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思考の向こう側  作者: 見るヨーグルト
本編
1/13

00 プロローグ 

初 投 稿 です。

専門(?)用語に関しては後々小説内でじっくり解説していく予定です。

相当ニッチな内容になっていると思います。

2040年代。

世界はいまだ不可能なことであふれかえっていた。

結局人類はいつまで経っても神の作ったとされる宇宙の定理、その手のひらの上で永遠踊らされているだけ。

新たな大地、摂理に向けた人類の夢。月に作られた3500億ドルのユートピアや、そこを中継施設とした火星への先見団出発など順調に進んでいた。

しかし、宇宙開発という技術の捌け口は現在、原因調査中の低軌道衛星一斉衝突後のケスラーシンドロームにより発生した大量のデブリに閉ざさている。

永遠に地球から出れない可能性が人々の心に不安を孕ませ世論をにぎわす。

その小さなほころびから時間をかけつつも地球というボロボロの布切れをチリチリと分断していく。

いや、結局はそうなっていたのかもしれない。結果が早く来ただけなのか?誰も問いには答えられない。

遅かれ早かれ様々な問題を抱えたこの星は、青い空と海を忘れていただろう。

残り少ない緑の大地のように。

いつだって起こりえた。そしていつだって他人のため、理想のため、未来のため、身を削る者がいた。

この負の螺旋を断ち切れると淡い希望を抱きつつ―



ヘルメットの透過ディスプレイ《H.M.D.(ヘッドマウントディスプレイ)》に映る景色は、脳へのキャリブレーション効果も相まって、実際に見る景色より高精度で美しく思える。

上空はジェットエンジンのタービンブレードや、レシプロ、ロータリーを問わず破壊する為の撒布剤が光を受けて虹色に輝き、何も知らなければ息をのむ美しい光景。

そして、地上に至っては無限軌道式の戦車などをあざ笑うかのごとく起伏と水分を大量に含んだ泥でいっぱいで、双方とも投げ出したままの車両がいくつか見られる。

戦争という国家同士の争いは変化せずとも、兵器の進化によって戦術は変わっていった。

今、自分が搭乗している試験中の兵器も、戦術の変化によって生まれたものである。

"Versatile Land Tactics Mobile weapons"略称はVLTM(多用途陸上戦術機)。俺たちの間での呼称はもっぱら《サイドステップ》だが。

形は攻撃ヘリのローターと尾翼をはずしたものの下に、4本の足をくっつけて両サイド部分に砲塔をつけた感じ。というのが想像しやすいだろうか?

操縦者保護で着用している強化外骨格エクソスーツは、インナースーツとの相性で内装は最高のすわり心地を演出し、ガスタービンからの心躍るような官能的な過給サウンドや、4本ある脚部それぞれが機体を前方に押し出すときのトルク感はたまらない。

いつまでも、こいつを操っていたい、それほどの愛機で名機に仕上がった。

しかし、ここは戦場・・・それも最前線だ。前線基地から離れて310km。今日こそ敵に仇討つべく、仲間の声援に答えるように日の光をなおいっそう浴びながらここまで来た。

今までならその前線基地からこれほど離れて前進することはなく、昨日までは不安で睡眠薬の力を久しぶりにかりなければならないほどに恐怖を感じていた。

しかし今の心に恐怖はない。あるのは任務に対する忠誠のみ。

《サイドステップ》に搭乗する前に投薬されたいつもの薬のおかげだろうか?正確には着用しているエクソスーツのおかげか・・・

そのようなことを分析していると、共に進行中の全機体に向け隊長機から通信が入る。

『もうじき敵固定砲台の測定可能距離から射程範囲内に入っていく。ここからが正念場だ。初心を思い出せ』

『了解』

リーダー機を除く5人分の声がこだまする。

『また、今回のミッション結果、今後の開発費用充填に大いに関わる。いいな?』

『だってよータクマ。給料増えたらようやく欲しいバイクが買えるねぇ?でも、あんたは初陣なんだから余計な色気出しちゃだめよ?』

(お調子者のクスタめ・・・作戦中なのに・・・この場の緊張を和らげるためか?)

