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第一章。その者、不世出の大器。(2)

「一掃ったって、どうやって…」


困惑気味の農民の1人が呟く。


人とは想像の世界に危険かどうかの物差しを置いている。

暴虐の限りを散々尽くされた人々の心は折れ、敵を上回るイメージが出来ずにいた。


これを察した兪瑛は桃の枝を天高く突き出す。

一見大袈裟な身振りと共にさらに続ける。


「ではこの兪瑛、あなた方に策を示しましょう。」


「まず賊の頭数、それから彼らが持つ得物、夕食と女を抱く時間。教えていただけませんか?」


その場に乱暴に座り込むとさらさらとした渇いた土の上に何やら描き始める。


「そ、そんな事言われても……えっと、30人くらいで得物…」


「…やつらは大体50人前後、薙刀のような片手で扱う得物に、夕食は日を沈む寸前。鈴虫が鳴き始めたら女を一斉に襲い出す。」


横から身の丈八尺はある大男、というより少年が割り込んでくる。

一瞬その場にいた全員がびくりとするがその偉丈夫の顔を見ると農民達は胸を撫で下ろした。


「馬超様ー!!」


「お前たち元気か!やっと来る事が出来たぞ!

…だが商人屋敷に居座っている奴らは董卓殿の軍勢か?

前来た時とはえらい違いの荒れようだな…」


馬超、字を孟起。

この村から割と付近である扶風郡茂陵県の人で関中の独立軍閥を率いる名士・馬騰の息子である。


大男からくる想像通り怪力の持ち主でありながら、自らを頭目とする侠の配下数名を引き連れ山賊三十名余りを全員討ち取ったその武勇から、地元の人気者であった。


兪瑛は近隣界隈で生まれ育った者でないがゆえに、その少年・馬超を未だに警戒を解かずにいた。


その様子を見てとった馬超は兪瑛に体を向け笑いながら言う。


「俺は馬超と言うもんだ。

…その様子からするとあんたこの辺の人じゃねえな?

着物も刺繍入りのいいモノを着てやがる。

…洛陽から来たのか?」


「馬超どの、ですか。私は兪瑛と申すものです。

御察しの通り戦禍にある洛陽から、この村に逃げて来ました。」


今の洛陽はまさに汜水関を落とされた董卓軍が厳戒態勢で軍備を整えており、

袁紹率いる反董卓を掲げる連合軍との決戦の火蓋が落とされる寸前であった。


兪瑛はまるで女人のように華奢で戦場で活躍できるような剛勇さなどは見られない。

馬超は兪瑛を財を築いた商人の家の子と見て、必死に洛陽を脱出する姿を想像して、苦労を察したように溜息を吐いた。


「そりゃなかなか難しかっただろうに…よかったら父上に掛け合い、面倒を見て貰ってやろうか?」


兪瑛が商人の子とあれば、助けてやった恩は金で帰ってくるだろうと思惑が沸き起こる馬超。


だが兪瑛はそんな馬超の考えを読み取ったかのように横目で馬超を見つめた。


「私は商人の家の息子ではない為、謝礼に関しては期待は出来ませんので、ここはご遠慮させて頂きます。

それに私は案外狩りを得意としていますので、食べ物には困っておりません。」


馬超はいやらしい考えを読まれた恥ずかしさから違う違うと、首を横に何度も振った。


「そ、それで!あの洛陽から来た負け犬どもをどう討つのだ?

俺もこの村にそういった輩が居座っているのを嗅ぎつけ、ともに侠の道を行く同士らと十名にてはるばる関中より故郷へ帰ったのだ!」


「馬超様も味方してくれるのか!」「やったぜ!!」「勝てる気がしてきた!」


馬超の存在に、農民達もいよいよ意気揚々としてきた。

この男、相当の剛の者なのか。

ならば体力や武勇に自信のない兪瑛は、馬超を指揮による計画を決意した。


桃の枝をくるり、と回し間をあけて兪瑛は話し始める。


「馬超殿の加勢はきっと百人力となるでしょう。

この策には村の男20と女10、馬超殿のお仲間10を動員する事で実行可能です。」



この男、兵術に通じている!



馬超は眼下に座る華奢な少年から放たれる兵法の香りにいち早く気づいた。


馬超と農民は神妙な面構えに変わり、兪瑛の鈴のように響く声を聴いた。


「よい、続けろ」



またも、歴史は揺れようとしていた。


一度目は生まれ得なかった命が芽吹いた時。

二度目は、今である。


世に出る事のなかった大器が今その片鱗を見せようとしていた。

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