収し、エネルギー源にする技術を培っていた。実用化できたのはケスラーシンドロームの起きるほんの数か月前だったはず。原油産出国はその月に最低取引額を更新しつつも未だ親しみのある化石燃料をありがたがる国家へ向け産出し改善する努力を惜しまず、回収エネルギー射出衛星や海底資源と切磋琢磨していた。

だが、中国なんかはこの未曾有の出来事にまさしく恐慌に陥っている。

いや、影響を受けていない国家を数えたほうが少ないだろうか?ともかく、中国は超少子高齢化と生産性の向上のためエネルギー改革を行い続けてきた。すでに大気も土壌も限界が来ていたのも関係があるのか。

国家の使用する35%の電力源を突如として失ったため、すでに耐用年数を過ぎた火力や原子力といった古い施設を持ち出してでもようやく、使用制限のかけられた90%の電力需要を満たすことが可能になったらしい。

もちろんこれは中国に限った話ではない。日本でもアメリカでもその他国家でも似た惨状だ。ただあの国の場合、エネルギー改革を急ぎすぎたのがたまたま運が悪かったのだ。

大気に放出される汚染物質の削減目標は瞬く間に消え去り、発電施設の限界稼働はあと何年持つのか。このままいけば本当に覇権国家同士の戦争につながりかねない。

すでに東南アジアでは、打開策となりえる海底資源をめぐり、東南アジア諸国と中国が軍事衝突している。そして、実質的にASEANのバックには日本とアメリカやEU。中国のバックにはロシアとサウジアラビアなどの石油産出国いう何ともわかりやすい勢力図ができ上がってしまった。

現在のところ先手を打ち優位に立っているASEAN側だが、まだ始まったばかりの戦争は全く先が読めない。

そんな状況で少しでも優位に立てるよう様々な兵器が研究開発されている。

新型兵器試験。預かっている内容は4足型、多用途陸上戦術機動兵器とそのアタッチメントや小型レールガン、貨物懸架装置等の実地での試験。

入隊した2040年から約三年間でようやく実戦で試験的ではあるが配備された。

そしてNFTTで出会いを果たす部隊のみんな。

人事(?)担当のレイドールとの最初の出会いで「軍人ぽいな」と思ったらその通りだったときは戦慄を覚えた。顔や体形が全体的に少し丸いが姿勢の正しさからそう思ったんだっけか。

しょっぱなから「病気持ってる?持ってないなら今晩どう?」と脳が受けとって理解するまで時間のかかるバカみたいな質問をしてきたお調子者のクスタ。レイドールから男しかいないむさい部隊だといわれなければ喉ぼとけでの確認を怠っていたかもしれないほど活発さを肌の色で感じさせる高身長で美しい外見だった。

問題しか起こさないthe問題児ことジェイキンスは合法な薬物パーティやバカらしいとしかいえないような遊びに誘ってくれる面倒見が割といいやつで、黙っていれば吸い込まれるほどきれいな青色の目と通った鼻筋で二枚目なのだが、しゃべりだすと三枚目になる典型的なもったいないイケメン。よくみんなからはジェイクと呼ばれている。

しっかりとした体躯とそこに威圧感を持たせないゆったりとした雰囲気がある、ある意味つかみどころが無い不思議な雰囲気を持ったいろいろな場面で頼れる仲間でみんなからの信頼も厚いルーカス。僕は仕事の面というよりはどちらかというと生活面でよくお世話になった。

不思議な直感を持ち癒し系ボイスでその場にゆったりとした空間をもたらしてくれるケインはクスタとはいつも意地の張り合いなどで仲がいいんだか悪いんだか。見た目も美しい系とは違いかわいい系だ。守ってあげたくなる的なかんじだろうか?しかし、こいつも喉ぼとけ案件だ。トラップに要注意。

そして、われらが隊長ハガー。過去にも様々な功績を残しているはずだが未だに現場から離れないある意味厄介な人扱いをされてたり。だが、実践的で明確な訓練や指導は厳しくもあり、僕らの命を預かることを当然ながら真摯に受け止め、毎日をしっかり生きている。そんな気真面目なひとだ。

ああ、あと整備/開発部門での上司に当たるアランの存在も重要だな。外装を取り外した後の関節構造を飽きるほど見ているはずなのにたまに見とれている姿は変人や変態の域だと思う。でも、基礎技術から応用まで要領よく教えてくれるその姿は教えるのが難しい技術職において尊敬できる人物だな。

他にもたくさんの出会いがあった。いろいろなことを学んだ。自分の生きてきた世界の狭さを感じた。

そして、そんなみんなにもそれぞれつらい過去がることも知った。悲劇のヒロイン気取って落ち込んで、自分が一番努力してるのにとか、自分だけがつらい思いをしてるとかそんな次元の感性ではなかった。

憎み、悲しみ、哀れみ、喜び、すべての感情が入り混じったフラットな声色は、いつ思い出しても肌が泡立つ感覚に襲われる。ある意味狂気の世界に入り込んだ、そんな感じだった。

目的意識。

自分にそれがないわけではない。こうして仲間となったみんなの夢や目標をかなえるため、僕は努力することを決意した。それが僕の目標になった。

幸い、僕には前の職場で培ったFFMの技術的側面での自信があった。実際、機体にマウントされるレールガンの発射時に発生する微振動も張力調整で発生しないようにピット制御の計算表もやり直したし、機械的損耗率も僕だけの功績ではないがアランと一緒に一石投じて5.5%程低減することに成功した。

訓練でも目覚しいとは言えないが平均的な数値より少し上はたたき出したし、最初のサイドステップでの搭乗試験も問題なかったっけ。

思い返してみても長いような短いような濃密な4年間だった。

そんなみんなの想いを、それで成り立っている世界を、守りたい。そして変えたい。救いたい。そう願ったんだったっけ。

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