「そうだな」

とりあえず、という感じで返答する。

『・・・』

『えっ、そ、それだけ?なに、緊張してんの?』

「そうだな・・・」

反抗期のガキのような素っ気ない生返事をつまらないと思ったのか、集中先を戻したのかわからないが、それ以降話を振って来る気をなくしたようだった。

そんなやり取りを見て能天気なジェイクはまるで緊張など知らないようにクククと引くような笑い声を出している。

(クソ・・・何か知らんが悔しいな・・・自分の緊張具合を、他の皆に見透かされている感じだ・・・)

一番左側を先頭とし、横一文字に並びながら目的地に向け6機編隊で進行している今現在。

本格的な実線で使用されたことの無いテスト機体のため。運用方法も戦闘戦術も構築中で、編隊の組み方等はシミュレータでもっともよい結果が出た方法というだけである。

(今後はもっと効率のよい運用方法が出てくるんだろうか・・・構築する司令部も大変だな・・・)

クスタの軽口のおかげで少し余裕が出たか。自身の状況を判断すると同時に、作戦内容を頭の中でフローチャート式に考える。

作戦の内容は二つの目標。イオン加速式弾体射出砲台一基と、広範囲撒布剤の撒布ミサイル射出場、これらの破壊だ。

俺とジェイクは左にそれつつ部隊を離れ、撒布ミサイル発射場のある山の陰に入り施設を破壊。その後は砲台に肉薄しているであろうほかの4人の弾道計算補佐係、及びバックアップ人員だ。

(ある意味一番簡単で安全な任務であることは間違いないか・・・)

さて、今こうして近づいている俺たちに、死を運ぼうと砲塔を向けている敵砲台。準軌道エレベーター開発時に培ったと思われる技術により、イオン加速による240kmという驚異的な射程と、高精度光学センサーを使った射撃性能を持っている。

幸いなのは、砲塔先端にある砲撃コース最終調整コイルが、イオンの電荷とアークの放出、そしてプラズマ発生による超高温状態に陥り、液体窒素と繊毛式熱交換システムを用いても冷却に約10秒かかることだ。本来、その射出レートを補うため砲台を2個、3個と数を増やすのだろうが、価格の面と生産能力、そして設置にかかる時間の都合で”まだ”一基しか設置されていない。

つまり、攻め込むことができるのは今だけということ。

240kmの射程にしても、地球は丸いので高所からの直線的な射線、及び重力落下を考慮した曲線射撃を行うことになるため、今回からのルートでいけば、射線を遮る山が多いのと、敵光学センサーの設置数と破壊数、それと過去のデータ上約35kmほどからだろうか。

これほどまで近づけるようになるには、多数の犠牲が払われたことは明白で、進行ルートもその都度最善のものになって行ったはず。

思わず、神に対し、散った仲間たちの冥福と、ミッションの成功を祈りそうになる。

しかし、今は神に祈るべきではないことを理解しているつもりだ。信じるべきは神ではなく、左右や後衛の仲間たちなのだから。

そしてついに、《H.M.D.》の表示上では砲台までの距離が35km・・・ついに射程距離へと足を踏み入れる。

『ガァァッァァァァッ!ホーリーシィットッ!ワッタァハップェンド!!』

突然の大声に先ほどまで考えていたものは思考のかなたへ。

今までの経験や訓練のおかげで落ち着きを保ちながら左手の表示切替トリガーを握り、《H.M.D.》のサブ表示切り替えを行う。

どうやら左隣64メートルの距離にいたジェイクが攻撃を受けているようだ。

弾が被弾する前に敵が掘っていた塹壕に丁度よく潜って隠れることができたのか、本人はピンピンして雄たけびを上げており他の隊員も緊張の段階を下げたようだ。鼻で笑っているやつもいる。

(あいつ、何を府抜けてたんだ?というか、ほんとに増槽を爆弾に使おうと思って取っておいたのか・・・しかも!被弾してねぇじゃねぇか!)

