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第一章 その者、不世出の大器。(3)

ー夕刻。


董卓軍敗残兵が屯する商人屋敷の広間にて宴会が行われていた。


「しっかし兄貴、農民の奴らついに観念したみてえですね。隠し持ってた食料を献上だなんて」


「酒まであるとはな、この様な穀物が特産品の村に。」


兄貴と言われた男は、李訓。

彼は汜水関の戦いにて遊撃部隊500を率いる将だったが、怒涛の勢いで攻めてきた孫堅軍に大敗。

配下を悉く討ち取られながらも必死の思いで戦場を離脱し、この村に逃げ延びてきた。


初めは略奪目的で流れ着いたのが偶々この村であったのだが、戦や訓練のない日々に安らぎすら感じていた。


董卓軍もそんな失踪した李訓を探していた。


しかし李訓は狡猾な男だった。

この村は山に囲まれた天険の地であり洛陽方面から進行する街道は2つしかない。

この道を李訓は落石にて塞ぎ、山頂には常時数名の斥候を配置していた。

村があると認識した時点で、董卓軍から逃れる為にそこまでやったのだ。


かつて徐栄の副将であったがそういった狡賢さと、それを戦場で発揮できない能力不足により嫌われていた。


ここでは俺が王なのだ。

董太子でも天子でもなくこの俺が。


だが李訓は兪瑛という少年の存在を知らなかった。

兪瑛は洛陽方面からこの村に逃れている為に通常ならば村に入ることすらままならない。


見つかっていれば、殺されただろう。

だが秦の時代に開通していた古道を土地勘のない李訓は知らなかった。


農民の手引きもあり兪瑛はその古道を使用しこの村に逃れたのであった。


「ふう、腹一杯だぜ。」「お次はお色遊びといこうじゃねえか」「へへへ、今日はどんな女を食ってやろうかな」「兄貴、ちょいと村を散策してもいいですかい?」


リンリンリンリン……

日は完全に落ち辺りは暗闇に包まれている。


徐々に満腹になり、酔いも回ってきた兵士達は今度は女を、と村に繰り出そうとする。


李訓はこれを相槌で許すと一気に数十名の兵士たちが大騒ぎしながら、広間から出て行く。


彼らは李訓を含めて董卓の元私兵。


西涼という土地で生まれ育った彼らにとって、略奪する事に略奪という感覚はなかった。


戦に勝てばその略奪こそが褒美としてきたからだ。

それは異民族や独立軍閥、侠の者などとの激しい戦いを繰り返してきて生き残ってきた彼ら歴戦の兵の生き甲斐であり戦いのモチベーションだった。


李訓は遠く懐かしい故郷へ思いを馳せていた。


荒れ果てた土地。疲れ切った民。言葉すら通じない異民族達。

今では懐かしくすら感じる。


「西涼は今頃雪かきの時期だよな、手伝いに帰らなかったお前の天命はここで終わりだ。李訓。」


「なにッッッ!?」


大慌てで戸の方に眼を配せるとそこには鋭利さを感じさせる鎧を着た、若武者が槍を携え立っている。


李訓は床に置いていた剣を抜き放ち、飛び退いて間合いを取った。


「俺の名は馬超、…知っているか?」


馬超は槍の切っ先を下段に構え、腰を低くして李訓を睨みつけた。


「聞いたことがある、馬騰の息子がえらい怪力の持ち主らしいと…。

誰の差し金かは知らぬがまだ貴様のような青臭いガキに討たれるほど、俺も弱くはないぞ。

馬超よ、逆に貴様を討ち取り我が名を天下に知らしめてやろう。」


李訓も剣を構える。

それを見た馬超は走り出す。槍五本分の距離。


李訓は構えて動かない。が、若干腰が落ちる。

槍四本分。槍三本分。


ここで馬超は速度をあげて風のような速さで疾駆し始める。

急に速度をあげた馬超に若干怯んだ李訓だが、一瞬で気を取り直し李訓も歩を進める。


槍一本分の距離。来るッ!!

一合目を後方に受け流し、決めるッ!

李訓は想像通り馬超の一合目を受け流して、勝利を確信した。




李訓は一兵卒よりのし上がってきた将の為に戦闘経験が豊富で、実際武勇にも優れていた。

そんな経験や評価から自信もあった。



…が、勝利を確信した瞬間に不可解な現象が李訓に起こる。

馬超の一合目を完全に受け流し、後は首に一閃くれてやるだけの筈が何故か自分は宙を物凄い速さで飛んでいた。


李訓は壁に激突したが勢いは止まらず一面を破壊し、奥の部屋まで吹き飛ばされ、内臓や血管がすべて破壊された様におびただしい量の血を口や鼻、目から吹き出しながら

壊れた人形のように四肢をおかしな方向に折り曲げ死んでいた。


いわゆる、即死。



これは馬超の、必殺とも呼べる当て身によるものだった。

一合目の甘い上段突きは陽動で、この一撃を叩き込むためだけに走り出してから呼吸により勁力を高め、爆発させた。




「見事ですね、馬超殿。」


物陰から兪瑛が顔を出し、勝利に安堵の笑顔を見せる。

万一の時は李訓を射殺すつもりだった兪瑛は、手に持っていた弓と矢を放り投げ、馬超に拍手をしながら歩み寄る。


「何と言うこともない。この程度の将など何処にでもいる。」


実につまらなさそうな顔をする馬超に兪瑛はクスリと笑った。


「馬超殿のその武技、凄まじい威力でした。

馬超殿が洛陽を落とそうとする事があれば衝車は不要ですね、ご自身の身一つで城壁を開けられそうですので」


正直、馬超の強さは兪瑛の想像を遥かに超えていた。

ただ力で圧倒するだけではなく速さで敵を翻弄し、技で勝敗を決した。


「兪瑛、馬鹿を言うな。ぷ、くく…はは」


あれだけ凄まじい強さを見せつけたのにも関わらずコロコロと少年のように馬超は笑った。


「馬超どの、第一目標は成りましたが、次も肝心です。

頭目が死んだからといって彼ら無法者に退いたりする道理はないでしょう。」


「ああ、急ぎ向かうとしよう」


馬超が指笛を鳴らすと、愛馬が走り寄ってくる。

兪瑛は馬超の馬の背に乗り、その場を去って行った。

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