ダイアグノーシスコードチェックとステータス表示、バイタル表示をみてあきれ返り、心配の気持ちと一緒にため息を吐く。雄たけびを上げた理由はきっと薬物の幻覚だろうと勝手に自信を納得させることにした。

周囲を一瞥後、敵領内にある散布ミサイル発射場に向かって前進を続ける。

どうやら次の標的は俺のようだ。ヘッドセットからは警告音が発せられ、ミスを誘発させるように自然と興奮が高まってゆく。

後衛の追随カメラ、全天観測カメラ、周囲を計測する複合センサー、そして機体に装備されている単一処理特化生体基盤のデータ処理の後、次の砲撃が迫ることを知らせてくる。

俺とジェイクを優先して狙ったのはブリーフィングでの説明通りだろう。センサーの範囲内から射線の通らない稜線までの距離が短く、優先的に狙われる、と。

(もっとも、そこを乗り越えさえすれば!あとはそこまで苦難はない・・・はず)

しかし、狙いを定められたのなら仕方がない。《N.A.T.S.S.(ナッツ)》を通じて処理装置への負荷を高める。時が止ったかのように走馬灯が巡り、時間が瞬間が引き伸ばされていき、体の神経伝達より早くスーツが動くいつもの感覚。

脳内で自動で行われる下意識での機体コントロールと同時に、もはや自身の筋肉など足かせにしかならない速度で右手側コントロールスティックを右にすばやく倒し、機体の移動を具現入力する。

「グッ・・・」

急な軌道変更は、スーツによってGによる血液の偏りを防止しつつ、操縦者からの確実な操作を受け付けるために体各部にかかる慣性を打ち消す。

視界の端で、先ほどまで進んでいた進行方向で土煙が上がる。さすがの精度だ、敵ながら感心してしまう。

しかし、しつこく俺やジェイクを優先して狙っているのは、もしかしたら、こちらの作戦に少しばかり気づいているか。

とにかく、ここまで地雷を避け、塹壕を飛び越え、バリケードを破壊し敵兵士を吹き飛ばして重火器砲台の銃撃をよけ、ようやくたどり着いた。当然無駄にはできない。

「あと少・・・シッ、くぅ・・・俺のメインは整備士だっつうのに・・・」

さすがにこれ以上連続して高軌道マニューバを繰り返すと後に痛い目を見そうだ。《サイドステップ》のメインフレーム各所に貼り付けられ、ストレス算出用に樹脂コーティングされた織物が拾ってきているデータによると、機体ステータスには目立つ負担は見られないが帰るまで安心はできない。

「まぁ・・・この程度で壊れてもらっては困るがなぁッ・・・」

目的地の小山の稜線までつけば俺の役目は簡単な施設の破壊。その後は後方とのアナログ通信経由と最前線の味方のマニューバ及び弾道計算の補佐のみ。

「ようやく一息・・・っつけるぜ、くそったれのブラックアスホールどもめ。帰ったら長いメンテナンス・・・っだな。ったくよお」

迫りくる銃撃を避けつつ、思わず悪態をついてしまう。

(あと100メートル・・・)

すでに自身の機体は敵砲台から見て小山の稜線に入っており。それを裏付けるように砲台の攻撃は止み、定期的にあぶりだすかのような迫撃砲が降り注ぐだけ。

目的地には、いくつかの敵の姿が見えるがイオン砲台や重火器砲台に比べれば適当にいなせる分、心は余裕だ。

とはいえ、敵の何人かは時代遅れのエクソスーツを着用しており、それ相応の打撃力ある兵器をこちらに向けてくる。

ここに来るまでの時点で、いくつか被弾はしているが、銃撃は複合装甲のサプライヤーの説明通り、積層グラファイトの表面を滑らせ受け流し、グラファイト層を突破した弾丸も、織り目の角度を3次元的に多方向に変更されたカーボンケースにめり込み無力化されているのだろう。ダメージコントロールの警告表示すら出てこない。

当然、機体に影響が出る前に前進しながら排除はする。機体の腹部・・・正確には先端部分に搭載されている機銃に自動迎撃させ道を開く。

(画面越しに人を殺すのは気が楽でいいなど、俺もたいがい慣れてきたなぁ・・・)

遮蔽物ごと敵兵を吹き飛ばす。先ほどまで生物だったことを物語るように、ピンク色にも見えるカラフルな内臓を地面に咲かせている。そんな景色を横目でチェックし、冷静に人を無力化できるようになれた自身の成長に何か重いものを感じつつもさらに前進する。

残り、20、10、0メートル、と次の段取りを想像しながら心でカウントしつつ無事に到着。少し遅れてジェイクも合流したようだ。

自分たち二人はとりあえず一安心だが、他の4人は砲台の無力化のため、今なお、死角の無くなったイオン砲台の砲撃をよけながらじりじりと進行しているはずだ。

いかに最新の複合装甲といえど、あの砲台は打撃力が異なりすぎる。直撃コースに入った場合は、砲弾を着弾寸前で装甲に傾斜角をつけ表面を撫でるように流す。もしくは正面バッテリーの強度に任せ化学爆発が起こらないことか、脚部に当たらないことを願うほかない。

(近づけば近づくほどによけるための処理の負荷は高まる。早くこっちを終わらせて補助処理に回ってあげないとな・・・)

そう思いつつ、情報共有のためジェイクと通信する。

『ようやく、ついたぜぇ・・・またせたなぁ。さっきはちょっと気ぃ抜きすぎてたぜ・・・搭乗前の薬もばっちり効いて最高にハイだったせいかな』

「そうかいそうかい。でも、必要以上に燃料を継いでいた増槽は投機せずに、しっかり抱えたまま来たんだな。でも使う機会ないと思うぞ」

静穏歩行で詳細な現在位置を気付かれないように、稜線に沿って進みながら、現段階でセンサーとカメラが取り入れた大量のデータを処理する。

データの処理は本来、前線基地とデータ共有されているため自分たちでする必要はないのだが、上空の撒布剤によるマルチパスと光線式通信の中継基地が破壊されてしまっていることにより、万全なバックアップが望めない状態にあるため、自身らで行わなければならない。

ちなみに、情報の整理だけはいまだに人間の手によって行うのが一番であり、データの多い現代戦において非常に手間がかかってしまう。

そんな多量のデータの海の中で、できる限り補給設備の被害を避け、撒布ミサイル発射場を叩くのが最良。余裕がある場合は計測器も再利用や情報収集のため破壊しないのが好ましいとされる。

運がよいのか、ジェイクの機体は目標を捉えていたようで、地形図と投影情報に目標位置が追加される。

『遅れてきた分取り戻せたかな。情報整理は部屋の整理と違って体動かさなくていいから楽だぜ』

そういいつつ、まだ慣れてない俺のためか射撃するポイントの座標もわざわざ注意書きとして追加してくれている。

『チラ見せ後のピンポイント射撃、ついで他の脅威の検出だ。気を抜くのはまだ先だぜ』

「タイミングはそっちに合わせる。よろしく任せた」

(先ほどの情けない大声は、本当になんだったのかわからないほど頼りになるな。まさか、あれも、俺の気を紛らわせるため・・・?さすがにないか)

データの相互確認が取れると同時に目標へのアタックを準備。

機体にマウントされたレールガンがうなりをあげる。

『機体に穴をあけずに帰るぜ!』

「ったりめぇだ!」

目標破壊のため、処理装置の負荷を上げる。

再び脳内に過去の記憶がフラッシュバックする。駆け巡る記憶の中に会社員時代だった自分を垣間見た。

(・・・そうだよな・・・まさか俺が、日本とアメリカによる報復・・・中露共同戦線に穴を開ける作戦に参加するようになるとは4年前には夢にも思わなかったな・・・)

・・・・

・・・

・・

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